日本大百科全書(ニッポニカ) 「鬼瓦(狂言)」の意味・わかりやすい解説
鬼瓦(狂言)
おにがわら
狂言の曲名。大名狂言。領地争いの訴訟のため長期在京中の田舎(いなか)大名(シテ)が、すべてうまくかたづいたので、太郎冠者(たろうかじゃ)を連れて日ごろ信仰する因幡薬師(いなばやくし)へお礼参りにやってくる。帰ったら御堂(みどう)を建立し薬師如来(にょらい)をお招きしたいものと、参考に建物のあちこちを見て回るうち、大名がふと屋根の鬼瓦に目を留め、国元に置いてきた女房の顔そっくりだとおいおい泣き出す。もうすぐ会えるではないかという太郎冠者の慰めに気を取り直し、2人でめでたくどっと笑って終曲。これといった筋立ても機知に富んだ会話もないが、大名の温かい心根がほのぼのと伝わってくる愛すべき小品である。
[油谷光雄]