「日葡辞書」では、漢音読みのキシンと呉音読みのキジンとでは意味が異なっているとする。すなわち、キシンは神になった死者の魂をいい、神と悪魔をいうのに対して、キジンは悪魔だけを指すという。
死者の霊魂を神として祀(まつ)ったものをいう。これを「きじん」ともいうが、その場合は荒々しい鬼の意として使われることが多い。オニガミということばは恐ろしい神の意とされている。『古今和歌集』の仮名序に「力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ……」と書かれている。鬼神という語は中国より伝来したもので、その意義は多様である。祖先または死者の霊魂をいうが、幽冥界(ゆうめいかい)にあって人生を主宰する神ともされており、さらに妖怪変化(ようかいへんげ)ともみられている。中国の古典にはいろいろと鬼神のことが述べられている。たとえば『礼記(らいき)』には鬼神が天地、陰陽(いんよう)あるいは山川と連想されたり、併称されたりしている。そして鬼神を祀ることが礼であるという。この鬼神の語がわが国に移入されたのであるが、鬼は一般に妖怪のように悪者とされている。鬼退治の伝説、昔話が多く語られている。大江山の酒呑童子(しゅてんどうじ)や桃太郎の昔話などでよく知られている。しかしその一方に、戦場に赴く者が「死して護国の鬼とならん」などというのは、中国の鬼神と相通じるものがあり、人の過去帳に載るのを「鬼籍に入る」という漢語表現も使用されているのである。
[大藤時彦]
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…1800年(寛政12)刊。近世思想史上の一争点であった〈鬼神〉の存在について,人間の生死を〈陰〉〈陽〉二気の集合離散と見る立場から,人間の死後,〈陰〉は〈鬼〉,〈陽〉は〈神〉となって天地に帰ると合理的に説明しているが,一面では超自然の怪異もみとめている。ために後年,山片蟠桃(やまがたばんとう)の《夢の代》の無鬼論,平田篤胤(あつたね)の《鬼神新論》の有鬼論の双方から批判された。…
…これが自然と人間の精神の同質性,あるいは類似性という中国古典思想の根本であり,後世,詩画による山水への逃避,人間世界を超えた理想郷を胸中に現出させたところの山水臥遊の精神に受けつがれるのである。 このような神仙生活の場に登場したのが鬼神であり,山や川,沼や池はもとより,天地にはそれぞれの神が宿る。ところが孔子によれば〈君子は鬼神を敬して遠ざけ〉てしまう。…
※「鬼神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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