アジア通貨危機(読み)アジアつうかきき

百科事典マイペディア 「アジア通貨危機」の意味・わかりやすい解説

アジア通貨危機【アジアつうかきき】

1997年にタイから始まり,アジア各国に広がった急激な通貨下落とそれによって起こった金融危機・経済危機をさす。なかでもタイ,インドネシア,韓国はきわめて大きな打撃を受けた。通貨危機の直接の要因は,ドルとの固定関係にある通貨が過大評価されていて経済状況とのギャップがあることに国際的なヘッジファンドが注目,大規模な空売りを仕掛けて安くなったところで買い戻すという操作で巨額の利益を出す動きを始め,アジア各国はたちまち外貨準備を失い,金融危機と景気後退直撃を受けることになった。1997年末韓国はデフォルト寸前に追い込まれ,IMF介入による経済立て直しを選択するなど,1970年代に始まるアジア経済の高度成長は止まり,各国とも数年間の深刻な不況停滞を余儀なくされた。アジア通貨危機以降の経済立て直しの過程で,各国ともグローバリズムの急速な進展を受け入れることとなった。
→関連項目通貨危機

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知恵蔵 「アジア通貨危機」の解説

アジア通貨危機

1997年7月のタイ・バーツの変動相場制移行に端を発し、インドネシア、韓国など東アジア諸国に波及した通貨危機。80年代後半以降、東アジア諸国は高い経済成長率を実現し、これに伴い海外から短期資本が大量に流入した。タイ・バーツは、実質的な対米ドル固定相場制を採用していたため、数度にわたり通貨投機の標的となったが、変動相場制への移行による事実上の通貨切り下げを行った。この影響が周辺諸国に瞬く間に伝播し、多くの東アジア諸国の通貨が大幅に減価した。外資の大量かつ急激な流出や為替下落による自国通貨で見た対外債務の急激な増加、金融システムの混乱による急激な信用収縮不良債権の増加などが発生し、深刻な景気後退をもたらした。危機対応を契機に、改めて、最適な通貨制度の採用、国内金融制度の整備・充実、それらと整合的なマクロ経済政策の必要性が認識されることとなった。この点、IMFが当初、緊縮的な諸施策を導入したことで危機を深刻化させた面も指摘されている。短期間に危機がアジア各国に波及し深刻な影響を与えたことから、IMFを補完する地域金融協力体制の必要性も認識された。

(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)

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