日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ウィルソン(Edmund Wilson)
うぃるそん
Edmund Wilson
(1895―1972)
アメリカの批評家、エッセイスト。プリンストン大学を卒業後、『バニティ・フェア』『ニュー・リパブリック』誌、とくに1944年から4年間は『ニューヨーカー』誌の書評家として活躍。フィッツジェラルド、ヘミングウェイ、ドス・パソス、フォークナーなどの鬼才を次々と発見し、アメリカの文芸復興に大いに寄与した。1931年、象徴主義の伝統を跡づけた名著『アクセルの城』を発表し、批評家としての地位を揺るぎないものとした。ほかに多重の意味の問題を扱ったThe Triple Thinkers(1938)、ロシア革命思想の形成を追ったTo the Finland Station(1940)、芸術と神経症の関係を論じた『傷と弓』The Wound and the Bow(1941)、ユダヤの歴史にメスを入れたThe Scrolls from the Dead Sea(1955)、それまでのリンカーン像に修正を加えた南北戦争文学史『愛国の血』Patriotic Gore(1962)などがある。彼の特色は、一つの立場に固執しない幅広い視野と説得力に富む筆致にあった。マルキシズムから始まり、象徴主義、精神分析、歴史主義へと忙しく移る視点にジャーナリズム臭がなきにしもあらずだが、つねに時代を背負う者を的確に予言するという希有(けう)な才能を有していた。
[森 常治]