クリプトスポリジウム症・サイクロスポーラ症

内科学 第10版 の解説

クリプトスポリジウム症・サイクロスポーラ症(原虫疾患)

定義
 クリプトスポリジウム症はCryptosporidium parvumおよびC. hominisなどのクリプトスポリジウム属(Cryptosporidium)の,サイクロスポーラ症はCyclospora cayetanensisなどのサイクロスポーラ属Cyclosporaのいずれも胞子虫綱に属する原虫による腸管感染症である.いずれも免疫機能が正常なヒトに感染した場合,多くは無症候,軽症の感染で終わるが,免疫不全があるとき,しばしば重症化する.
原因・病因
 ヒトのクリプトスポリジウム症の主要な起因原虫はCryptosporidium hominisであり,ヒトにのみ感染がみられる.ウシなどの動物におもに感染するC. parvumもヒトに感染する.感染は成熟オーシストの経口摂取による.オーシスト内のスポロゾイトが小腸の微絨毛内部に侵入し,トキソプラズマと似た胞子虫特有の発育を行い,オーシスト形成に至る.オーシストは糞便中に排出され感染源となる.オーシストは塩素などの一般的な上水の消毒に抵抗性を示す.感染力は強く,10個以下のオーシストの経口摂取で感染が成立する.サイクロスポーラも胞子虫特有の生活環を示す.オーシストは未成熟のまま糞便中に排出され,外界で成熟する.宿主域は狭く,ヒトのみが感染する.
疫学
 途上国だけでなく米国をはじめ先進国においても,クリプトスポリジウム症は小児の重要な感染症である.先進国では1~3%,途上国では4~17%の小児下痢症の原因であるとされる.米国では年間5000~1万2000例の報告がある.わが国での報告例はきわめて少ない.ウシ・ヒツジをはじめ動物にも広く感染するため,ときに水,食物を介した集団感染が起こる.そのなかでも1993年に米国ミルウォーキーで起こった水道事故による最大規模の集団感染では,160万人が暴露,40万人が罹患,4000人が入院した.わが国でも水源汚染による感染,プールでの感染などが報告されている.また,クリプトスポリジウム症はAIDS日和見感染症としても重要であるが,antiretroviral therapy(ART)の著効により,AIDSに随伴するクリプトスポリジウム下痢症の有病率は低下している.サイクロスポーラの感染もわが国ではまれだが,輸入例を中心に十数例に達している.水系感染例の報告もあり,海外ではラズベリーなどを介した集団感染が報告されている.
病理・病態生理
 クリプトスポリジウム症は日和見感染症で,免疫力の弱い小児やAIDS,IgA欠損,免疫抑制薬投与時など免疫低下状態での感染で明瞭な症状を呈する.AIDSでは食道,胃,虫垂大腸,肺などにも感染が広がることもある.組織レベルでは,絨毛の萎縮,粘膜固有層への高度な細胞浸潤,クリプトの過形成などが認められている.大量の水溶性下痢の原因は直接的に示されていないが,空腸からの電解質などの過剰分泌,空腸からの胆汁の吸収阻害,感染小腸上皮細胞のアポトーシスが関与するとされる.サイクロスポーラ症でも,絨毛の萎縮,炎症性細胞の浸潤などが観察されている.
臨床症状
 クリプトスポリジウム症では,免疫機能が正常な場合は,症状を示さないか,軽度の一過性下痢,腹痛,ときに発熱などを訴える.症状は数日~10日前後で消失する.免疫不全がある場合,持続性の水様性下痢で,腹痛,発熱,脱水,栄養障害,体重減少などをみる.特にAIDSに合併したときには,下痢は遷延・重症化し,適切な治療が行われないと栄養障害,体重減少を起こし,致命的となる.サイクロスポーラ症の症状はクリプトスポリジウム症に類似している.
診断・鑑別診断
 クリプトスポリジウムでは糞便検体からスクロース遠心浮遊法でオーシストを濃縮し,抗酸染色または直接蛍光抗体法を行って,直径4~6 μmのオーシストを検出する(図4-15-7).蛍光抗体法や特異抗原を検出する市販キットも存在する.サイクロスポーラのオーシストはホルマリン-エチル酢酸法によって濃縮し,8~10 μm程度の球型の原虫を検出する.抗酸染色後に明視野で,あるいはオーシストの自家蛍光を蛍光顕微鏡を用いて検出する(図4-15-8).細菌性・ウイルス性下痢,非感染性下痢との鑑別が重要である.
治療
 AIDSの日和見感染症の場合は,治療の成否はおもにARTに依存する.クリプトスポリジウム症に対する確実な治療薬剤はまだないがアセチルスピラマイシンを800~1200 mg/日,分3~4,10日経口投与する.サイクロスポーラ症に対してはスルファメトキサゾール-トリメトプリン(ST)合剤,320~1600 mg/日,分2,7~10日投与を行う.[野崎智義]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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