イペリット(英語表記)yperite

デジタル大辞泉 「イペリット」の意味・読み・例文・類語

イペリット(〈フランス〉ypérite)

糜爛びらん性の毒ガスの硫化ジクロロエチルのこと。第一次大戦でドイツ軍がベルギーイーペルで初めて使用。純粋物は無色無臭であるが、工業製品はからし臭があるので、マスタードガスともいう。化学式(C2H4Cl)2S

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精選版 日本国語大辞典 「イペリット」の意味・読み・例文・類語

イペリット

  1. 〘 名詞 〙 ( [フランス語] ypérite ) 糜爛(びらん)性の毒ガス一種。分子式 (C2H4Cl)2S 第一次大戦においてドイツ軍がベルギーのイープル(Ypres)付近で用いたところから名づけられた。純粋なものは無色無臭であるが、ふつうは不純物混在によって褐色を呈し、からし(マスタード)臭を放つので「マスタード‐ガス」とも呼ばれる。微量でもこれにふれると、皮膚粘膜内臓にただれをおこす。

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改訂新版 世界大百科事典 「イペリット」の意味・わかりやすい解説

イペリット
yperite

びらん(糜爛)性の毒ガスとして知られる,塩素硫黄を含む化合物ビス(2-クロロエチル)スルフィド(ClCH2CH22Sをいう。第1次世界大戦中,ベルギーのイープルYpers付近でドイツ軍が初めて使用したことからこの名がある。また,セイヨウカラシ(マスタード)のにおいを有することからマスタードガスmustard gasともいう。融点14.45℃,沸点216.8℃の液体。純粋なものは無色でにおいもない。エチレンに塩化硫黄SCl2を作用させて合成する。あるいは,エチレンオキシド硫化水素からビス(2-ヒドロキシエチル)スルフィドをつくり,これを塩化水素で塩素化する。有機溶媒に溶け,皮革やゴムにも浸透する。遅効性の細胞毒で,皮膚に付着すると数時間後にびらんが生じる。皮膚や粘膜だけでなく,毛細管,赤血球をも侵す。一部分を他の官能基に変えた誘導体は,癌細胞への効果が期待され研究されている。
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百科事典マイペディア 「イペリット」の意味・わかりやすい解説

イペリット

化学式は(ClCH2CH22S。融点14.45℃,沸点216.8℃,比重1.27。そのにおいからマスタードガスと呼ぶが,純粋なものは無色無臭。水に難溶で加水分解されやすい。有機溶媒に易溶。皮膚への浸透性が強い糜爛(びらん)性の毒ガス。エチレンと二塩化硫黄から作る。第1次大戦でドイツ軍がベルギーのイープルで初使用(1917年)。同類にナイトロジェンマスタード(窒素イペリット)がある。
→関連項目毒ガス

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化学辞典 第2版 「イペリット」の解説

イペリット
イペリット
yperite

[同義異語]マスタードガス

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世界大百科事典(旧版)内のイペリットの言及

【化学兵器】より

…またイギリス,アメリカの研究協力,スウェーデンの独自研究により新しくV剤が開発された。 皮膚剤には,第1次大戦で使用されたイペリット(HD)などがある。イペリットはからし臭をもつためマスタードガスとも呼ばれ,粘膜や皮膚を糜爛(びらん)する物質であるが,上記の毒性表現法でいうと,1500mgの吸入で肺水腫を起こし死亡する。…

※「イペリット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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