改訂新版 世界大百科事典 「イブンアンナフィース」の意味・わかりやすい解説
イブン・アンナフィース
Ibn al-Nafīs
生没年:1208ころ-88
中世アラブの医者。ダマスクスに生まれ,カイロで死んだ。イブン・アッダフワールIbn al-Dakhwārについて医学を学び,カイロの病院長を務めた。ヒッポクラテス,フナイン・ブン・イスハーク,イブン・シーナーの注釈書を著す。重要なものは《医学典範》の2種の注で,一つは《典範要綱》,とくにそのラテン語訳の《Compendium medicinae》が知られる。他の一つは《イブン・シーナー解剖学注解》で,この書で彼は〈右心室と左心室との間にある目に見えぬ隔壁の隙間より血液が流れる〉というガレノス以来の誤りを退け,16世紀のセルベトゥスに先立って正しい肺循環の考えを提起した。アルパーゴAndrea Alpagoのラテン語訳があり,おそらくはベサリウスにも影響を与えた。
執筆者:五十嵐 一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報