びらん(糜爛)性の毒ガスとして知られる,塩素と硫黄を含む化合物ビス(2-クロロエチル)スルフィド(ClCH2CH2)2Sをいう。第1次世界大戦中,ベルギーのイープルYpers付近でドイツ軍が初めて使用したことからこの名がある。また,セイヨウカラシ(マスタード)のにおいを有することからマスタードガスmustard gasともいう。融点14.45℃,沸点216.8℃の液体。純粋なものは無色でにおいもない。エチレンに塩化硫黄SCl2を作用させて合成する。あるいは,エチレンオキシドと硫化水素からビス(2-ヒドロキシエチル)スルフィドをつくり,これを塩化水素で塩素化する。有機溶媒に溶け,皮革やゴムにも浸透する。遅効性の細胞毒で,皮膚に付着すると数時間後にびらんが生じる。皮膚や粘膜だけでなく,毛細管,赤血球をも侵す。一部分を他の官能基に変えた誘導体は,癌細胞への効果が期待され研究されている。
執筆者:小林 啓二
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…またイギリス,アメリカの研究協力,スウェーデンの独自研究により新しくV剤が開発された。 皮膚剤には,第1次大戦で使用されたイペリット(HD)などがある。イペリットはからし臭をもつためマスタードガスとも呼ばれ,粘膜や皮膚を糜爛(びらん)する物質であるが,上記の毒性表現法でいうと,1500mgの吸入で肺水腫を起こし死亡する。…
※「イペリット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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