〘助動〙 (活用は「〇・〇・らむ・らむ・らめ・〇」。四段型活用。終止形・連体形は、平安時代には「らん」とも書かれ、鎌倉時代には「らう」の形も現われる。活用語の終止形に付くのが原則であるが、ラ変型活用の語には連体形に付く。推量の助動詞)
①
話し手が実際に触れることのできないところで起こっている事態を推量する意を表わす。現在の事態を想像していう例が多い。…であるだろう。今ごろは…しているだろう。
※
書紀(720)白雉四年・
歌謡「引出
(で)せず 我が飼ふ駒を 人見つ羅武
(ラム)か」
※
太平記(14C後)一〇「大殿のさこそ待思召候覧
(ラン)」
② 話し手が実際に経験している情況について、その原因・理由・時間・場所などを推量する意を表わす。
(イ) 原因など条件を表わす句を受けて、それを事実について推量する場合。
※万葉(8C後)一一・二六四七「横雲の空ゆ引き越し遠みこそ目言(めこと)離(か)る良米(ラメ)絶ゆとへだてや」
(ロ)
疑問詞を受けて、事実の奥の条件を模索する場合。
※枕(10C終)九九「いみじううけばりたり。かうだに、いかで、ほととぎすのことをかけ
つらん」
(ハ) 現実の
事柄に心を動かして、
言外にその原因、理由などを疑う意を表わす場合。
※
源氏(1001‐14頃)
浮舟「こよなかりける
山伏心かな。さばかりあはれなる人をさて置きて、心のどかに
月日を待ちわびさすらんよ」
③ 連体修飾文節に用いられて、自分の直接経験ではないが、他から聞いたこと、世間一般で言われていることを受け入れて推量する意を表わす。
※竹取(9C末‐10C初)「いきてあらん限かくありきて、蓬莱といふらん山にあふやとうみに漕ぎたたよひありきて」
[語誌](1)「らむ」の「む」の部分は、推量の助動詞「む」と同源と考えられる。「ら」は、動詞「あり」と関係づけて説かれ、また、状態を示す接尾語「ら」という説もあるが決しがたい。
(2)上代、上一段活用の動詞「見る」に付く時は、「見らむ」となる。他の上一段動詞に「らむ」を伴った用例は見られない。「見らむ」は、中古にも用いられている。この接続は、「べし」の場合と同様のもので、「み」は連用形であるが、古い終止形とか終止形の語尾を落としたものと見る説もある。
(3)「らむ」と対立をなす助動詞としては「らし」がある。「らし」が客観性が強いのに対して、「らむ」は主観性が強いとされる。「らむ」は疑問表現に用いるが、「らし」は疑問表現には用いられないという違いは、その意味的特徴を反映したものと見られる。
(4)「久方のひかりのどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ〈紀友則〉」〔古今‐春下〕の「らむ」の意味については、推量説、詠嘆説、婉曲説などがあるが、いずれとも決しがたい。
(5)鎌倉時代以降、「らう」の形があらわれ、現代の「ろう」に続くほか、方言では「ら」の形でも用いられる所がある。→
ろう・
ら。
(6)室町時代には「らん」は完了の「つ」と熟合し、「つらん」「つら」「つろう」となり過去の推量を表わす。これらは現代の方言にまで続き、口語の「たろう」に相当する。→
つろう・
つら・
つろ