翻訳|armadillo
キュウヨ(犰狳)ともいう。貧歯目アルマジロ科Dasypodidaeの哺乳類の総称。一見カメの甲に似るが,帯状の甲によって体の背側のほとんど全面を覆う独特の姿をしており,他の動物から一見して区別できる。北アメリカ南部から中央アメリカ,チリ,アルゼンチン,ウルグアイのサバンナやパンパに約20種が生息する。
アルマジロの甲は表層の角質部と内層の骨質部の2層からなる多角形の小さな板が多数並んだもので,肩部と腰部をつくる甲の間には帯状の甲が2~13本並ぶ。各帯は伸縮性の皮膚によって結ばれており,ここで体を曲げることができる。敵に襲われて,逃走する機会を失ったり,あるいは強力な前足のつめで穴をすばやく掘って隠れる余裕のない場合には,一部の種は体を丸め,手足を甲の中に引き込んで身を守る。ミツオビアルマジロは完全な球状にまで丸めることができ,これは人の力でものばすことは困難という。
エナメル質を欠く歯は,貧歯目中もっとも数が多く,終生のび続ける。食物は昆虫その他の無脊椎動物,小型脊椎動物,死肉,木の根などで,昆虫を食べる場合にはアリクイの舌に似た,粘液のついたミミズ状の舌でなめとる。聴覚と嗅覚に優れ,地中の食物をにおいによって見つけ出すことができる。地面に掘った穴を巣穴とし,単独または2~数頭の小群で暮らす。雌はふつう1産2~4子を生むが,一卵性である。哺乳類の中では他に例を見ない独特の産子様式である。
もっともふつうに見られるココノオビアルマジロDasypus novemcinctusは体長40cmで,暑い夏の間は夜間,涼しい日には日中も巣穴から出て,方向を絶えず変える独特の歩き方で,地面近くに鼻を保ちながら地上を時速1km程度のスピードで動き回って食物を探す。呼吸による酸素の消費がきわめて少なく,活動中でも最長6分もの間息をとめることができるといわれる。これによって呼吸の際に土砂などのちりを気管に吸い込むのを少なくできる。甲はかごや楽器に利用される。
ミツオビアルマジロTolypeutes tricinctusは体長35~45cmで,しばしば日中活動する。他のアルマジロと異なり,自身で穴を掘ることは少ない。肉は食用にされ美味。最大の種オオアルマジロPriodontes giganteus(=P.maximus)は体長1m。夜行性で,巨大な前足の第3指のつめでシロアリの塚を壊したり,根のはったやぶや畑でも手ぎわよく穴を掘ってシロアリやミミズ,昆虫などを食べる。ムツオビアルマジロEuphractus sexcinctusは体長40~50cmで,地中に1~2mのトンネルを掘って食物を探す。夜間死肉に群がるのが見られる以外は,めったに姿は見られない。最小種ヒメアルマジロChlamyphorus truncatusは体長12~15cm。背面には帯状の甲が続き,しりと尾は別の丸い甲に覆われ,全体として俵のような姿をしている。ほとんど地中で生活する。地上で襲われると,すばやく穴を掘って潜り込み,入口をしりの甲でふさぐ。現在は開発により減少している。
アルマジロ科は南アメリカの特徴的な動物で,かつては現代よりも栄えていた。化石アルマジロ類に巨大なグリプトドンGlyptodon asper(全長約3m)があり,この甲の化石はテントの代用になるくらい大きかった。
→貧歯類
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
哺乳(ほにゅう)綱貧歯目アルマジロ科に属する動物の総称。同科Dasipodidaeの仲間は、貧歯目の他科(アリクイ科、ナマケモノ科)より歯が発達し、上あごに7~26対、下あごに7~24対あるが、歯根はなくエナメル質を欠き、不換性である。体が骨質の甲らで覆われている唯一の哺乳動物である。甲らは肩甲と腰甲に分かれ、この間に7~10枚の横帯のあるアルマジロ亜科と、1枚の背甲と臀(でん)甲に分けられるヒメアルマジロ亜科とに大別される。北アメリカから南アメリカのパタゴニアにかけ、ケナガアルマジロ属3種、ムツオビアルマジロ属1種、ピチアルマジロ属1種、オオアルマジロ属1種、スベオアルマジロ属4種、ミツオビアルマジロ属2種、ココノオビアルマジロ属6種、ヒメアルマジロ属2種の8属20種が知られている。大きなものではオオアルマジロPriodontes giganteusのように体長75~100センチメートル、体重30~60キログラムに達する種から、ヒメアルマジロChlamyphorus truncatusのように体長12~15センチメートル、体重80~100グラムほどのものまでみられる。
乾燥した草原や森林におもに単独ですみ、雑食性でアリや昆虫、ミミズ、爬虫(はちゅう)類などのほかに草の根、動物の死体なども食べる。夜行性で日中は地下に穴を掘って過ごすこともあり、ココノオビアルマジロDasypus novemcinctusでは地下に長さ0.6~3.6メートルの穴を掘る。一般に穴を掘ることが巧みで、敵に襲われると穴を掘って逃げるが、ミツオビアルマジロTolypeutus tricinctusでは頭甲、肩甲、横帯、腰甲、尾を外に出し、完全な球状になって身を守る。泳ぐこともでき、ココノオビアルマジロでは6分間も水中に潜っていたことが観察されている。普通は冬眠することがないといわれているが、小形のピチアルマジロChlamyphorus truncatusでは冬眠することがあるという。繁殖は1産4~8子であるが、卵(らん)の発生は特異なもので、ココノオビアルマジロの場合、受精する卵は一つで、ごく初期に4個の胚(はい)に分かれ4頭が出産する。すなわち、生まれた子は一卵性の四つ子ということになる。
アルマジロは古くはキュウヨ(犰狳)またはヨロイネズミ(鎧鼠)といったが、今日では使用されていない。
[齋藤 勝]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…皮膚の下の骨板では皮骨の部分が退縮しているうえ体側にはなんの骨格もないので,他のカメのような箱型の外骨格をなしていない。 哺乳類で甲といえるものはアルマジロに見られる。アルマジロの装甲は鱗状の角質の外被の下に皮骨の芯を備えたもので,ワニのうろこと構造が似ている。…
…通常5組の複弦を張り,一般のギターより音高が高い。木製のこともあるが,小動物アルマジロ(原地名キルキンチョ)の硬い甲羅をそのまま楽器の胴体(背面)として用いたものが多く,このことが外見上の最も顕著な特色となっている。ただし表面板のみはつねに薄い木材で作られる。…
※「アルマジロ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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