アラブの春(読み)アラブノハル(その他表記)Arab Spring

翻訳|Arab Spring

デジタル大辞泉 「アラブの春」の意味・読み・例文・類語

アラブ‐の‐はる【アラブの春】

2010年12月にチュニジアで起きた民主化運動(ジャスミン革命)を発端として、北アフリカ・中東のアラブ諸国に波及した民主化要求運動。2011年1月にはエジプトで大規模なデモが発生し、約30年にわたり長期政権を維持してきたムバラク大統領が辞任に追い込まれた。また、同年2月にはリビアで反政府デモが起こり全土に波及。武力衝突に発展しカダフィ政権が崩壊した。他にも、アルジェリアイエメンサウジアラビアヨルダンシリアなど多数のアラブ諸国で政府に対するデモや抗議活動が連鎖的に発生した。

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共同通信ニュース用語解説 「アラブの春」の解説

アラブの春

2010年末からアラブ世界で広がった民主化運動。若者らがSNS(交流サイト)を使って反政府デモを展開した。チュニジア、エジプト、リビアなどで長期独裁政権を崩壊に追い込む一方、シリアのアサド政権はデモを弾圧し、現在も続く内戦に突入した。エジプトでは強権体制が復活し、リビアも混乱から内戦に至るなど揺り戻しが相次いだ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アラブの春」の意味・わかりやすい解説

アラブの春
あらぶのはる
Arab Spring

2010年末ころから中東・北アフリカ地域各国で本格化した反体制・反政府運動の総称。1968年にチェコスロバキアで起きた民主化運動「プラハの春」にならって、「アラブの春」とよばれる。2010年12月にチュニジアで発生した反体制デモを発端に、アラブ諸国の多くで、「国民は体制打倒を望む」といったスローガンを掲げる大規模抗議デモが発生し、反体制・反政府集会が次々と開催された。参加者は、長期政権下での強権的な政権運営、汚職の蔓延(まんえん)、若年層の高い失業率、深刻な経済格差などへの怒りを表明した。衛星放送、携帯電話、フェイスブックツイッター(現、X(エックス))といったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)がデモや抗議行動への動員手段として活用されたほか、SNSによってデモや当局の弾圧のようすなどの情報が国境を越えて急速に伝播(でんぱ)した結果、抗議行動は地域全体へと波及した。このような特徴から、「インターネット革命」と称されることもある。

 抗議デモによって、23年続いたチュニジアのベンアリ政権が2011年1月に崩壊し(ジャスミン革命)、同年2月には、29年続いたエジプトのムバラク政権も退陣した(1月25日革命)。このほか、バーレーン、ヨルダン、モロッコでは、内閣の交代や憲法改正といった民主化への政治変動が起こった。

 一方、リビア、イエメン、シリアでは、抗議運動が内戦や武力紛争に発展し、諸外国の干渉を招いた。これにより、2011年8月には、反体制派を支援する欧米諸国などの軍事介入も相まって、リビアのカダフィ政権が崩壊、同年11月には、サウジアラビアやアラブ首長国連邦などからなる湾岸協力会議(GCC)の仲介により、イエメンのサレハ‘Alī ‘Abdullāh āli(1942―2017)政権が退陣した。シリアでは、ロシアとイランを後ろ盾とするアサドBashshār al-Asad(1965― )政権と、トルコ、カタール、サウジアラビア、欧米諸国が支援する反体制派の間で武力紛争(シリア内戦)が深刻化し、「今世紀最悪の人道危機」ともいわれる状況に陥った。これにより、国土は分断され、膨大な数の犠牲者、難民、国内避難民が発生した。また、イスラミック・ステート(IS、イスラム国)やヌスラ戦線(後のシャーム解放機構、HTS)といったアルカイダ系組織、クルド民族主義勢力が台頭し、これらをテロ組織とみなす欧米諸国やトルコが軍事介入に踏み切り、シリアの国土の一部を実効支配するに至った。また、ロシアや親イラン勢力も各地に部隊を駐留させ、シリアは各国による代理戦争の舞台ともなった。

 体制転換を経験した国々のなかで、民主化が一定程度実現したと評価されたのはチュニジアだけで、エジプトではムバラク退陣後に民主選挙で誕生したムルシMuammad Mursī(1951―2019)政権が、2013年に大統領の退陣と選挙の早期実施を求める全国規模の民衆デモ(6月30日革命)とこれに続く軍のクーデターで打倒された。また、リビアとイエメンは、体制崩壊後に内戦が激化し、シリアと同様に諸外国が介入を強め、ISやアルカイダ系組織が跋扈(ばっこ)した。

 混乱が続いていたシリアでは、2010年代なかば以降、アサド政権が軍事的に優位にたつようになった。だが、2023年にイスラエルと、パレスチナガザ地区を実効支配するハマス(ハマース)、レバノンヒズブッラーヒズボラ)、そしてイランとの間で軍事的緊張が深刻化すると、シリアもまたイスラエルの攻撃を受けるようになり、アサド政権はしだいに弱体化していった。そして2024年末、「シリアのアルカイダ」として知られてきたシャーム解放機構が主導する反体制派が大規模攻勢をしかけ、アサド政権を崩壊に追い込み、新たに政権を掌握した(シリア革命)。

 なお、2018年から2020年ころにかけて、スーダン、イラク、レバノンにおいて、経済の困窮、強権支配、汚職、失業などに対する抗議デモが相次いだ。これによりスーダンでは、長期政権を維持していた大統領のバシール‘Umar al-Bashīr(1944― )が失脚するなどの政治変動が生じた。これら一連の動きを「第二のアラブの春」とよぶこともある。

[青山弘之 2025年11月17日]

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百科事典マイペディア 「アラブの春」の意味・わかりやすい解説

アラブの春【アラブのはる】

2010年12月チュニジアではじまった民主化を求める運動(ジャスミン革命)を発端として,北アフリカ・中東のアラブ諸国に波及した民主化要求運動を象徴する言葉。2011年1月エジプトのムバーラク長期政権が崩壊,同年2月リビアで反政府デモが起こり内戦に発展,カダフィー政権が倒壊するなど,アルジェリア,イエメン,サウジアラビア,ヨルダン,シリアなど多数の国々で反政府デモや抗議活動が連鎖的,断続的に発生した。いずれも若者たちのソーシャルネットワークが運動の発端で大きな力を発揮したとされている。しかし各国各地域の政治体制の違いや政治勢力間の複雑な関係もあり,さらに,この地域に利害関係を持つ米,仏,英などの介入もあって,政権倒壊後も混乱が続いた。当初から,政治運動としての核を持たず政治的結集点の形成を準備しなかった〈アラブの春〉はひとしなみに純粋な民主化運動と美化できるものではなく,かえって市民に多くの厄災をもたらしているという批判も出されていた。2013年エジプトでモルシ政権が軍部によるクーデターによって崩壊し,再び国軍主導による政権に戻るという事態が生まれたこと,イラクを拠点とするイスラム過激派組織ISが,シリアやリビアで〈アラブの春〉以降急速に勢力を拡大し,2014年6月〈イラク・レバントのイスラム国〉という〈カリフ制国家〉の建国を宣言するまでに成長するのを許したこと等々,この批判が証明されるかたちとなった。
→関連項目アラブ首長国連邦エジプトカルマンテロリズムモルシ

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アラブの春」の意味・わかりやすい解説

アラブの春
Arab Spring
アラブのはる

2010年末のチュニジアで勃発した体制権力への異議申し立て運動(いわゆるジャスミン革命)に端を発し,広くアラブ世界に伝播した反独裁政権運動。チュニジア人露天商が焼身自殺という手段で行なった路上抗議運動が,またたく間に近隣のアラブ諸国に飛び火し,各地で大規模な大衆抗議運動となった。その結果 2011年1月にチュニジアのベンアリ政権,2月にエジプトムバラク政権,8月にリビアカダフィ政権の長期独裁支配が瓦解した。動乱は以降も収束せず,2012年にシリアは事実上の内戦状態に陥り,イエメンバーレーンでも社会秩序の動揺が続いた。このほか,ヨルダンモロッコサウジアラビアクウェート西サハラなどでも大衆の街頭運動と官憲との衝突が見られた。おしなべて似たような構造をもつ権威主義的体制への不満が,主として都市部の中間層が掲げる民主化・自由化への要求と結びつき,またフェイスブックやツイッターといったソーシャルメディアの浸透が新たなかたちでの大衆の動員につながったこともあって,アラビア語を共通の母語とするアラブ世界にほぼ同時的な動乱の連鎖が起こったと考えられる。しかし,各国の政治・社会改革要求の内容や方向は必ずしも一様ではなく,独裁体制を打倒したチュニジア,エジプト,リビアも,その後すみやかに新体制に移行できたわけではなかった。「アラブの春」の呼称は「プラハの春」など東ヨーロッパの民主化運動にならったものであるが,当時の西ヨーロッパをモデルとしたプラハの春とは異なりイスラム的価値観を抱える中東で,どこまで民主化が進むかに注目が集まった。

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