くろ・い【黒】
① 黒の色をしている。墨の色である。
※
古事記(712)上・
歌謡「ぬばたまの 久路岐
(クロキ)御衣
(みけし)を ま具
(つぶさ)に 取り装
(よそ)ひ」
② 濃い紫、にび
いろなどの黒っぽく暗い感じのする色である。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「
御手の綾の単衣のくろきよりさしいで給へる、いと美しげにおはす」
③ 肌が日に焼けている色である。
※古今著聞集(1254)五「都にありながら、此歌をいださむ事念なしと思て、人にもしられず久しく籠り居て、色をくろく日にあたりなして後」
④ きたない。よごれている。
※
徒然草(1331頃)一七五「年老いたる
法師召し出されて、くろくきたなき身を肩抜ぎて、目もあてられずすぢりたるを」
※宇津保(970‐999頃)祭の使「昨日今日入学して、くろしあかしのさとりなきが」
⑥ その道に老練である。くろうとである。
※
浄瑠璃・奥州安達原(1762)一「お前方は素人
(しらうと)、慮外ながら文学の友三というて、ずんと黒い男」
⑦ 粋
(いき)である。また、
人情に通じてものわかりがよい。
※浄瑠璃・太平記菊水之巻(1759)三「
大黒の文字は大きに黒い、おれを粋ぢゃといふ心、
趣向どふもいへぬ」
※
人情本・恋の
花染(1832‐34)初「二人一緒に
縄縛(から)げ、知県所
(だいくゎんしょ)へ引き摺り出し、白いか黒いか分けやせう」
くろ‐げ
〘形動〙
くろ‐さ
〘名〙
くろ‐み
〘名〙
くろ【黒】
〘名〙
① 色の名。
木炭や墨のような色。白に対する。
多く「
黒髪」「黒馬」「
黒土」のように熟して用いられる。→
黒い。
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)下「たちまちびんひげのくろを抜ひて、白きを残せり」
※源平盛衰記(14C前)三六「此の黒
(クロ)は今度の
上洛に、鎌倉殿より得給へり」
※格五新譜(1844‐54頃か)布勢巻「三の手、黒中の筋を打てば、四と
中筋にて対ゑる事定勢と心得べし」
※婦人養草(1689)五「なべはくろと、
かまはくろと」
⑦ 容疑者に犯罪の事実があること、また、その人をいう俗語。⇔
白。
※未完の告白(1948)〈川本不二雄〉「私はさいしょから平沢を〝黒〟と睨んでゐました」
⑧ 無政府主義、または無政府主義者の俗称。
⑨ 黒札(白に黒い字で記す自家用車の番号札)の略で、自家用車をいう。〔新しい言葉の泉(1928)〕
⑩ 牛をいう沖言葉。〔分類漁村語彙(1938)〕
⑪ 海苔(のり)養殖業者が、アサクサノリをさしていう語。
[語誌]色名としては「あか(赤)」と同じく複合語として用いられることが多い。赤が明るさについていうことから派生したように、「くらし(暗)」と同源で、本来は暗い状態を表わす語から発したと考えられる。
くろ・める【黒】
〘他マ下一〙 くろ・む 〘他マ下二〙
① 黒くする。黒く染める。黒くぬりつぶす。
※落窪(10C後)三「薪(たきぎ)には、蘇芳(すはう)をわりて、少し色くろめて、組して結ひたりける」
② 黒くしてわからなくする。まぎらし隠す。ごまかす。とりつくろう。
※俳諧・毛吹草(1638)五「散花の跡をくろむる茂り哉〈昌意〉」
③ (「後をくろめる」の形で) 戦いのとき、背後を固める。後方を守る。
※天草本伊曾保(1593)鳥と、獣の事「ヲノヲノ アトヲ curomesaxerareito(クロメサセラレイト) サモ タノモシゲニ」
④ (「身をくろめる」の形で) くらしを立てる。何とか生活のできるようにする。
※浮世草子・風流今平家(1703)五「おのれが身をくろめんが為、年季の内にもとでをくすね、自分に小見世をはり」
⑤ (「座をくろめる」などの形で) その座をとりつくろう。
※歌舞伎・伊達競阿国戯場(1778)大序「こりゃお前の禿衆を一寸貸して下さりませ、せめて禿衆で座敷をくろめたうござります」
くろ・む【黒】
[1] 〘自マ四〙
① 黒くなる。古びたり、よごれたり、日に焼けたりして黒みを帯びる。
※聖語蔵本願経四分律平安初期点(810頃)「風に飃(ふか)れ、日に暴(さら)され、形体は黒(クロミ)廋(く)け、剥げ裂け仏の所(みもと)に往詣して」
② (「身がくろむ」の形で) 暮らしが立つ。何とか生活ができるようになる。
※浮世草子・西鶴織留(1694)六「夫婦の人の心さへ変らずは、互に身のくろみて後、又ひとつの寄相ひ成事」
③ (「座がくろむ」などの形で) その座がうまくとりつくろわれる。また、安泰になる。
※葉隠(1716頃)一「身を擲(なげうち)て居る御家来は無二他事一者也。一、三人あれば、御所労黒むもの也」
くろま・る【黒】
〘自ラ四〙
① 物が黒くなる。黒みを帯びる。黒む。
※帰省(1890)〈宮崎湖処子〉五「養蚕は父と弟に任せて専ら織焉(おること)のみに急ぎつつ、烟筒も亦黒まりぬ」
② 何とか生活ができる。
※浮世草子・世間妾形気(1767)三「からるるだけはかりまして成りとも、お身のくろまる御恩報じが致しましたい」
くろま・す【黒】
〘他サ四〙
① 黒くする。黒々としたさまにする。
※栄花(1028‐92頃)玉の飾「一品宮の御服やつれもいとあはれに心苦しう〈略〉女房・宮司など、皆いとくろましたり」
② ごまかす。紛らわしくする。
※浄瑠璃・生写朝顔話(1832)浜松の段「偽(いつは)りすかして帰さんと、猶しも声をくろまして」
こく【黒】
〘名〙
① くろい色。
※雲形本狂言・富士松(室町末‐近世初)「御句に青(しゃう)・黄(わう)・赤(しゃく)・白(びゃく)・黒(コク)、をなさると見えてござるが」
② くろみをおびたもの。くろっぽい色。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「黒」の意味・読み・例文・類語
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黒
くろ
まったく光のない状態が完全な黒であるとされているが、この状態ではなにも感じられない。実際には、わずかの光を一様に反射するものを黒として見ているといってよい。黒は、じみで、暗く、重々しい、沈んだ、やや静的といった印象がもたれる。また、どちらかといえば男性的で、はっきりした感じをもつ。黒からの連想は、タイヤ、モーニング、黒髪など、黒色であるものが多い。また、抽象的なものとしては、不安、死、不気味、陰気、孤独といったように、暗闇(くらやみ)などと結び付きやすいものが連想されている。罪、恐怖などといったものとも結び付きやすい。
黒に対しての好みは、成人においては比較的高い。一方、子供の場合には、嫌いな色としてよく指摘されている。黒の連想はあまり快適なものではないようであるが、実際に服などに使用するとその印象が変わってくる。立体的なもの、動きが入るもので黒の場合には、光の状況により微妙に変化して見える。このため実際に使用すると、ニュアンスのある色として感じられる。黒は白とともに無彩色の代表とも考えられるが、人間の目が、暗いほうの明るさの変化に敏感であるため、わずかな光の反射の違いが、黒を微妙に変化させる。したがって、シックな感じをもたせることが往々にしてある。
黒はまた重厚感を生じさせる。これは、色彩のなかでもっとも明度が低いことに対応している。黒は連想、象徴されるものが、暗闇などから感じるものと類似しているため、表に出ないで、陰でいろいろなことをする場合などの表現としても使われている。黒幕、黒衣(くろご)ということばなどその例であろう。ほかに、黒と白の両方を使い、黒白をはっきりさせるなどともいう。黒そのもののイメージと、実際に用いられたときがかなり異なるのも黒の特色であろう。
[相馬一郎]
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くろ【黒】
色名の一つ。英名はブラック(black)。JISの色彩規格では、そのまま「黒」としている。一般に「炭のように黒い」「墨のように黒い」という表現をするが、いずれも黒に近い色であって純粋な「黒」ではない。すべての光を完全に吸収できるような黒い物質は存在しないとされている。したがって、色名としての黒は他の色の概念で例えようがなく、黒は黒となってしまう。黒系統の総称としての意味合いが強い。また、黒は無彩色であり、白の対語。この黒と白はもっとも古く発生した色名の概念とされる。中国から伝えられた五行説では「木火土金水」の「水」に相当し、季節では冬を表す。この場合は「玄」と表記され、冬の異称を玄冬という。またファッションで黒はお洒落しゃれな色の一つだが、黒という言葉で何かを形容するときは「黒社会」「黒幕」「腹黒い」「黒星」などマイナスイメージになることが多い。
出典 講談社色名がわかる辞典について 情報
くろ【黒】
色名の一つ。日本工業規格(JIS)では,10種の有彩色,5種の無彩色の計15色名を基本色名として定めているが,黒は無彩色の基本色名の一つである。無彩色だから明度(色の3属性の一つで,色の明るさを表す)によって規定され,黒は明度0である。
[象徴としての黒]
くろい意を表す漢字は黒のほかに玄があり,古くはむしろこちらのほうが多く使われた。玄の字は黒い糸を束ねた形で,かすかで見にくいところから天の色とされ,また北方の色とされた。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
世界大百科事典内の黒の言及
【色】より
…動物の場合は色を見ることのできる目をもつものは少ないといわれる。身近なものでネコやイヌやウシなど,白黒の世界に生きている。色覚色彩調節
〔色の科学〕
人間は幸いにして色を見ることができるので,色から得ている恩恵は非常に大きい。…
【コウモリ(蝙蝠)】より
…これはさらにダンテの《神曲》によって,コウモリの翼をもつ魔王サタンの姿に定着された。錬金術のシンボルとしてはカラスとともに黒(原質)を示し,両性具有の寓意にも用いられた。これを吉兆とする習俗もないわけではなく,降下してくるコウモリにぶつかれば幸運に恵まれるといわれる。…
【染色】より
…
[飛鳥・奈良時代]
こうした染色技術の進展は,603年(推古11)に始まった冠位制の設定などを契機に,いっそうの発展をみたと考えられる。冠位制では,位によって異なる色相の絁(あしぎぬ)の冠を授けて身分の上下を示したが,この年制定の冠位十二階では紫,青,赤,黄,白,黒の6色が配されていた。また衣服の色も,冠と同じ色が用いられた。…
※「黒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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