改訂新版 世界大百科事典 「お家物」の意味・わかりやすい解説
お家物 (おいえもの)
〈お家騒動物〉〈お家狂言〉ともいう。歌舞伎・人形浄瑠璃の一系統。江戸時代の大名・旗本家の内で起きた事件を扱う狂言の総称。多くは,お家を横領しようと図る〈叔父敵(おじがたき)〉らの悪人,暗愚な若殿,これを阻止する忠臣らがあい乱れて争い,その葛藤を芯に劇化したものである。野郎歌舞伎時代からすでに発達し,京坂・江戸ともに盛行した。江戸期には実際に起きた御家騒動を脚色上演することは法令により厳禁されていたため,北条・足利・織田・今川などの世界に置きかえて韜晦(とうかい)してきたため,〈時代物〉として扱われる例が多いが,幕末から明治へかけて禁令のゆるみとともに,実録本や講釈種の脚本もかなり現出した。一,二の代表例として《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》(伊達騒動),《加賀見山旧錦絵(かがみやまこきようのにしきえ)》(加賀騒動),《軍術出口柳(ぐんじゆつでぐちのやなぎ)》(柳沢騒動)などがあげられる。これらの分野の狂言は〈仇討物〉〈怪談物〉とも関連し,さらに大正以降,新聞小説の劇化,また新歌舞伎,新派劇などに伝統が引き継がれた。
執筆者:小池 章太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報