アイリス(英語表記)flag
flower-de-luce
Iris

精選版 日本国語大辞典 「アイリス」の意味・読み・例文・類語

アイリス

〘名〙 (iris)
① 眼球の虹彩(こうさい)
② 写真機の虹彩絞り。二重撮影、ぼかし、トリック撮影などの際、レンズにとりつける絞り。
③ アヤメ科アヤメ属の植物。一般には、主に園芸種として栽培する同属中の種類の総称。俗にアイリスと呼ばれているものにドイツアヤメオランダアヤメ、イギリスアヤメなどがある。《季・夏》

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デジタル大辞泉 「アイリス」の意味・読み・例文・類語

アイリス(iris)

アヤメ科アヤメ属の単子葉植物の総称。アヤメハナショウブカキツバタなど。一般にはジャーマンアイリスダッチアイリスなどの園芸種をいう。
眼球の虹彩こうさい
カメラの絞り

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改訂新版 世界大百科事典 「アイリス」の意味・わかりやすい解説

アイリス
flag
flower-de-luce
Iris

アヤメ科アヤメ属Irisの植物で,北半球に分布し,約200種に及び,根茎または球根を有する多年草。アイリスと呼ばれて栽培しているものには,野生種と園芸グループがある。アイリスは園芸上,球根アイリス根茎アイリスとに大きく2分類される。

(1)球根アイリス群 球根アイリス群の代表種ダッチ・アイリスI.hollandica Hort.(英名Dutch iris)は1900年代初期にオランダでスパニッシュ・アイリスI.xiphium L.(英名Spanish iris)に他の種を交雑して作られ,切花は世界で需要が多い。日本では単に〈アイリス〉と呼ばれることもある。鱗茎から長さ50cmくらいの剣状の葉を出し,1~2花を3月下旬から5月中旬につける。花色は白色,黄色,青色,紫色で,ウェジウッド(淡青)など約25品種ある。フランス南部,イベリア半島,北アフリカ原産のスパニッシュ・アイリスやピレネー山脈原産のイングリッシュ・アイリスI.xiphioides Ehrh.(英名English iris)は,それぞれ他種の混じらないいくつかの花色の品種があったが,ダッチ・アイリスの普及で栽培が衰えた。また小型の球根アイリスも各種あるが,そのうち小アジア,カフカスやイラン原産のイリス・レティクラタI.reticulata Bieb.は高さ10cmくらいで2~3月に直径4cmくらいの紫色や青色の花をつけ,約10品種ある。

(2)ビアディッド・アイリスbearded iris群 根茎が発達し,外花被片にひげ状の突起のあるビアディッド・アイリスのうち高さ70cm以上の高性のものが通称ジャーマン・アイリス(英名German iris)と呼ばれる。英米ではトール・ビアディッド・アイリスと呼ばれ,欧米で広く庭植えされ,最も改良の進んだ花である。根茎は太く,葉は広い剣状で,内花被片は大きく発達し,直径20cmに近い花を1茎に8輪ほどもつけ,白色,黄色,ピンク色,茶色,赤色,紫色,黒色など花色も豊富で,5月に開花する。品種は膨大で毎年300以上が作出されている。ジャーマン・アイリスはイリス・パリダI.pallida Lam.とイリス・ウァリエガタI.variegata L.の交雑種に地中海沿岸産の四倍体の種が複雑に交雑され,1900年代初期に基礎の品種が作られ,以後アメリカで目覚ましく改良されたものである。丈がやや低く,ジャーマン・アイリスの名のもととなったドイツアヤメI.germanica L.(英名German iris)も起源不明の雑種である。ビアディッド・アイリス群に属する野生種は約40種あり,園芸上40cm以下をドワーフdwarfと呼び,ナンキンアヤメI.pumila L.もこの群に含まれる。

(3)ビアドレス・アイリス群(外花被片にひげ状突起のないもの) (a)ルイジアナ・アイリス類Louisiana irises アメリカのミシシッピ川流域に自生するチャショウブI.fulva Ker-Gawl.(英名copper iris)など5種とそれらの天然交雑種や多数の園芸品種があり,花色が豊富で,花はカキツバタやハナショウブに似る。(b)シベリアン・アイリス類Siberian iris ヨーロッパ原産のコアヤメI.sibirica L.,アヤメI.sanguinea Donn.やこの2種の交雑種からなり,1900年代前期までに約150品種あり,以後,著しく花形が改良され,花色も青紫色,白色などのほかに今までなかった桃色,黄色などの品種も育成され,英米で広く庭植えされている。

 ほかにアメリカの太平洋岸の山麓に産する11種とその交雑種からなるカリフォルニア・アイリス類California irisや,ヨーロッパ,小アジアや中央アジアなどに産す16種とその交雑種からなるスプリア・アイリス類Spuria irisなどがある。

 また別に,肥大した地下茎のある球根と,花被片にまばらなひげ状突起をもち,中央アジアに産すレゲリア類Regeliaと東部地中海沿岸諸国に産するオンコキクルス類Oncocyclusがある。これらには多くの野生種があるが,そのうちイリス・スシアナI.susiana L.はよく知られ,その花が黒色のためmourning irisの英名がある。

 アイリスの栽培の歴史は古く,前2500年ころから始まったと推定できる。これは,スフィンクスの額などや王たちの墓の浮彫にもアイリスの紋様が見られるからである。

 第2次大戦後,多くのアヤメ属の植物が導入されたため,和名はつけられずに,野生種は学名のままで呼ばれるようになった。

 アイリス類の繁殖は分球,株分け,実生。球根アイリスは,10月に排水のよい壌土に球根の2倍の深さに植える。ジャーマン・アイリスは乾燥地に適し,根茎の背が出るように浅植えし,灌水は不要。
執筆者:

アイリスの花はルイ7世(在位1137-80)以降フルール・ド・リスfleur-de-lisとしてフランス国章になったが,これはフランク王国のクロービス1世Clovis Ⅰがケルン近くでゴート人に追いつめられた際,ライン川の河床にこの花が咲いているのを見て浅瀬の場所を知り,危うく全滅を免れた故事によるという。また英名はギリシア神話中のにじの女神イリスに由来し,ゼウスとヘラの使者として天と地にかけたにじから地上へ下ってこの花に姿を変えたといわれる。ゆえに花言葉は〈使命〉。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アイリス」の意味・わかりやすい解説

アイリス
あいりす
[学] Iris

アヤメ科(APG分類:アヤメ科)イリス属の総称。単にアイリスとよぶ場合、園芸的に栽培する種の総称をさすことが多い。イリスはギリシア語で虹(にじ)を意味し、虹のように美しい花からつけられた。本属は北半球の温帯、北緯20~60度に分布し、アジア、ヨーロッパ、北アフリカ、北アメリカに広く生育し、230種から300種余が知られている。日本にはノハナショウブ、アヤメ、カキツバタ、シャガヒメシャガエヒメアヤメヒオウギアヤメヒオウギの8種が自生する。形態は変化に富むが、花形はアヤメ形といわれ、3枚の外側の花弁(外花被(かひ))およびそれより小さい内側の3枚の花弁(内花被)と、3裂した花柱(雌しべ)および下部に各1個ずつの葯(やく)(雄しべ)からなる。花色は紫青色系が多いが、白、黄、赤褐色、茶褐色、黒紫色などもある。純粋の緋紅(ひこう)色系はアメリカ中部に自生するフルバ(チャショウブ)I. fulvaがやや近いが、原種にはこの色系統のものはないとされる。

 宿根多年生のものが多いが、秋植え球根性のものもある。一般に耐寒性が強く、湿地を好むもの、乾燥地を好むものなど性質に変化がある。湿地好みのものは高性型が多く、茎葉が雄大である。乾燥地好みのものは矮性(わいせい)で茎葉も短いものが多い。大別して鱗茎(りんけい)種と根茎種に分ける。鱗茎種は球根アイリスともいい、休眠中は根がないのが特徴で、ダッチ・アイリス、イングリッシュ・アイリス、スパニッシュ・アイリス、レティキュラータ・アイリスなどの品種がある。根茎種は代表的なものにジャーマン・アイリス、ハナショウブ、アヤメ、カキツバタ、キショウブ、シャガ、イチハツ、ルイジアナなど多くの種類があり、さらに下弁の基部近くにひげのあるものを別系統に細分する説もある。これらのほかに、球根性を呈しながら根茎のもの、多肉質の根茎をもつものなど、2~3種が知られる。

[川畑寅三郎 2019年5月21日]

栽培

鱗茎種の代表種であるダッチ・アイリスDutch iris/I. × hollandica Hort. ex Todd.はオランダアヤメともいう。地中海沿岸地方原産の数種をオランダで交雑育種したもの。普通秋から出葉する耐寒種であるが、零下10℃以下では枯死する。代表的品種にホワイト・ウェッジウッド、イエロー・クイン、アイデアル、ブルー・リボン、ナショナル・ベルベットなどがある。球根は、6月中・下旬に葉が半枯れになったときに掘り上げ、風通しのよい日陰に乾かして貯蔵し、10月に植える。繁殖は分球による。球根の大きさにもよるが7~8センチメートル球では5センチメートル平方に1球ずつ植え、覆土は球根が隠れる程度にする。肥料は多めに基肥として施す。

 根茎種の代表種であるジャーマン・アイリスGerman iris/I. germanica L.はドイツアヤメともいう。ヨーロッパ原産の数種が交雑育種され、多くの品種がつくられ、さらにアメリカで改良された優れた品種が多い。レインボー・フラワーといわれるほどで、花色の変化に富む。また、花弁が横に張る品種や芳香も放つ品種など、育種技術の粋を凝らしたものが多い。栽培はダッチ・アイリス同様であるが、日当り、排水ともよい乾燥地に適し、生育がよければ2~3年は植えかえをしなくても優れた花をつける。ともに切り花、鉢植え、花壇、庭園、ロック・ガーデンなどに広く用いられ、端午(たんご)の節供の季節花としても愛用される。白絹(しらきぬ)病や軟腐(なんぷ)病に弱いのが難点で、これを防ぐことが、優秀な花を咲かせるポイント。

[川畑寅三郎 2019年5月21日]

文化史

エジプト王トゥトメス3世が紀元前15世紀にシリアから持ち帰ったといわれるアイリスは、栽培の歴史が古く、古代ギリシアやローマでは香水に使われた。中世のヨーロッパではフロレンティーナ(和名ニオイイリス)I. florentina L.の乾燥した根(オリス根)が、病気除(よ)けの首飾りにされて大流行した。またアイリスを紋章化したフルール・ド・リスは、5世紀にクロービス王が使って以来、19世紀までフランス王家の紋章であった。なお、これを字義通りユリとする説もある。

[湯浅浩史 2019年5月21日]


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百科事典マイペディア 「アイリス」の意味・わかりやすい解説

アイリス

アヤメ科アヤメ属の植物の総称で,北半球に約250種ほどある。日本にはアヤメカキツバタ,ノハナショウブなどが野生する。葉は剣状か線状,花被片は6枚でうち外側の3枚はがくに当たる。古くから観賞用として栽培されている。園芸的には根茎種と球茎種に大別され,根茎種はハナショウブシャガジャーマン・アイリス等,球茎種はダッチアイリスやイングリッシュアイリスが代表的。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アイリス」の意味・わかりやすい解説

アイリス
Iris; iris

本来はアヤメ科アヤメ属の属名で,北半球に約 300種ほどある。園芸界ではこの属のうち,観賞用に栽培される一群の種を特にアイリスといい,イングリッシュアイリス,ダッチアイリス,ジャーマンアイリスなどをさすのが普通である。日本産のアヤメカキツバタハナショウブ,中国原産のイチハツなどもこの属に入る。属としての特徴は地下に根茎をもち,剣状の細い葉が2列につき,花は大型で外花被片3枚が特に花弁状に発達して色彩も鮮かである。内花被片は一般に細く上へ伸び,めしべの花柱が3裂して内花被片と同じくらい大きく,その裏側におしべ各1本をおおい隠すように広がっている。この複雑な構造はハチによる吸蜜受粉行動によく適応したものと考えられている。

アイリス
iris

映画技術用語。原意は眼の虹彩だが,カメラのレンズにこれと似た働きをさせることからきている。何も写っていない画面の1点から,円形状に開いていったり (アイリス・イン) ,逆に円を絞る形で閉じていったり (アイリス・アウト) ,無声映画時代に多く用いられた手法。

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デジタル大辞泉プラス 「アイリス」の解説

アイリス

2001年製作のイギリス映画。原題《Iris》。女性作家アイリス・マードックの生涯を描く。監督:リチャード・エア、出演:ジュディ・デンチ、ジム・ブロードベント、ケイト・ウィンスレット、ヒュー・ボネビルほか。第74回米国アカデミー賞助演男優賞受賞(ジム・ブロードベント)。

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世界大百科事典(旧版)内のアイリスの言及

【アヤメ】より

…シベリア,中国東北部,朝鮮,日本に産し,日本では各地の山間の草地に生えるアヤメ科の多年草(イラスト)。紫色の風情のある花のため,庭植えもされる。茎は高さ30~60cm。葉は先が垂れるために短く見えるが,茎とほぼ同長であり,また二つにおりたたまれて表面がくっつきあったため,両面とももともとは裏だった面からなる単面葉で,幅約1cmの線形剣状である。和名は葉が2列に並んだ様子の文目(あやめ)の意味から,あるいは花の外花被の基部に綾になった目をもつことから名付けられたという。…

【アヤメ】より

…シベリア,中国東北部,朝鮮,日本に産し,日本では各地の山間の草地に生えるアヤメ科の多年草(イラスト)。紫色の風情のある花のため,庭植えもされる。茎は高さ30~60cm。葉は先が垂れるために短く見えるが,茎とほぼ同長であり,また二つにおりたたまれて表面がくっつきあったため,両面とももともとは裏だった面からなる単面葉で,幅約1cmの線形剣状である。和名は葉が2列に並んだ様子の文目(あやめ)の意味から,あるいは花の外花被の基部に綾になった目をもつことから名付けられたという。…

【アヤメ】より

…【矢原 徹一】。。…

※「アイリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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