日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
インドール(複素環式芳香族化合物)
いんどーる
indole
複素環式芳香族化合物の一種。分子量117、無色の小葉状または板状結晶、融点53℃、沸点253℃。不快臭がありスカトール(メチルインドール)とともに糞臭(ふんしゅう)の原因となっているが、純粋で微量の場合は芳香がある。コールタール中や、ジャスミンなどの植物性の香油、腐敗タンパク質、哺乳(ほにゅう)動物の排出物中に存在する。トリプトファン、ある種のアルカロイド、インジゴなどの構造の骨格をなす物質でもある。
1866年ドイツの化学者バイヤーが、インジゴを亜鉛末と蒸留して還元することにより初めて得たものである。この発見はインジゴの構造決定に寄与するものであったが、同時に染料の化学合成への道を開くものでもあった。インドールは生物学的にはトリプトファンの代謝に関係する重要な物質の一つである。細菌やカビ類ではトリプトファンシンターゼ(トリプトファン生成酵素)という酵素の作用で、インドールとセリンからトリプトファンが合成される。また大腸菌などでは、トリプトファンがトリプトファナーゼという酵素によって分解を受けると、インドールがピルビン酸、アンモニアとともに生成される。動物ではこのような反応はみいだされていない。哺乳動物の排出物中にインドールやその誘導体がみいだされるのは、その動物組織によって形成されたものではなく、腸内バクテリアの作用によるものと考えられている。ジャスミンやネロリ油などの花の精油の調合、染料やアルカロイドを合成する原料として用いられる。
[飯島道子]