翻訳|plateau
高い標高にあり、連続的に広がる平坦(へいたん)面、小起伏面または小階段状地形面からなる平坦な地形をいう。世界的にみると、この地形が分布している所は一般に標高が2000メートル以上にあり、これを下刻している深い峡谷が発達している所が多い。したがって高原の交通は、この峡谷によって制約される場合が多い。
世界の高原は、それらの形態上の特色や周囲の地形との位置的関係から、卓状高原、山間高原、山麓(さんろく)高原の三つに分けられている。
(1)卓状高原は大陸高原ともよばれ、周りの地域の地表よりも相対的に高い標高にあり、テーブル状に広がるものをさしている。アビシニア(エチオピア)、アラビア、ブラジル、イベリア(ヨーロッパ南西端)、ラブラドル(カナダ)などの諸高原がそれである。
(2)山間高原はその周縁を山脈で囲まれたもので、モンゴル、チベット、イランなどの高原がこの典型であり、コロンビア(アメリカ)、メキシコ、アナワク(メキシコ)、アルティプラノ(ボリビア)などもその例である。アルティプラノの標高は4000~5000メートル、その延長は約800キロメートルで、ペルーの南東部からボリビア、アルゼンチンの国境近くに及んでいる。その幅は最大約180キロメートル、面積は約10万平方キロメートルであるこの高原は、東西のコルディエラ山系の間にあるウユニ、アタカマなどの諸盆地とアタカマ高地とを含んでいる。
(3)山麓高原は山地の山麓部にあるもので、コロラド高原(アメリカ)、パタゴニア高原(チリ、アルゼンチンの南部国境付近)などがある。
[有井琢磨]
高原の形成過程は、これを下刻している峡谷の谷壁にみられる地質構造から推定される。高原の地層は、堆積岩(たいせきがん)と溶岩からなる場合がある。前者の場合には、谷壁の下部から上部に向かって順次新しい地層で覆われている露頭が観察され、その一部に小さい褶曲(しゅうきょく)構造や断層変位、不整合などが認められることもある。しかし全体として、地層はほぼ水平に横たわっている。このような事実は、高原を含む広い範囲の地殻が、長い地質時代にわたって造陸運動を受け、一様に隆起して高原面が残留し、継続的下刻によって深い峡谷が形成されたことを物語っている。不整合面の存在から、隆起の停滞期が推定されることもある。コロラド高原やこれを下刻しているコロラド峡谷は、この例である。後者の溶岩からなる高原の例として、アメリカのコロンビア高原(約16万平方キロメートル)やインドのデカン高原(約40万平方キロメートル)などがあげられる。コロンビア高原の最初の溶岩流は約5000万年前に流出し、現在のスネーク川はこの高原を約1600メートルの深さまで刻んでいる。新生代更新世の氷期の氷床は、コロンビア川の流れを現在の流路よりも南方または東方へ押しやった。このときの流れは、現在ドライ・フォールDry Fallとして有名な涸(か)れ谷の崖(がけ)の付近まで南下していた。
世界の大高原の多くは、標高が高くて隔絶性が強く、気候や水資源に恵まれた所が少ない。高原の土地利用はさまざまである。アメリカのグランド・キャニオン国立公園(コロラド高原)は観光地、フーバー・ダム(コロラド川)やグランド・クーリー・ダム(コロンビア川)は多目的ダムとして利用されている。イベリア高原のように、農業的土地利用や鉱物資源の採掘が行われている所もある。一方においては、ラブラドル高原のように土地利用が進んでいない所、モンゴル高原のように粗放的な牧畜、チベット高原のように標高3000メートル以高の土地でヤクの放牧が行われている所もある。
日本には、中国地方の吉備(きび)高原や愛知県の三河高原などがあり、これらは山麓高原に分類されるが、これまで述べてきた外国の地形と比較すると、標高は低く傾斜が急で、面積が小さいなどの諸点で特異な形態といえる。
[有井琢磨]
高原の植生にはいくつかの類型があるが、日本では主として火山の山麓部に発達するものと、山ほど高くはなく地形面が比較的平坦なテーブル状のものとがある。日本の場合には冷温帯から亜高山帯下部の高度に相当するが、基質の状態に応じて植生は異なり、溶岩流上ではアカマツ林、砂礫(されき)質の立地ではススキ草原、ササ草原、カラマツ林、ミズナラ、カエデ類などの落葉広葉樹林になっていることが多い。これらの植生はいずれも、火入れ、刈り取り、放牧などの人為の影響によるものである。火入れが頻繁になるとカシワ林のように耐火性のある群落に、放牧が進むとレンゲツツジ群落のように家畜の食べない群落となる。冷涼で平坦な地形なので排水が悪く、湿性草原になっている所も多い。
[大澤雅彦]
高原にすむ動物はいろいろあるが、脊椎(せきつい)動物は概して森林帯にすむものが多い。哺乳(ほにゅう)類としてはノウサギ、シカ、キツネ、ネズミ、リス、モグラなど。鳥類ではウグイス、ヤマグラ、カッコウ、ノビタキ、ヤマドリなど。爬虫(はちゅう)類ではシマヘビ、ヤマカガシなど。両生類ではアカガエル、アオガエル、ヒキガエルの仲間ぐらいで、湖沼にはサンショウウオがいることもある。昆虫類は、花に集まるヒョウモンチョウやセセリチョウなどの仲間、カミキリムシやタマムシなどの仲間が目だち、湿原にはトンボ類がすむ。
[今泉吉典]
宮崎県南西部、西諸県郡(にしもろかたぐん)にある町。霧島山(きりしまやま)東麓(ろく)に位置する。1934年(昭和9)町制施行。近世高原郷と称し、名のとおり山麓台地面が広がる。西部は霧島山の秀峰高千穂峰(たかちほのみね)(1574メートル)がそびえ、その東麓には霧島最大の火口湖御池(みいけ)(最大水深93.5メートル、平均水深57.7メートル)がある。町内は霧島系溶岩台地と姶良(あいら)火山のシラス台地が広く分布する。JR吉都(きっと)線、国道221号、223号、宮崎自動車道が通り、高原インターチェンジがある。
江戸時代は薩摩藩(さつまはん)領で、西麓(にしふもと)に地頭(じとう)が置かれた。主産業は牧畜と畑作で、宮崎県畜産試験場が設置されている。霧島東神社、狭野神社(さのじんじゃ)が高千穂峰東麓にあり、いずれもかつていくたびかの霧島噴火の際焼失した記録を残す。狭野のスギ並木と狭野神社ブッポウソウ繁殖地は国の天然記念物。湯之元(ゆのもと)、極楽温泉もある。面積85.39平方キロメートル(一部境界未定)、人口8639(2020)。
[横山淳一]
『『高原町史』(1984・高原町)』
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
高度が相対的に大きく起伏の小さい土地の広がりに対して用いられる地形的地域の名称。チベット高原,コロラド高原のように世界地理的な観点で用いられる場合と,志賀高原,那須高原など日本地理的に呼ばれる場合とでは,規模の点でも内容的にもかなり異なったものがある。
日本の中でも高原の名称の付されている地域には少なくとも2種類がある。一つは阿武隈高原,北上高原,美濃三河高原,飛驒高原,吉備高原,石見高原など,その名称が明治以来教科書に取り入れられ,第2次大戦後は国定の自然地域名称として地勢図上などで採用されているものである。ただし阿武隈,北上,飛驒の3者は〈高地〉という呼名に変更された。この場合の高地は,〈二百三高地〉のように用いられる高い地点の意味ではなく,〈高原性山地〉の略称とみられる。もう一つの種類は志賀高原,蓼科高原,久住高原など,高原避暑地の意味を含めた高原で,一般的観光地の呼名でもある。
世界地理的に用いられる高原は英語,フランス語のplateau,ドイツ語のTafellandの訳語であり,大陸台地の意味とほぼ同義である。すなわち古期岩層のほぼ水平な地層から成る広い卓状の台地が基準的地形であり,標高1000~5000mの高い位置にある。高原は周辺の山脈との関係位置からチベット高原,コロンビア高原,コロラド高原のような大山脈に挟まれた〈山間高原〉,リャノ・エスタカード高原(テキサス州)のような山脈と平野の中間にある〈山麓高原〉,インドのデカン高原のような周辺を低地に囲まれた〈卓状高原〉の3種類に分けられる。これらの区分は便宜的であるが,いずれの高原も造山地帯に隣接した位置で造陸運動を被ってきた部分にあたる。削剝・開析の結果,水平層の台地塊が分散するものや,広範囲にわたり平たんなもの,波浪状の小起伏が広がるもの,あるいは広く溶岩に覆われるものなどがあって,局地的な地形の性質は必ずしも一定しない。デカン高原,コロンビア高原は広域に噴出した溶岩が最上層を覆う溶岩台地でもある。デカン高原は東ガーツ山脈と西ガーツ山脈に縁取られ,アナワク(メキシコ)高原は東・西シエラ・マドレ山脈により同様に縁取られている。これら大陸台地の高原はほとんどが内陸にあり,乾燥または半乾燥気候下にあって植生はステップ,サバンナあるいは砂漠の状態を示す所が多い。
一方,日本でいう高原のうち吉備高原,阿武隈高地など山地性のものは,比較的広い地域を占める波状の小起伏地に特色があり,これが河谷に刻まれて中山性山地の様相を呈している。地形学的には旧期の準平原または山麓階が開析されたものと解釈されている。これらは山林や牛馬の放牧地として利用される傾向が古くからあった。志賀,蓼科,久住,那須高原など高原避暑地的な高原はほとんどが火山地域の裾野にあたり1000mを上下する海抜高度に位置する。避暑地,観光保養地としての利用は明治期に始まり,近年とくにこれらの高原に盛んとなっているが,蔬菜生産を主とした高冷地農業や酪農も戦後定着するようになった。
執筆者:式 正英
宮崎県南西部,西諸県(にしもろかた)郡の町。人口1万0000(2010)。霧島山麓にあり,中央部を高崎川が東流する。JR吉都線,国道223号線が通じ,宮崎自動車道の高原インターチェンジがある。主産業は農業で,米作,畜産,園芸を中心に行われる。西部の高原一帯は集約酪農地域に指定され,県総合農業試験場酪農支場(現,県畜産試験場本場)や県立高原畜産高校がある。宮崎神宮の別宮であった狭野神社があり,境内の杉並木(天)はブッポウソウの繁殖地(天)として知られる。西部一帯は霧島屋久国立公園に属し,火口湖の御池や霧島山登山の基地となっている蓮太郎温泉,湯ノ元温泉がある。
執筆者:萩原 毅
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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