日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルカプトン尿症」の意味・わかりやすい解説
アルカプトン尿症
あるかぷとんにょうしょう
尿中にアルカプトン(ホモゲンチジン酸)を排泄(はいせつ)し、放置すると黒変する先天性代謝異常で、結合組織に沈着した場合は組織黒変症(オクロノーシスochronosis)とよぶ。ホモゲンチジン酸オキシダーゼの欠損によるまれな疾患で、常染色体潜性遺伝の形をとる。この酵素はフェニルアラニンやチロシンといったアミノ酸の中間代謝物であるホモゲンチジン酸を分解してアセト酢酸やフマル酸を生ずるが、これが欠損すると、ホモゲンチジン酸の重合体がそのまま尿中に排泄される。放置するとアルカリや自然酸化によって尿が黒色を呈するのが特徴である。また、関節軟骨の構成成分である膠原(こうげん)線維にホモゲンチジン酸の重合体が黒く沈着すると、軟骨は正常の弾力を失い、もろく細片となって、関節の退行変性が進行する。これをアルカプトン尿性関節症という。関節の滑膜にこの色素を含む軟骨片が沈着して腫瘤(しゅりゅう)をつくることがある。1859年以来、世界で数百例の報告があるが、日本ではきわめてまれで、わずかに数例の報告がみられるのみである。
30歳代に脊椎(せきつい)関節の運動制限、ときに痛みが現れる。ついで膝(ひざ)、肩、股関節(こかんせつ)などが冒される。重篤で病期が長い場合には、脊椎が強直化して強直性脊椎炎に似てくる。X線像では、脊椎の間にある椎間板の石灰化がみられる。根底にある代謝障害に有効な治療法はなく、運動制限に対しては外科的に切除するなど、対症療法が行われる。
[赤岡家雄]