改訂新版 世界大百科事典 「ガラガラヘビ」の意味・わかりやすい解説
ガラガラヘビ
rattle snake
クサリヘビ科マムシ亜科のうち,尾端に特殊な発音器官をもつガラガラヘビ属Crotalus28種とヒメガラガラヘビ属Sistrurus3種の毒ヘビの総称。カナダ南東部から中央アメリカを経て南アメリカのアルゼンチンまで分布する。南アメリカに分布しているのは31種のうち2種。平地から高地まで広く分布し,メキシコでは4000mの高山にも見られ,横ばい運動で知られるサイドワインダーC.cerastesは砂漠にすむ。ガラガラヘビ類は音を発するがゆえに,〈頭巾(フード)踊〉のコブラとともに毒ヘビの双璧として知名度が高い。毒の主成分は出血毒。
全長はふつう1.2~1.8mくらいで,大はヒガシダイヤガラガラヘビC.adamanteus(英名eastern diamond-back rattle snake)の1.8~2.4mやニシダイヤガラガラヘビC.atroxの1.8~2.1m,小はカロライナヒメガラガラヘビS.miliarius miliariusの50~63cm。頭部は三角形で頸部(けいぶ)がくびれ胴はやや太い。頭頂部は細鱗に覆われるがヒメガラガラヘビ類では9枚の大型鱗がある。マムシ類の特徴として眼の前方にピット(頰窩(きようか))があり,獲物の温血動物の体温を微妙に感知する。餌はネズミなどの小哺乳類。ガラガラヘビ類を特徴づけている発音器官は,変形した尾端の鞘状うろこが脱皮ごとに1節ずつ残されるもので,古い節は自然に先端から脱落していく。中空の節が重なった尾部を激しく振動させ,ジ,ジ,ジィ,ジャーというような音を発するが,自然界でもっとも効率的に音を発するのは8節くらいあるものだとされる。しかし飼育に慣れた個体はあまり発音せず,また脱落しないで20以上も節が残るものもある。子ヘビの尾端には最初プレボタンと呼ばれる節ができ,最初の脱皮で脱落してからボタンと呼ぶ第1節を生じ,あとは脱皮ごとに節が増加する。しかし分化の遅れているヒメガラガラヘビ類では発音器官は小さく,毒性も弱い。ガラガラヘビが発音する理由には,種間のコミュニケーションのため,あるいはアメリカバイソンに踏みつけられるのを防ぐためなど諸説がある。考えられる確かな理由に,多くのヘビが興奮時に尾部を激しく振動させる行動に由来するというものがあり,脱皮殻の残った尾の場合はより効率的な音を立てる。いずれにしても,発音は毒ヘビの存在を知らせる警告信号であり,他の動物との無益なトラブルを防止するのに役だっている。しかし毒性の強いガラガラヘビ類による被害は,分布の広い北アメリカで多く,とくに大型のニシダイヤガラガラヘビなど数種類は危険。また熱帯アメリカに広く分布するミナミガラガラヘビC.durissus(英名cascabel/cascaval)も現地では恐れられている。ガラガラヘビ類はすべて卵胎生で,1度に10~20匹から多いものは60匹の子ヘビを生む。
執筆者:松井 孝爾 ガラガラヘビはアメリカ特有のものであるため,早くからヨーロッパ人に注目され,1630年に書かれたものの中で〈尾にガラガラrattleのあるヘビ〉と紹介された。独立戦争期には〈わたしを踏みつけるな〉のモットーとともに,植民地側の旗にも採用されている。南西部に多く存在し,インディアンの神話や開拓民の民話にもしばしば登場する。また,ガラガラヘビ油は痛風の痛みどめにきくと信じられていた。
執筆者:岡田 泰男
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