ひきこもり(英語表記)Hikikomori (Social withdrawal)

六訂版 家庭医学大全科 「ひきこもり」の解説

ひきこもり
Hikikomori (Social withdrawal)
(こころの病気)

どんな状態か

 「ひきこもり」もしくは「社会的ひきこもり」は、病名や診断名ではありません。不登校や就労の失敗をきっかけに、何年もの間自宅に閉じこもり続ける青少年の状態像を指す言葉です。

 厚生労働省の「地域精神保健活動のあり方に関する研究班(平成12年度設置)」による調査研究では、「社会的ひきこもり」とは「①6カ月以上自宅にひきこもって社会参加しない状態が持続しており、②分裂病などの精神病ではないと考えられるもの。ただし、社会参加しない状態とは、学校や仕事に行かない、または就いていないことを表す」と定義されています。

 事例の多くは、ほとんど外出もせずに何年にもわたって自室に閉じこもり続け、しばしば昼夜逆転した不規則な生活を送ります。長期化に伴い、さまざまな精神症状が二次的に生じてくることがあります。すなわち、対人恐怖症状、およびその変形としての自己臭症(じこしゅうしょう)、視線恐怖、醜形(しゅうけい)恐怖、対人恐怖がこじれて起こる被害関係念慮(ねんりょ)強迫行為、心気症状、不眠、家庭内暴力、抑うつ気分、希死(きし)念慮、自殺企図(きと)などです。

 ひきこもりのきっかけとしては、成績低下受験の失敗、いじめなど、一種の挫折体験がみられることも多いのですが、「きっかけがよくわからない」と述べる人も少なくありません。不登校と同様に、どのような家庭のどのような子どもでも「ひきこもり」になりうる、と考えるべきでしょう。

「ひきこもり」の統計

 日本では1970年代からこうした事例が徐々に増加し、複数の調査によって、現在数十万人~100万人程度の規模で存在すると推定されています。また、「ひきこもり」は日本と韓国に突出して多いと考えられており、増加の背景には社会文化的な要因関与している可能性があります。

 厚生労働省による2003年度の調査報告によれば、性別では男性が76.4%と多く、平均年齢は26.7歳と、前回調査に比べて高年齢化の傾向がみられました。なお、この調査に基づき厚生労働省は、ひきこもり事例への対応ガイドラインを全国の保健所や精神保健福祉センターなどに配布しています。

 また厚生労働省は2009年度に、相談窓口として「ひきこもり地域支援センター」(仮称)を全国の自治体に設置する方針です。このほか、これに関連する事業としては就労支援を中心とした「地域若者サポートステーション」があります。

対応の方法

 ひきこもりに対しては、理解ある第三者による支援や治療的対応が問題解決のうえで有効と考えられます。他の疾患統合失調症(とうごうしっちょうしょう)うつ病発達障害)の可能性も疑われる場合や、精神症状が顕著な場合は、医療の関与が必要となります。

 ただし、ひきこもりの当事者は、初めのうちは必ずしもそうした介入を望まないことが多いのです。このため、ひきこもりの治療・支援活動においては、必然的に家族相談の比重が大きくなってきます。これに加えて家族会、訪問支援活動、デイケアや、たまり場などのグループ活動や希望者への就労支援など、複数の立場や部門が柔軟な支援ネットワークとして構築されることが望まれます。

斎藤 環

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

知恵蔵 「ひきこもり」の解説

ひきこもり

「自宅にひきこもって、社会的参加をしない状態が6カ月以上持続しており、精神障害がその第一の原因と考えにくいもの」と定義される。パソコン通信や電話で外の人との接触がある人、家事などをして家族と良好な関係を持っている人は該当しない。子から親への家庭内暴力が伴うケースも多く、1990年代後半から問題視され始めた。正確な統計はないが、少なくても50万人以上、160万人いると推定する識者もいる。年齢的には中学生から見られ、30歳代、40歳代の症例もある。性別では、男性が6〜7割。欧米には見られず、日本に特徴的な現象と思われていたが、韓国でも症例が報告されており、子供を依存させやすい東アジア的親子関係が影響しているともいわれる。

(山田昌弘 東京学芸大学教授 / 2007年)

ひきこもり

長期間にわたって家庭内にひきこもり、社会的な活動に参加できない状態。対人恐怖症や気分障害、人格障害が認められる場合もあるが、ひきこもり自体が問題の中心となる人がかなりいると推測される。不登校がきっかけとなることが多く、男性に多い。家族との接触もほとんどなく、自室にこもって対人接触を全面的に回避しているケースもある。この状態が本人の社会性の成長を阻み、対人関係への自信を喪失させ、自己評価を下げる。その他、強迫傾向、昼夜逆転、家族への攻撃性などが見られるが、生活態度とは裏腹に、社会で生きていけないことに対する焦りや苦悶がある。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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