翻訳|innovation
本来の意味は新しい方法,仕組み,習慣などを導入することをいい,〈新機軸〉〈革新〉と訳される。すでに18世紀の産業革命に際し,ジョンソン博士は〈この時代は気ちがいのようにイノベーションを追い求めている〉と述べた。この語が経済学上の用語として定着したのは,J.A.シュンペーターが経済発展の根本現象として企業者・革新を理論の基礎に据え,それが一般に認められたことによる。今日ではイノベーションは〈技術革新〉とほとんど同義に用いられる。しかしシュンペーターは初め〈新結合neue Kombination〉という言葉を用い,生産要素(資本財,労働,土地)の結合の仕方,すなわち生産方法におけるいっさいの新機軸を表現し,これに新商品や新生産方法の導入のほか,新市場,資源の新供給源,新組織の開拓など,きわめて広範な事象を含ませた。彼が明示的に〈革新Neuerung/innovation〉という概念を用いたのは景気循環の説明においてである。今日ではもっぱら新商品,新生産方法の開発・企業化を〈革新〉と呼ぶ。さらに革新は必ずしも新技術の発明をまたなくても行われうるが,現代の大企業組織のもとでは革新は発明,新技術の開発と密接に結びついているため,両者は本質上区別されるべきものではあるが,これを一般に技術革新というのである。しかし技術革新は巨大企業から生ずるとは限らない。中小規模の革新や誘発された革新・新機軸もきわめて重要な意義をもつ。そして第2次大戦後の目覚ましい経済発展が多数の小規模な新機軸とともに,画期的な技術革新(原子力利用や電子工学の応用によるコンピューター,自動制御装置など)に基づくことは明らかといえよう。
→技術革新
執筆者:大野 忠男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 (株)ジェリコ・コンサルティング流通用語辞典について 情報
…〈企業者〉は本来学術用語であり,日常語の〈企業家〉〈経営者〉〈ビジネスマン〉のいずれとも正確に対応しない。〈企業者〉概念を確立したのはシュンペーターであり,1912年刊行の《経済発展の理論》において,経済の動態的発展は〈企業者〉による〈革新(イノベーション)〉ないし〈新結合neue Kombination〉によって可能になると主張した。静態的循環を繰り返す経済が,新技術の発明や生産要素の新しい結合方法のような〈革新〉により,より高い均衡水準に向かって動態的発展の過程に入ると,その過程に利潤や利子が発生するというのである。…
…ここではその両義について説明する。
[概念の変遷]
シュンペーターは経済において企業者が果たす役割を重視したが,なかでも彼らがリスクをおかして,それまでにはなかった新しい組織,技術,活動方法等を,経済のなかにもちこんでくる革新的行動=イノベーションの役割を重視した。こうしたさまざまなイノベーションと,成功したイノベーションが模倣をとおして経済活動全体の中に急速に普及していく過程が,景気の上昇局面をつくりだすと彼は考えたが,それらのなかでも最も重要なものは技術的なイノベーション=技術革新であるとしたのである。…
…同じく,成長現象と循環現象の関連についても見解は多様である。しかし,技術進歩あるいはシュンペーターのイノベーションなしには労働生産性の不断の増大を含む経済成長の実現が不可能であることについては,今日ではかなりの意見の一致がある。シュンペーターによれば,イノベーションの具体的形態として,(1)新しい財貨の生産,(2)新しい生産方法の導入,(3)新しい販路の開拓,(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得,(5)新しい組織の実現,が挙げられる。…
…主著の一つである本書はその副題の示すとおり,〈資本主義過程の理論的・歴史的・統計的分析〉であり,彼の社会学的諸研究(《租税国家の危機》(1918),《帝国主義の社会学》(1918‐19),《社会階級論》(1927)など)は,すべてこの主題のため,もっぱら制度に関する分析用具を用意することにあった。彼によれば,〈発展〉は生産要素の新結合=革新(イノベーション)から生じ,革新の担い手として異常な努力に堪えうる少数の人物が〈企業者〉にほかならない。そして革新は旧来の経済軌道を変革破壊し,その攪乱作用が景気循環を生むが,それが再び均衡状態を回復するとき,新しい価値体系と大量の生産物を作り出す。…
※「イノベーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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