精選版 日本国語大辞典 「鶏卵」の意味・読み・例文・類語
けい‐らん【鶏卵】
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ニワトリの卵。卵がいつごろから食べられたかということはよくわからない。ニワトリの飼育が始まったときからとも考えられるが、日本では、信仰的な見地から卵もあまり食べられなかったようである。しかし、安土(あづち)桃山時代になると、南蛮菓子の渡来とともに、その材料として卵も使われるようになった。中国との交流によって砂糖が入り、安土時代になると南蛮貿易が開始され、砂糖の輸入量が激増している。これに伴って、カステラ、ボーロなどがつくられるようになった。カステラには鶏卵が多く使われる。江戸時代に入ると、徳川将軍の日常の食事に鶏卵などがみられる。たとえば『千代田城大奥』によると、一例として朝食の一の膳(ぜん)には、蒸飯(むしめし)、落玉子(おとしたまご)のみそ汁、その他が、二の膳には、卵焼きに干海苔(ほしのり)を巻いたお外(そと)の物、その他が出されたと記されている。また同じく江戸時代の天明(てんめい)年間(1781~89)になると、卵の入った海苔巻きや卵焼きもできている。しかし本当に卵が普及したのは明治以後である。
西欧では、ギリシア時代に、小鳥の脳、卵、ワイン、香料をバラの花といっしょにすりつぶして油で揚げた、手のこんだ料理がすでに食卓にあがっていた。11世紀ごろになると、カトリック信仰から、金曜日に肉を食べるのを忌み、僧侶(そうりょ)は卵料理を研究し、金曜日には肉のかわりに食卓に出したといわれる。18世紀ごろになると、イースター(キリスト教の復活祭)の行事とともに卵が使われた。すなわち、復活祭のときに、卵を金色に塗って食卓に出した。19世紀末になるとカクテルが発明され、これに卵も使用されるようになった。
[河野友美]
卵は大きく分けて、卵黄、卵白、卵殻の3部よりなっている。卵殻の厚さは、ニワトリの種類、季節、栄養状態などによっても変化するが、0.26~0.36ミリメートルである。卵殻の表面には気孔とよばれる小孔が無数にあり、この気孔は、新鮮な間はクチクラとよばれる薄膜で保護されている。しかしクチクラは乾燥するとはがれやすく、産卵後日数がたつとクチクラがはがれて気孔が露出し微生物が卵内に侵入するようになる。古くなった卵が腐敗するのはこのためである。卵殻膜は内卵殻膜と外卵殻膜の2層からなっている。2層の膜は鈍端部では分かれているが、他の部分では二つ密着している。この二つの膜で囲まれている空間を気室という。気室は、産卵直後の温かい卵には認められないが、卵が冷却され、内容物が収縮すると生じる。貯蔵しておくと、卵内容物の水分が蒸発するため、気室の容積はますます増加する。したがって、古い卵ほど気室が大きい。卵の鮮度をみる透視法は、この気室の大きさを卵を明かりに透かしてみて判定する。卵黄は、比較的色の白い白色卵黄と、黄色の濃い黄色卵黄の2層からなっている。卵黄の表面は薄くてじょうぶな卵黄膜で包まれている。このため、割った卵であっても、卵黄をそのまま電子レンジで加熱すると、できた水蒸気が卵黄膜によって閉じ込められ、一定の圧になると破裂し、卵が飛び散ることになる。小さい卵ほど卵黄の占める割合が大きい傾向にある。卵白は粘性の高い濃厚卵白と、粘性の低い水様卵白よりできている。水様卵白はさらに内水様卵白と外水様卵白に分かれる。卵黄のすぐ周囲にあるのが内水様卵白、次を取り巻いているのが濃厚卵白、さらにその外側にあるのが外水様卵白である。卵黄の両端には、カラザという白色不透明の糸状のものがある。カラザのもう一方の端は濃厚卵白についていて、卵黄を一定の位置に保つ。胚盤(はいばん)は卵黄表面にある径2~3ミリメートルの白い部分で、有精卵では分裂成長する部分、無精卵では卵核のあったところである。胚盤から卵黄に向かい細長く伸びている白い部分はラテブラという。
[河野友美]
鶏卵は、主要なタンパク質食料の一つとして大きな価値のあるところから、欧米ではその生産に力を入れてきた。日本も、第二次世界大戦後、鶏卵の生産は飛躍的に増加し、それに伴って消費量も増大している。とくに、アメリカから導入された大量養鶏の手法により、多量の鶏卵生産が可能となった。世界的にみると、第一の生産国はアメリカである。
鶏卵は、そのまま食品として市場に出るもののほか、食品工業用としての利用も多い。たとえば、マヨネーズ、ドレッシング、菓子類では鶏卵は主要な材料の一つである。菓子原料としては、冷凍液卵なども使用される。液卵は、砂糖を加えることで冷凍による変化が防げる。
[河野友美]
鶏卵は、殻を除いた全卵の36%が卵黄で、64%が卵白である。卵黄のタンパク質はリポビテレニンlipovitellenin、リポビテリンlipovitellinとよばれる2種のリポタンパク質がその約76%を占める。リポタンパク質と結合している脂質の大部分はリン脂体(主としてレシチン)である。このリン脂体と結合したタンパク質は、脂肪の乳化力が強い。この性質を利用したのがマヨネーズである。卵黄中のビタミンは、脂溶性ビタミンであるA、D、Eが多く、ビタミンCはほとんど存在しない。また卵黄の黄色い色素はカロチノイド系のカロチンとキサントフィルである。これらの色素は、ニワトリが食べる餌(えさ)中に含まれるカロチノイド色素が卵に移行したものである。化学的に安定なカロチノイド化合物を飼料に混ぜ、卵黄の色を濃くしていることも多い。卵黄の色が濃いということは、カロチノイドが多く含まれていることであるが、これを食べた場合ビタミンAの効果が大きいとは限らない。一方、卵黄の色の薄い卵は、ビタミンAが少ないということではない。飼料の中にビタミンAを添加しておけば、色は白くてもAの多い卵ができる。また、ヨード、ビタミンEを多くした卵もある。卵黄中には、リン、鉄、ビタミンB2の多いことが特徴である。
卵白の成分は水分とタンパク質が主で、卵白タンパク質は卵白の乾燥物中で約82%もある。そのタンパク質はアルブミンalbuminからなっている。その代表的なものはオボアルブミン75%、オボムコイド13%、オボムチン7%、コンアルブミン3%、オボグロビン2%である。
[河野友美]
卵の栄養でもっとも特筆すべきはタンパク質である。鶏卵1個に約6グラムのタンパク質を含み、たいへん質がよい。とくにわれわれの日常食において不足しがちな必須(ひっす)アミノ酸のうち、リジン、メチオニン、トリプトファンが多く、理想的なタンパク質といえる。そのうえ、必須アミノ酸含有比率は、人体にとって理想的なものにたいへん近い。すなわち、タンパク質の栄養的な価値を表すアミノ酸価では、鶏卵は100(最高が100)である。また、卵の脂肪はよく乳化されているので、消化吸収もよい。リン脂体の主成分であるレシチンは、肝臓の脂肪を取り除く働きをする。このほか、ビタミンA、D、Eや、リン、鉄、カルシウムなどが含まれている。なお、コレステロールが卵に含まれているが、卵黄中の脂質レシチンが、血中コレステロール値を減らすような働きをするため、血中コレステロール値は上昇しにくい。卵の消化は卵黄、卵白によって、また調理法によって異なる。調理法による消化率は、半熟卵、生卵、卵焼き、ゆで卵(全熟)の順に悪くなる。なお、生卵は、卵白中にトリプシン抑制物質があり、小腸における消化を阻害するため、消化がよくないといわれるが、実際にはあまり大きな差はない。
[河野友美]
自然の状態の新鮮な卵は殻がたいへんざらざらしている。反対に古いものはつやがあって滑らかである。ただ、洗浄したものは新しくても殻のざらついていないものがある。また、電灯の光に透かしてみると、内部が半透明で明るいのが新鮮である。古い卵ほど気室が大きくなるため、黒っぽい影が動く。割ったとき黄身が盛り上がり、濃黄色で、箸(はし)で挟んでも膜が切れにくいものが新鮮である。黄身が崩れているのは古く、腐敗していることが多い。新しいものほど、ゆでたものは殻がむきにくい。卵の鮮度を判別するもっとも正確な方法は割卵による。卵を平板上に割卵して、卵白および卵黄の状態から卵の品質を判定する。卵黄については卵黄係数、卵白については卵白係数の測定を行う。
卵が古くなるにしたがって卵黄係数も卵白係数も小さくなる。卵黄係数が小さくなるのは、浸透圧で水分が卵白より卵黄へ移るためである。卵白係数が小さくなるのは、濃厚卵白が水様化したためで、割ったとき卵が平らになるからである。新鮮なものはこんもりと盛り上がっている。濃厚卵白の水様化とは、卵が古くなるにしたがって、濃厚卵白が破れて水様卵白が増加することである。
[河野友美]
『今井忠平著『鶏卵の知識 その保蔵と加工の科学』(1983・食品化学新聞社)』▽『浅野悠輔・石原良三編著『光琳テクノブックス3 卵――その化学と加工技術』(1985・光琳)』▽『今井忠平・南羽悦悟・栗原健志著『タマゴの知識』改訂増補版(1995・幸書房)』
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…動物の雌が体外に産み出す卵子のこと。卵細胞は動物の諸細胞の中で最大で,とくに鳥類の卵は大きく,最小のハチドリの1種の卵でも1.2cm×0.8cm,最大のダチョウ卵に至っては16cm×12cmもの大きさがある。鳥類では,体の大きな鳥ほど大きな卵を産む傾向がある。ただし,体重に対する卵重の比は,大きな鳥ほど小さくなる傾向がある。体外に産み出される卵は,外敵からの保護や乾燥の防止などのために,膜membraneや殻shellによっておおわれていることが多い。…
…同一種の動植物において,生殖に関与する配偶子に形態学,生理学的な差が認められ,2種類以上のものが区別される場合に,それらを異型配偶子と呼ぶ。異型配偶子は形の大小にしたがって,それぞれ大配偶子,小配偶子と名づけられているが,大配偶子は一般に運動性をもたず,細胞質内には栄養物質を多量に有し,卵または卵子と呼ばれる。これに対して小配偶子は運動性に富み,細胞質はほとんどなく,細胞のほとんどすべてが細胞核成分と,運動のための小器官で占められていて,精子と呼ばれる。…
…すなわち,大きな卵を産むものほど産卵数は少ない。鶏卵産卵【樋口 広芳】
【象徴,民俗】
卵は西洋の象徴体系において,しばしば宇宙の原初状態を表現し,その場合は〈宇宙卵Cosmic egg〉と呼ばれる。錬金術では宇宙霊が封じこめられている混沌(カオス)を意味し,これをプリマ・マテリア(第1質料),すなわち宇宙創造の原物質とみなす。…
…新大陸諸国の例外はニュージーランドで,ここは国土面積がそう広くはないのに人間の5倍もの家畜を飼っており,面積当り家畜密度はヨーロッパなみになっている。 これらの家畜が供給する畜産物には,羊から得られる羊毛,牛などからとる牛皮などといった非食料生産物もあるが,大部分は牛乳,肉,鶏卵などの食料生産物である。畜産食料品は人間の栄養上重要な役割を果たす動物性タンパク質の供給源であり,欧米諸国では動物性タンパク質のほとんど(90%以上)を畜産物からとっている。…
…しかし,神事に関係する鳥や家禽に対しては特別な感情が働き,これを食べることは忌避されてきた。たとえば,鶏肉,鶏卵を食するのを禁じてきた地方は,最近まで各所に見られた。日本人がどのような場合に肉食を忌避したかは,他の動物の場合とあわせて考察する必要がある。…
…鶏卵や鶏肉などニワトリの生産物を利用するためニワトリを飼養することをいう。飼い方により平飼い養鶏,ケージ養鶏,バタリー養鶏あるいは庭先養鶏などと区分することもあるが,生産目的によって分類すれば採卵養鶏とブロイラー養鶏とに大別され,それぞれはさらに種鶏生産と実用鶏飼育に区分される。…
※「鶏卵」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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