饕餮文(読み)とうてつもん

精選版 日本国語大辞典 「饕餮文」の意味・読み・例文・類語

とうてつ‐もん タウテツ‥【饕餮文】

〘名〙 中国古代の装飾文様一つ。主として殷・周の青銅器を飾る怪獣文。大きな口、ひろく見開かれた両眼、巨大な双角をもつ獣面を中心左右相称に配した胴部基本とした図形で、変化に富む。呪術的な意味内容をもつものと考えられている。とうてつ。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「饕餮文」の意味・読み・例文・類語

とうてつ‐もん〔タウテツ‐〕【××餮文】

中国、いん・周代の青銅器などに使われた獣面文様。大きな目と口、曲がった角、つめのある足などを特色とする。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「饕餮文」の意味・わかりやすい解説

饕餮文
とうてつもん

中国、殷(いん)・周時代の、多くは青銅器に表現された怪獣文の一種。獣面紋とよばれることもある。青銅器のほか、骨角器、玉器などにもこの文様がみられることがあり、長期間にわたって愛用された文様である。この命名は宋(そう)代に始まる。呂大臨(りょたいりん)著の『考古図』(1092)の「呂氏春秋」に「周の鼎(てい)に饕餮を著す、首ありて身(からだ)なし、人を食(くら)っていまだ咽(いん)せず、害その身に及ぶ」とあることから名づけられたとあり、今日までこの名称が踏襲されている。この文様は新石器時代晩期の良渚(りょうしょ)文化期までたどれることが知られている。その妖気(ようき)を放つ面貌(めんぼう)は見る人をして畏怖(いふ)せしめるばかりでなく、神々の世界へと誘うごとくである。

[武者 章]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「饕餮文」の意味・わかりやすい解説

饕餮文
とうてつもん
tao-tie-wen

中国の古銅器に見られる獣面文様。饕餮とは,『春秋左氏伝』の杜預の注では,「財を貪(むさぼ)るを饕といい,食を貪るを餮という」とし,また『呂氏春秋』(先識覧)に「周鼎に饕餮を著し,首ありて身なし。人を食いていまだ咽(の)まざるに,害その身に及ぶ」とあり,貪欲に食財を貪る架空の獣の意味。文様の構成は猛獣猛禽類の力強い属性を取り出して合成したもので,この文様の意味は,強力な威力によって邪を避ける力を象徴したものと思われる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典 第2版 「饕餮文」の意味・わかりやすい解説

とうてつもん【饕餮文 tāo tiè wén】

中国,殷・周時代の青銅器に表された怪獣面の文様。《春秋左氏伝》によれば,縉雲氏にできの悪い息子がおり,飲食や財貨をむさぼり,身よりのない者や貧乏人まで苦しめた。そこで人々は彼を饕餮と呼んだという。饕は財貨をむさぼること,餮は飲食をむさぼることを意味する。舜が尭帝の下で実際の行政を担当していたとき,渾敦(こんとん),窮奇(きゆうき),檮杌(とうごつ)ら悪人を世界の果てに追放したが,饕餮もその一人として追放を受け,大地の果てにあって土地の精霊たちが悪さをなすのを防いでいるという。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「饕餮文」の意味・わかりやすい解説

饕餮文【とうてつもん】

中国,殷周時代の青銅器にみられる一種の怪獣文。大きな口,誇張された目,曲がった角などを特徴とする奇怪な獣面を左右対称に表現する。殷周青銅器の基本的文様で,これから【き】竜(きりゅう)文,【き】鳳(きほう)文などが生まれた。

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典内の饕餮文の言及

【殷周美術】より

…最大のものは1974年鄭州張寨発見品中の1点で通高1m,重さ86.4kgある。器腹上部と四脚に饕餮文(とうてつもん)をつけ器腹四周は乳丁文で飾る。青銅容器には他に鬲(れき),尊,觚(こ),斝(か),利器には斧,刀子,鉞,戈,鏃があり,これら青銅器はすべて薄造りで文様は饕餮文のほか弦文,夔文(きもん),雷文がある。…

【青銅器】より

…これらの神像は前の時期と比べて飛躍的に種類が増すが,それらは各種の野生動物から採用された身体部分(牡羊,水牛,野牛等々の角,ミミズクの毛角,虎の耳,象の鼻,毒蛇の頭,猫科の動物の足先,鳥の羽根,嘴等々)のいくつかをもって合成されたもので,後世,とか鳳凰とか呼ばれることになる類である。それらのうち青銅器の上で目だつ部分に大きく扱われる饕餮文は,支配者の族の遠い先祖と信ぜられた天神であり,小さく扱われるのは彼らに臣従する族の祖先神,その支配する土地の自然神の類と考えられる。この時期には図像の表現形式も多様化し,手のかかったものとなる。…

【中国美術】より

…神像や仏像が人間の姿を借りながら人間を超えた力を表すのと同様に,青銅器は神像や仏像の出現する以前に,物そのものの存在感を神的な力にまで高めたものである。青銅器に付せられた牛,虎,象,鴟鴞(しきよう),蟬などの文様は,古代のさまざまな神格を表すものとも考えられ,また各種の抽象的な図形も何か神秘的な力をもつものかもしれぬが,とくに饕餮文(とうてつもん)と呼ばれる大きな目玉を中心とした抽象的な獣面文は青銅器のごく初期からその萌芽があり,しだいに発達してつねに青銅器装飾の中心となっている。また雲雷文と呼ばれる一種の回線文は饕餮文や鳥獣文を浮きたたせる地文になっているが,古いものではむしろ饕餮の体軀そのものを形成している。…

※「饕餮文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

インボイス

送り状。船荷証券,海上保険証券などとともに重要な船積み書類の一つで,売買契約の条件を履行したことを売主が買主に証明した書類。取引貨物の明細書ならびに計算書で,手形金額,保険価額算定の基礎となり,輸入貨...

インボイスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android