改訂新版 世界大百科事典 「にきび」の意味・わかりやすい解説
にきび
医学的には尋常性痤瘡(ざそう)acne vulgarisという。顔や胸,背などにでき,面皰(めんぽう)(毛囊内に皮脂がたまってできる),丘疹,膿疱,小結節,ときに囊腫が混在する慢性角化性炎症。脂腺の機能亢進と脂腺排出管の角化亢進がおもな病因とされる。悪化因子としては,日常の生活習慣が影響し,便秘,ストレス,油性化粧,ある種の職業,糖分過剰摂取があげられる。同時に,遺伝的素因,内分泌代謝も関与する。思春期を中心に大部分の人に経験される変化で,性的成熟に伴う性ホルモン変動による皮脂排出量の増加と同時に角化亢進によって皮脂が毛囊内に貯留して面皰が形成されるのが〈にきび〉のはじまりである。このうち毛孔が開口しているものを開放性面皰,閉じているものを閉鎖性面皰といい,前者は表面が黒化しているので俗に〈黒にきび〉とよばれる。丘疹は,これに細菌のリパーゼが作用して生成された遊離脂肪酸による炎症が伴って発症するが,その程度によって大きさはさまざまである。ここまでの時点で治れば跡(瘢痕(はんこん))を残さない。炎症が進行して毛包壁が破れ周囲の真皮に病変が及ぶと膿疱となり,一方,閉鎖性面皰の内容が多量になると囊腫となる。
思春期の〈にきび〉と発症病理的には同じであるが,発生時期が特殊なものに新生児痤瘡がある。これは出生時から2~3ヵ月までの,主として男児の顔面にみられるもので,皮疹は尋常性痤瘡と同様である。胎児期に母体からくる性ホルモン,ならびに男児では睾丸から生成される性ホルモンの影響による脂腺機能亢進が基盤となって生じる。尋常性痤瘡は25歳以降自然に消退し,新生児痤瘡は乳児期後半には消退する。
なお,塩素,臭素,ヨウ素などによる薬疹として生じるもの,副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の副作用によるものなどもある。
にきびの予防と治療
〈にきび〉は一種の生理現象とも思われるほど一般的な変化であるから,日常生活が及ぼす影響に注意が肝要である。〈にきび〉の予防と治療にとって,化粧とスキンケアが重要な問題となる。洗顔はセッケンなどで1日3回励行し,スキンケアはアストリンゼントローション,スキンローションなど油成分の少ないものを使用する。コールドクリーム,マッサージクリームは使用すべきでない。油性化粧品も使わないようにすることが必要で,〈にきび〉がなくても続けると発生してくる。洗髪も頻繁に行う。同時に生活面では暴飲,暴食,間食を避け,とくに糖分の過剰摂取に注意する。便秘,睡眠不足,不規則な生活,精神的ストレスも〈にきび〉を悪化させる。額,ほおにかかるような髪形,首筋を深く包むような衣服などにも注意しなければならない。
ビタミンB2,B6,パントテン酸には皮脂分泌抑制作用があり,抗生物質(テトラサイクリンなど)の少量持続投与は丘疹,膿疱に有効である。外用療法には硫黄,サルファ剤,クリンダマイシン,乳酸エチル,ベンゾイルパーオキサイド,ビタミンA酸などがある。
執筆者:山本 一哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報