〘自ラ五(四)〙 (「いらせらる」が変化して、四段化したもの)
[一] 「入る」の尊敬語から転じた、「行く」「来る」「居る」の意の尊敬語。おいでになる。
① 「行く」の尊敬語。
※
洒落本・廓通遊子(1798)
発端「すぐに御二階へいらっしゃりまし」
② 「来る」の尊敬語。
※洒落本・廓通遊子(1798)発端「どなたもよふいらっしゃりました。きつひ御見かぎりでござります」
③ 「居る」の尊敬語。
※洒落本・南門鼠(1800)「今日はお宿にいらっしゃりますか」
※桑の実(1913)〈
鈴木三重吉〉五「お母さまのいらっしゃらない小さい坊ちゃんは」
[二] 補助動詞として用いられる。動作、作用、状態の継続・
進行の意で、その動作の主に当たる人に対する尊敬を表わす。江戸期では主として女性用語。
(イ) 動詞の連用形に、助詞「て(で)」を添えた形に付く。「ている」の尊敬語。
※洒落本・角雞卵(1784か)後夜の手管「『粂といふが、こんやきてるだろう』『ハイきていらっしゃいます』」
(ロ) 形容詞の連用形、またはそれに助詞「て」を添えた形に付く。
※
人情本・花筐(1841)五「マア御機嫌よくって入らっしゃるのでございませうネ」
(ハ) 動作性、状態性などの
名詞、または形容動詞語幹(いずれも主として
敬意の
接頭語の付いたもの)に、「で」または「に」を添えた形に付く。「である」の尊敬語。
※人情本・英対暖語(1838)二「
アレもう貴君
(あなた)は平気でいらっしゃるヨ。お憎らしい」
※火の柱(1904)〈
木下尚江〉一七「阿父
(おとっさん)は
屈指の
紳商で在
(イラ)っしゃるのですから」
[語誌](1)上方からでなく、江戸で生じたとされるが、江戸期では江戸でも例は少なく「おいでなさる」「…なさる」の方が有力である。ただ「滑稽本・
浮世風呂‐二」に言語使用者の品格のよさを印象づける例があり、敬意の高いことばであったことがうかがえる。
(2)明治期には二〇年代以降小説に多用されるようになり、明治末期から大正期にかけて、数量的にも用法的にも、ほぼ現在と同じような情況が出来上がっていたとみられる。
(3)「た」「て」に続くとき、「いらっしっ」「いらしっ」「いらっし」「いらし」などの形をとる場合がある。「今日はどっちへいらっしったへ」〔洒落本‐猫謝羅子〕、「何処へいらしたか存んじません」〔花間鶯〈末広鉄腸〉中〕など。