ニワトリは、いまでも東南アジアの原生林に生息する野鶏が約6000年前ころから家禽(かきん)化されたもので、東南アジア、南アジアから中近東や中国を経て全世界に普及した。この間おもに中国、ヨーロッパ諸国、アメリカなどで改良され、数百種類の鶏種が作出されてきた。
[駒井 亨]
世界中で飼育されているニワトリの種類は、卵用種、卵肉兼用種、肉用種に大別されるが、愛玩(あいがん)・観賞用の鶏種も多数飼育されている。もっとも多数飼育されているのは、卵用種では白色レグホン、卵肉兼用種ではロードアイランドレッド、肉用種では白色コーニッシュ雄と白色プリマスロック雌との交雑種である。
1998年時点で世界中で飼われている採卵鶏は約35億羽、また1年間に生産される肉用鶏(主としてブロイラー)は約400億羽に上る。
[駒井 亨]
鶏肉は宗教的な禁忌がまったくないので、世界のあらゆる民族、国家で日常的に消費されているが、1998年時点で、国民1人当りの年間消費量(骨付肉重量)がとくに多い国は、アメリカ(44キログラム)、クウェート(41キログラム)、イスラエル(40キログラム)、ドミニカ(38キログラム)、キプロス(35キログラム)などである。日本は15キログラムで、全食肉消費量の3分の1を占める。世界の1人当り平均年間消費量は約10キログラムで、毎年4~5%ずつ増加している。
[駒井 亨]
日本では昔から鶏肉は骨を外した皮つき肉(正肉)の形で料理されることが多く、胸肉や、もも肉一枚の形や色から「かしわ(柏の葉)」とよばれたともいわれている。
第二次世界大戦後、急速に発達したブロイラー産業によって、1980年代まで日本の鶏肉は大部分がブロイラーであったが、1990年代以降、需要の多様化、高級化に対応して、ブロイラー用の鶏種を特別の飼料で飼育したり、長期間飼育した「銘柄鶏」や在来鶏種を利用した「地鶏」などの生産が増加し、1999年(平成11)時点で、国内産の鶏肉はブロイラー肉45%、輸入ブロイラー肉35%、銘柄鶏肉14%、地鶏肉1%、成鶏肉(採卵鶏の廃鶏で主として加工原料)5%の割合となっている。
[駒井 亨]
ブロイラーの肉はやわらかく、味が淡白なため、焼き鳥、から揚げ、フライ、バーベキューなどに適しており、ブロイラーより飼育日数の長い銘柄鶏や、さらに長期間飼育した地鶏は肉の中にエキス(遊離アミノ酸やイノシン酸などの呈味=うまみ成分)が多く、肉がやや硬いので、シチュー、煮物、鍋料理に適している。約20か月齢前後の成鶏(採卵鶏の廃鶏)は肉、皮ともに硬いので、ソーセージ、ミートボールなどの加工品原料となる。
正肉以外の副産品では、焼きものに適した骨付手羽(てば)、煮物に適した肝(きも)(肝臓および心臓)、揚げものに適した砂肝(すなぎも)(筋胃)などがある。
[駒井 亨]
鶏肉は鮮度が最重要視されるが、これは鶏肉の熟成時間が短いこと(処理後24時間以内)と酸化しやすい脂肪(不飽和脂肪酸)が多いことによる。しかし鮮度がよければよいほど肉質、肉味がよいというわけではなく、死後硬直中の鶏肉は硬くてまずい。鶏肉は死後(処理後)8~24時間経過すると、イノシン酸や遊離アミノ酸などの呈味成分が増えて味がよくなり、死後硬直も解けて肉がやわらかくなる。したがって鶏肉は処理後8~24時間に調理するのがもっともよく、低温(0℃前後)で貯蔵した場合でも、48~72時間以内に消費することが望ましい。また胸肉は処理後すぐに脱骨解体すると肉が硬くなるので、胸肉をおいしく食べるためには、丸どりのまま8時間前後冷蔵した後に解体することが望ましい。
[駒井 亨]
鶏肉は一般に、日齢が進むほど水分がやや少なくなり、肉が硬くなる。また同じ鶏肉でも胸肉ともも肉(脚の肉)では成分が異なる。若どりの胸肉(皮なし)は、タンパク質22.9%、脂質2.4%であるのに対して、もも肉(皮なし)は、タンパク質18%、脂質7.4%で、もも肉は脂肪が多いために味が濃く、胸肉は脂肪が少ないために味が淡白とみられているが、肉そのものの呈味成分(イノシン酸やアミノ酸)は胸肉のほうがむしろ多く、鶏の胸肉のアミノ酸組成はカツオに近似している。
魚貝類の消費の多い日本では、魚肉に類似した淡白な胸肉よりも牛肉に類似した風味をもち脂肪の多いもも肉が好まれる。一方、牛肉の消費量の多い欧米ではまったく逆に胸肉が選好される。東京市場での卸売価格は、胸肉はもも肉の半値であるが、ニューヨーク市場では胸肉の卸売価格はもも肉の2~3倍もしている。
[駒井 亨]
安価で大量に安定供給される鶏肉は、どのような料理、味つけにも適していることも手伝って、外食産業、とくにファストフードやフィンガーフード(たとえばフライドチキンなど)の食材として大量に利用されている。フライドチキン、焼き鳥、から揚げなどはその代表的なもので、日本の場合、外食産業での鶏肉消費は鶏肉全消費量の6割を占めるといわれている。家庭での調理用の生鮮肉需要は約3割で、残りの1割は加工食品原料である。
最近は鶏肉(主としてブロイラー)の輸入が増えて、国内の鶏肉流通量の約35%を占めるに至っている。輸入鶏肉は外食産業の食材や加工食品原料として利用され、小売店頭で生鮮肉として販売されることはほとんどないといわれているが、タイ、ブラジル、中国などから半製品や調製品として輸入されるものもある(たとえば焼き鳥など)。
[駒井 亨]
〈けいにく〉ともいう。ニワトリは古代ペルシアや古代ギリシア・ローマ,そして古代ゲルマン人も,太陽の象徴として考え,食用にはしなかった。ニワトリの肉や卵を食用とするために飼育するようになったのは,西欧では中世以降である。中国では周の時代の庖人(ほうじん)がつかさどる六畜(ウマ,ウシ,ヒツジ,ブタ,イヌ,ニワトリ)の中に含まれているので,この時代には食用になっていた。日本へはニワトリは弥生文化期ころに中国から入ってきたと考えられる。天の岩屋戸の神話の中でニワトリは夜明けの象徴として現れており,日本でもニワトリは太陽の象徴として考えられていた。日本最初の殺生禁断令である天武天皇の詔勅(675年)には〈牛馬犬猿鶏の宍(しし)(肉のこと)を食うことなかれ〉とあるので,この時代には食用にされていたと考えられる。
日本で第2次大戦前からあった鶏肉は〈かしわ〉と称される成鶏肉で,大部分が採卵鶏の廃鶏肉であった。昭和30年代に入ってアメリカの影響で肉用若鶏,いわゆる〈ブロイラー〉の飼育が盛んとなり,アメリカから原種鶏,原種卵が輸入された。これらは肉用に高度に選抜された品種(白色コーニッシュ種,白色プリマスロック種,ニューハンプシャー種,横斑プリマスロック種などとその一代雑種)で,産肉性に優れた特徴をもっている。このため,日本に昔からあった名古屋種などの在来種は採算が合わず激減し,1965年にはブロイラーの生産量が成鶏肉の生産量を追い越した。ブロイラーはその肉が柔らかくて食べやすいこと,耐病性に優れて増産が容易であること,価格が安いことなどが食肉の消費の増大の要求によくマッチして,その生産は年々著しい増加を示している。しかし約70日飼育のブロイラーは,その味において,従来のいわゆる〈かしわ〉の味,ないしは日本に昔からあったニワトリの品種の味のおいしさに劣ると考えられている。表に示したように,ブロイラーと成鶏肉の化学的組成はその水分と脂肪含量において差が著しく,これがブロイラー肉がぱさぱさして味にこくが少ない原因であると思われる。
肉用に供するニワトリは,屠畜(とちく)場で屠殺解体されるウシ,ブタなどの家畜とは異なって,食鳥処理場で屠殺解体される。最初ニワトリはコンベヤベルトに,首を下に足を上にしてつるされる。ついで電気刺激で失神させ,頸動脈を切って放血する。次に60~65℃の湯槽に40~60秒間浸けてから,ゴム製の突起をもった回転する二つのドラムの間を通過させる。それによって羽毛がゴム製の突起に打たれ抜羽する。ついで総排出腔の周囲を円状にくりぬいて,腸,胃,肝臓,肺,気管,食道などの内臓を,体腔を切り開くことなくトンネル状に取り除く(中ぬきという)。次に塩素水で屠体を洗って体重別に等級をつけ,プラスチックのフィルムで屠体を包んでから冷却する。また,長期の保存のためには冷風冷凍する。鶏肉は食鳥処理場で屠殺解体されるから,屠畜検査員の検査は必要でなく,一般の食品と同様に食品衛生監視員の監督下にある。
食鶏の解体品には次の4種類がある。(1)中ぬき 屠体から内臓を除いたもの,さらに頭と足を除いたものなど3種類ある。(2)部分肉 手羽,胸,ももの3種類がある。(3)正肉 部分肉から骨,腱を取り除いたもの。(4)その他 ささみ(深胸筋),きも(肝臓と心臓)とすなぎも(筋胃と腺胃),皮,あぶらとがら(小肉を取り除いた骨),もつ。
鶏肉の脂肪の脂肪酸構成はオレイン酸,リノール酸,パルミチン酸がおもなもので,構成脂肪酸の不飽和度が高くきわめて軟質である。なお,鶏肉を用いた料理については,〈鳥料理〉の項目を参照されたい。
執筆者:森田 重広
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…しかし,神事に関係する鳥や家禽に対しては特別な感情が働き,これを食べることは忌避されてきた。たとえば,鶏肉,鶏卵を食するのを禁じてきた地方は,最近まで各所に見られた。日本人がどのような場合に肉食を忌避したかは,他の動物の場合とあわせて考察する必要がある。…
…日本最初の殺生禁断令である天武天皇の詔勅(675年)には〈牛馬犬猿鶏の宍(しし)(肉のこと)を食うことなかれ〉とあるので,この時代には食用にされていたと考えられる。 日本で第2次大戦前からあった鶏肉は〈かしわ〉と称される成鶏肉で,大部分が採卵鶏の廃鶏肉であった。昭和30年代に入ってアメリカの影響で肉用若鶏,いわゆる〈ブロイラー〉の飼育が盛んとなり,アメリカから原種鶏,原種卵が輸入された。…
…鶏卵や鶏肉などニワトリの生産物を利用するためニワトリを飼養することをいう。飼い方により平飼い養鶏,ケージ養鶏,バタリー養鶏あるいは庭先養鶏などと区分することもあるが,生産目的によって分類すれば採卵養鶏とブロイラー養鶏とに大別され,それぞれはさらに種鶏生産と実用鶏飼育に区分される。…
※「鶏肉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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