インカ裂(読み)いんかぎれ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「インカ裂」の意味・わかりやすい解説

インカ裂
いんかぎれ

南アメリカのエクアドルからチリ中部にかけての海岸地帯は、フンボルト寒流の北上によって砂漠化が進み、このアンデス地帯で生活する人たちの死体埋葬の風習は、それに伴い多量の副葬品の保存に役だってきた。この出土染織遺品をインカ裂またはプレ・インカ裂とよぶ。インカ帝国成立(10世紀)以後のものだけでなく、紀元前5000~4000年のものから、スペイン征服(1543)以後のものまで含まれる。染織種類は豊富で、旧大陸で知られなかった織物組織のものさえある。おもな服装形態は、貫頭型のポンチョ、キルト風の腰衣、肩掛け袋、手提げ袋など。繊維材料はラクダ科のアルパカ木綿で、これを適切に交織させたが、簡単な原始機(げんしばた)で組織を丹念に拾いながら、時間を問題とせず複雑な組織を完成させた。とくに装飾化された文様と鮮明な色調は、近代の人たちに驚嘆を与えている。

[角山幸洋]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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