ノーベル賞のパロディとして1991年に創設された、世界中の独創性に富んださまざまな研究や発明などに対して贈られる賞。イグノーベルIg Nobelという名称は、ノーベル賞と英語の「ignoble(あさましい、不名誉の)」を組み合わせたもの。接頭語としてのigには否定的な意味があり、「裏ノーベル賞」ともいわれる。毎年秋、ノーベル賞の発表と同じころに、ハーバード大学のサンダーズシアターで表彰式が行われる。ユーモアやオリジナリティーに富んだ各賞は、ノーベル賞と同様に、物理学、化学、平和、経済学、医学、文学など、毎年10組前後が選出される。賞金はなく、ユーモラスな賞品が授与される。時に、異例の範疇(はんちゅう)を設けたり、「水爆の父」とされるエドワード・テラーに平和賞を贈るなど、強い皮肉を込めて選出するケースもある。「人々を笑わせ、そして次に考えさせる業績」という選考基準を重視しており、それゆえに受賞者の反発を招く場合もあるが、表彰に独特の存在価値をみいだす者が多いことも事実である。
1991年にイスラエルの科学関係雑誌『The Journal of Irreproducible Results(再現不能な結果ジャーナル)』の編集者エイブラハムズMarc Abrahams(1956― )によって創設された。1995年からは、アメリカでエイブラハム自身により創刊された『The Annals of Improbable Research(ありそうもない研究年報)』の主催となり、ハーバード・ラドクリフ物理学学生協会、ハーバード・ラドクリフSF協会が表彰式の共同スポンサーになっている。
1992年(平成4)の医学賞(足のにおいの原因物質を特定した資生堂の研究者)を皮切りに、1997年の経済学賞(バンダイの仮想ペット「たまごっち」開発者)、2002年(平成14)の平和賞(タカラのイヌ語翻訳機「バウリンガル」開発者)、2004年の平和賞(カラオケ発明者)など、日本人も多数受賞している。2013年には化学賞(タマネギの成分が目を刺激して涙が出る仕組みを解明したハウス食品などの研究者)と、医学賞(心臓移植マウスにオペラを聴かせると長生きするという研究を行った帝京大学などの研究者)でダブル受賞となった。その後も、2016年の知覚賞(前かがみになって股の間から後ろ方向にものを見ると、実際より小さく見える「股のぞき効果」を明らかにした立命館大学などの研究者)、2021年(令和3)の動力学賞(スマートフォンを見ながら歩く人がいると、集団全体の歩行速度が遅くなることをつきとめた京都工芸繊維大学などの研究者)、2023年の栄養学賞(微弱な電流を流した箸(はし)やスプーンを使うことで塩味を強く感じるなどの味覚の変化・強化を食事に生かすことを提言した明治大学などの研究者)などの受賞が続き、2023年時点で17年連続、日本人受賞者は延べ29組となった。
[編集部 2024年3月19日]
(椎崎亮子 フリーライター / 2009年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
(2018-8-30)
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