硬骨魚綱スズキ目アジ科アジ亜科に属する海水魚。日本では伊豆諸島、小笠原(おがさわら)諸島、駿河(するが)湾、宮崎県、南西諸島などに分布しているが、全世界の熱帯・亜熱帯海域に広く分布する。体は楕円(だえん)形で側扁(そくへん)し、背側の外郭は強く湾曲し、腹側では緩い。頭部の前縁の傾斜は急で、目の前でわずかにくぼむ。吻端(ふんたん)は鈍く、吻長は眼径より長い。目に脂瞼(しけん)(目の周囲や表面を覆っている透明の膜)が発達し、瞳孔(どうこう)の後半部を覆う。上顎(じょうがく)の後端は目の中央部の下に達する。上顎には外側に1列の強い犬歯状の歯がまばらに並び、内側に小さい絨毛(じゅうもう)状の歯帯があり、前端で幅が広い。下顎には円錐歯(えんすいし)が1列に並ぶ。鋤骨(じょこつ)(頭蓋(とうがい)床の最前端にある骨)に三角形の絨毛状の歯帯がある。鰓耙(さいは)は上枝に6~8本、下枝に17~22本。背びれは2基で、第1背びれは8棘(きょく)、第2背びれは1棘20~22軟条。臀(しり)びれは1棘16~19軟条で、前方に2本の遊離棘がある。第2背びれと臀びれの前部の軟条は鎌(かま)状に長く伸びる。側線はやや強く湾曲し、第2背びれの第2~3軟条下から体側の中央を後方に向かって直走する。稜鱗(りょうりん)(鋭い突起を備えた肥大した鱗(うろこ)。一般には「ぜんご」「ぜいご」ともいう)は側線の直走部の全長にわたって発達し、26~32枚。胸部は完全に鱗で覆われる。成魚では体色は一様に灰色~褐色。背びれ、臀びれ、尾びれおよび稜鱗は暗褐色~黒色。胸びれの基部は黄色みを帯びる。鰓孔の上端に小さい暗色斑(はん)がある。成魚は島嶼(とうしょ)のサンゴ礁の透明な水域の水深25~65メートルにすみ、おもに魚類を捕食する。延縄(はえなわ)、刺網(さしあみ)、釣りなどで漁獲されることが多い。最大全長は1メートルほどに達する。ルアーによるスポーツフィッシングの対象魚である。沖縄では冬季に成魚を那覇(なは)の魚市場でときどき見かけるが、10センチメートル以下の若魚はいない。刺身、煮魚、フライなどにするとおいしい。和名の「カッポレ」は、八丈島や伊豆諸島の呼称が標準和名になったもので、釣り上げられるときの動きが、1本足で回りながら踊るかっぽれ踊りを連想させることに由来する。
[尼岡邦夫 2024年5月17日]
俗曲。幕末、江戸で願人坊主たちが白の着付、浅黄の投頭巾(ずきん)、赤緒(あかお)の草履(ぞうり)で、二階傘を立て拍子木をたたいて踊った大道芸。名称の由来は、天保(てんぽう)期(1830~44)に流行した『鳥羽節(とばぶし)』の囃子詞(はやしことば)「わたしゃお前にかっ惚(ぽ)れた」によるものとも、一説にはイタリア民謡「カポーレン」の転訛(てんか)ともいう。大坂・住吉神社の御田植(おたうえ)神事から出た住吉踊「やあとこせ」の流れで、「かっぽれ、かっぽれ、甘茶でかっぽれ」の歌詞を特徴とし、豊年踊に卑俗滑稽(こっけい)な踊りを混ぜたもの。1877年(明治10)ごろから寄席(よせ)にも進出し、十数年間はとくに盛んであった。86年1月、東京新富(しんとみ)座で『初霞空住吉(はつがすみそらもすみよし)』として9世市川団十郎が風俗舞踊化したものが今日に伝わる。
[如月青子]
俗曲,巷間舞踊。俗曲としては文政年間(1818-30)に行われはじめ,幕末に流行した。民謡《鳥羽節》が変化した〈沖の暗いのに……〉が元歌で,曲名は囃子詞〈かっぽれ,かっぽれ,甘茶でかっぽれ〉に由来する。幕末の流行に乗じ,願人坊主が住吉踊に〈かっぽれ〉ほか俗曲の〈ヤアトコセ〉〈姉(あね)さん本所かえ〉〈深川〉などを交えて踊ったことから〈かっぽれ〉の名で大道芸として流行。1878年ころからは寄席でも踊られ,初坊主や豊年斎梅坊主が得意とした。また宴席で幇間や芸者の踊としても喜ばれた。これが歌舞伎の所作事にも採り入れられ,89年1月東京新富座で《初霞空住吉(はつがすみそらもすみよし)》の名題で初演された。常磐津。作詞河竹黙阿弥。作曲5世岸沢式佐。
執筆者:板谷 徹
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