改訂新版 世界大百科事典 「カシン=ベック病」の意味・わかりやすい解説
カシン=ベック病 (カシンベックびょう)
Kashin-Beck disease
1861年東部シベリアでロシアのカシンN.I.Kash inによって発見され,その後ベック夫妻E.V.Beck,A.N.Beckによって詳述された骨変形を起こす疾患で,中国東北地方,朝鮮北部にもみられた地方病。地方病性変形性骨関節炎osteoarthritis deformans endemicaともいう。成長期の子どもの骨端軟骨の変性や関節の腫張などが特徴的な初期の病変で,重症になると,身長の伸びが止まったり,唾液腺上皮細胞の変性,唾液腺ホルモンの分泌異常もひき起こすといわれる。原因としては飲料水との関係が重視されてきたが,ソ連では穀物につくカビFusaria sporotrichiellaの毒素によるとの説が有力であった。滝沢延次郎らが日本にも各所にみられると1960年代に報告し,飲料水中のフェルラ酸,パラヒドロキシケイ皮酸が唾液腺内分泌機能を障害し骨系統の病変を起こすためと主張した。とくに東京玉川浄水場の給水系統の学童に多いとの滝沢の報告により,東京都は70年9月,多摩川下流からの取水をやめ専門的検討を行った。現在では,原因としてセレンの欠乏が考えられている。
執筆者:溝口 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報