異なる相の界面における化学種間の挙動の差、すなわち、吸着能、分配係数、揮発性、イオン交換能、分子サイズの差などを利用して混合物を分離、定量する操作法の一つ。クロマトグラフィーは後述するようにいろいろな形式のものがあるが、原理はすべて同じで、固定した吸着剤(固定相という)の一端に試料を導入し、溶媒あるいは気体をこれに連続的に流す(移動相という)。移動相は試料を含んでいる固定相からこれを溶かし出すが、溶質がここをゆっくりと通り抜けて、新しい固定相に触れると、ふたたび両相に対する物理的、化学的相互作用の程度により吸着あるいは分配される。固定相が固体の場合には吸着が、液体のそれでは分配によるものが相互作用のおもなものと考えられる。したがって、固定相と移動相との界面では物質の吸着や溶出が連続的に繰り返されていき、試料中に含まれている成分のうち吸着剤に親和性の強い成分ほど、溶出されて移動する割合が少なくなり、固定相の中にとどまる割合が大きくなる。つまり、親和性にわずかな差があれば固定相中の移動速度に相違ができ、混合物の分離が可能になる。混合物の分離には、沈殿、濾過(ろか)、蒸留、昇華、抽出、その他の物質の化学的、物理的性質の差を利用した方法が数多くあるが、クロマトグラフィーは簡単な操作を続けるだけで分離が可能な優れた方法である。利用範囲も化学、生物学、薬学、医学、農学、環境科学など、およそ物質を取り扱う諸科学の全分野に及んでいる。
[高田健夫]
現在行われているクロマトグラフィーの創始者はロシアの植物学者ツウェットで、1906年に、緑の葉に含まれる色素を、粉末炭酸カルシウムを詰めたガラス管に石油エーテル溶液を流して分離したのが最初の実験とされている(現在の液‐固クロマトグラフィーの方法である)。彼はこの方法をクロマトグラフィーと命名した。語源は、ギリシア語の色を意味するchromaと、描くを意味するgraphosとにある。日本においてはクロマトグラフ法ともよばれる。その後1941年にイギリスのマーチンとシングが、ツウェットの方法と似てはいるが、分離の機構が異なるいわゆる分配クロマトグラフィーを、移動相が液体で固定相も液体である液‐液クロマトグラフィーの形で導入した。これ以後分離に関する定量的な取扱いが容易になり、クロマトグラフィーの理論的取扱いが可能になり、分離法としての基礎が確立した。両者はこれらの業績に対して1952年にノーベル化学賞を受賞している。その後、この方法は移動相が気体の場合についても広く適用されるようになり、ガスクロマトグラフィーとして今日の発展をみた。一方、液‐液クロマトグラフィーは優れた分離法ではあるが、液‐液間で拡散平衡に達するのにかなりの時間がかかるという本質的な問題から、分離分析法としては実用上の難点があった。しかし、高性能の固定相の開発、高圧送液ポンプの利用などにより、ガスクロマトグラフィーに匹敵できる分離効率・分離時間で分離分析が行えるようになり、いわゆる高速液体クロマトグラフィーとして発展してきている。
[高田健夫]
クロマトグラフィーにはいくつかの分類法が知られているが、一つは移動相と固定相との組合せによる分類で、実際には四つのクロマトグラフ系が実用化されており、このうち、移動相に気体を用いたクロマトグラフィー、すなわち気‐液、気‐固クロマトグラフィーをあわせてガスクロマトグラフィー(GC)とよび、移動相に液体を用いた液‐固、液‐液の両クロマトグラフィーを液体クロマトグラフィー(LC)と称している。また、ほかの分類法として、現象的にみると、固定相に液体を用いる場合は、主として固定相と移動相への物質の分配力の差によって分離がおこるので、これを分配クロマトグラフィーとよび、固定相が固体の場合は、物質の分離が主として吸着力の差によっておこるので、これを吸着クロマトグラフィーとよんでいる。さらに操作上の形式による分類で、管柱(カラム)を使う広義のカラムクロマトグラフィーと、層状のものを使う層クロマトグラフィーとに分けたりする。前者は、普通、ガラス製の管に固定相や担体(固定相となる液体を保持するのに用いる固体。各種ガスに対し化学的に不活性で、吸着能をもたず、表面積が大きいものが用いられる)を詰め、移動相をその一端より流入し、後者は、固定相または担体を薄い層にしてガラス板に塗布して行う薄層クロマトグラフィー(TLC)や、濾紙片を固定相とするペーパークロマトグラフィー(濾紙クロマトグラフィーともいう、PC)がそうであり、微量物質の取扱いに適している。一方、カラムクロマトグラフィーは比較的多量の物質を取り扱うのに適している。
[高田健夫]
固定相が固体の吸着クロマトグラフィーでは、固体表面に対する物質の吸着量は、温度、圧力(あるいは濃度)に依存する。また、物質の分離は、溶質すなわち分離すべき物質、固定相すなわち吸着剤、および移動相の三つの要素で決まる。したがって試料の溶質の性質によって、これに対応した固定相と移動相を選ぶことが重要となる。たとえば、極性の大きい溶質を分離するのには活性度の低い吸着剤を使い、移動相は、液体なら極性の大きい溶媒を使うと良好な分離ができる。吸着剤としては、吸着力の大きい活性炭、活性アルミナ、活性ケイ酸マグネシウム、酸化マグネシウムから、吸着力の弱いショ糖、デンプン、炭酸ナトリウムなど、多くのものが目的によって使い分けられている。移動相液体としては、極性の強いピリジン、水、メタノール(メチルアルコール)、エタノール(エチルアルコール)、アセトンから、極性の弱い石油エーテル、シクロヘキサン、四塩化炭素、ベンゼンその他多くの溶媒が利用されている。なお、移動相が気体のガスクロマトグラフィーでは、用いる気体をキャリヤーガスとよび、ヘリウム、窒素などのような不活性ガスがおもに使われる。吸着剤にイオン交換樹脂を用いる場合はとくにイオン交換クロマトグラフィーとよび、また固定相に不活性な多孔性充填(じゅうてん)剤を用い、この孔(あな)の中への試料成分の浸透性の難易によって、分子サイズの分離をする方法を、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲルクロマトグラフィー)とよんで区別している。この方法では、試料成分中の大きい分子は孔の中に入りにくいので、充填剤と充填剤の間を通って速く流出するが、小さい分子は孔の中に入ったり出たりしながら流出するので遅くなり、そのために両相が分離されることになる。この場合、移動相溶媒に水系溶媒を用いるのをゲル濾過クロマトグラフィー、有機系溶媒を用いるのをゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)とよぶことがある。
[高田健夫]
固定相が液体の分配クロマトグラフィーでは、液体に対する物質の分配は分配の法則が成立する。すなわち、混合しない2相間の溶質の濃度をc1、c2とすると、この比c1/c2=βは濃度によらず一定となる。これを分配係数という。固定相には充填剤に適当な液相をしみ込ませたものを使い、この液相と混ざり合わない溶媒を移動相として流すと、固定相と移動相との間に試料成分の分配がおこり、その分配係数の差によって成分の分離が行える。たとえば、固定相に溶解しやすい、したがって管中をゆっくり移動する成分は、溶解しにくい成分よりも分配係数は大きいことになる。一般に、固定相に極性のある液相を用いたときは、移動相には極性の弱い液体が利用される。また反対に、固定相に非極性の液相を用いたときには、移動相には極性液体を用いるが、この方法を逆相分配クロマトグラフィーとよんでいる。固定相は適当な固体担体に液体(液膜)をしみ込ませてつくる。たとえばクロマトグラフィーのなかでもっとも簡単で安価に実験できるペーパークロマトグラフィーでは、固定相を保持する担体は濾紙であり、濾紙の中に含まれている水が固定相となる。移動相は水と混合しない有機溶媒が用いられ、毛細管現象による浸透によって移動する。カラムクロマトグラフィーでは担体にシリカゲル、珪藻(けいそう)土、ガラス、合成樹脂粉末などが比較的よく用いられ、これに、水、ポリエチレングリコール、パラフィン、シリコーン油その他を、測定対象となる成分の性質によって使い分ける。
[高田健夫]
分離されて出てきた成分の検出や定量には、さまざまな方法が利用されている。一般に、層クロマトグラフィーでは、発色剤を噴霧したり、紫外線を当てて蛍光を観察したり、分光器による光の吸収や反射などを測定したりするものが多い。液体クロマトグラフィーでは、分光光度計、示差屈折計、蛍光光度計が一般的で、質量分析計、赤外分光光度計、放射能検出器なども、それぞれ目的に応じて使用される。ガスクロマトグラフィーでは、気体の種類により、熱伝導の異なることを利用した熱伝導度検出器、キャリヤーガス中に存在する試料成分をイオン化し、そのイオン電流値から求める水素炎イオン化検出器、ある特定成分に対して異常に高い感度を示すいくつかのいわゆる選択的検出器などが利用されている。
[高田健夫]
クロマトグラフィーの操作に共通的な基本用語のいくつかについて述べる。
移動相が固定相と接しつつ移動する過程を展開といい、移動相が液体なら、それを展開剤という。イオン交換クロマトグラフィーでは、この展開を溶離といい、使う溶媒を溶離液とよんでいる。展開によって得られる混合成分の分離結果を総称して、クロマトグラムという。
[高田健夫]
『佐竹一夫著『共立全書12 クロマトグラフィー』(1955・共立出版)』▽『森定雄・原昭二・花井俊彦著『クロマトグラフィー分離システム』(1981・丸善)』▽『G・J・シュガー、J・A・ディーン著、二瓶好正・飯田芳男監訳『化学計測ハンドブック――前処理操作から最新機器まで』(1991・マグロウヒル出版)』▽『津田孝雄著『クロマトグラフィー――分離のしくみと応用』第2版(1995・丸善)』▽『ピーター・A・シューエル、ブライアン・クラーク著、中村洋監訳『廣川化学と生物実験ライン46 クロマトグラフィー分離法――基礎と演習』(2001・廣川書店)』▽『岡田哲男他編『クロマトグラフィーによるイオン性化学種の分離分析 イオンクロマトグラフィーの基礎理論から実践まで』(2002・エヌ・ティー・エス)』
化学物質を分離するための手法。蒸留,抽出などに比較し,格段に分離能力が高いため,複雑な組成の試料を扱うことができる。混合物の分離精製に使われることもあるが,検出器と組み合わせ,主として分析目的に利用されている。今日,化学物質を扱う各分野で,なくてはならない手法として活躍している。
クロマトグラフィー(色の記録の意)の名付親はロシアの植物学者ツベットMikhail Semenovich Tsvet(1872-1919)である。ツベットは1906年に植物葉に含まれる色素類の分離を初めて報告した。すなわち,吸着剤として炭酸カルシウムの粉末を充てんしたガラス管を用意し,葉の抽出液を少量上端から注入した。ついで石油エーテルを流すと各成分は異なる速度で管中を移動し,ある時間後には各成分ごとに着色帯を示した。ツベットの方法は今日,液-固クロマトグラフィーと呼ばれる方法に属する。クロマトグラフィーの創始者をツベットとする説には異論もある。しかし,はじめ管の上端に狭い帯状に試料を導入し,これを溶媒で洗い流す手法を生みだしたことは画期的であった。ツベット以後の発展は遅々としていたが,30年,R.J.クーン,レドラーEdgar Lederer(1908- )らがニンジン中のカロチン類および卵黄中キサントフィル類の分離に適用して以来一般的に使われるようになった。
41年,マーティンArcher John Porter Martin(1910-2002)とシングRichard Laurence Millington Synge(1914-94)は吸着剤のかわりに液体を用いる方法(液-液クロマトグラフィー)を開発した。以後,ろ紙を用いる方法,イオン交換(1947)や分子ふるい(1959)などの現象を利用する方法,液体を流すかわりに気体を流す方法(ガスクロマトグラフィー,1952)などがつぎつぎに出現し,急速に進歩発展した。
分離には通常二つの相が必要とされる。固定相(ツベットの例では炭酸カルシウム)と,そのすきまを通して動く移動相(同,石油エーテル)とである。固定相には多孔質粒子に塗布した液体,あるいは粒状吸着剤などが用いられる。移動相には液体または気体が用いられる。そこでクロマトグラフィーは固定相と移動相の組合せから表1のように分類される。
分離のようすを模式的に図1に示す。各成分は固定相と移動相との間に分配されるが,その分配割合が成分ごとに異なるため,移動に従って分離される。移動相は成分を前進させる力として,固定相はこれに抵抗してとどめようとする力として働いている。なお,分離は図1の上から5段目または6段目あたりで止める方法(後述の薄層クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィーの場合)と成分ごとに溶出させて検出器に導き,クロマトグラムを自動的に得る方法(ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーの場合)とがある。
固定相の種類を選ぶことによって,吸着,溶解,分子ふるい,イオン交換などの現象を利用できる。そこで,利用する現象をもとにした呼び方も多用される。これに属するものは,吸着クロマトグラフィーadsorption chromatography(LC,GCともにあり),分配クロマトグラフィーpartition chromatography(LC,GCともにあり),立体排除クロマトグラフィー(分子ふるい効果を利用したLC),イオン交換クロマトグラフィー(イオン交換体を固定相とするLC)などである。また,分離の行われる場の形状から,カラムクロマトグラフィーcolumn chromatography(カラムと呼ばれる,固定相の充てんされた内径数mm,長さ数十cm~数mのガラスあるいはステンレス鋼管中で分離を行うもの),薄層クロマトグラフィーthin layer chromatography(各種固定相を薄く塗布したガラス板またはプラスチック板上で分離を行うLC。TLCと略記),ペーパークロマトグラフィーpaper chromatography(ろ紙上で分離を行うLC。ろ紙クロマトグラフィーともいう。PCと略記)などとも分類,呼称される。なお,発展が遅れていたカラムを使うLCが70年代に急速に進歩し,高速液体クロマトグラフィーhigh pressure(またはperformance)liquid chromatography(HPLCと略記)と呼ばれるようになり,盛んに使われている。
試料中の各成分が何であるかを推定するときに利用できる情報として,TLCやPCでは分離された成分の位置があり,GCやHPLCではピークの出現位置(保持値)がある。これらはあくまでも推定情報を与えるにすぎず,信頼性のある定性分析を行うには分離成分ごとに特異的化学反応を使って試験したり,光吸収スペクトルや質量スペクトルを得て標準物質のそれとの比較をしたりする必要がある。なお,保持値は固定相の種類,量,移動相の種類,流量,分離温度などによって変わる。
PCではあまり確実な定量はできない。TLCでは分離された成分を含む固定相をかきとって溶媒抽出し,他の分析機器にかけて定量したり,分離方向にそって吸光度測定してクロマトグラムを得てから各成分のピーク面積を求め,あらかじめ作成したピーク面積-成分量関係線(検量線)を使って定量する。GCやHPLCではクロマトグラム上のピーク面積を求め,検量線を用いて定量する。なお,ピーク面積は三角形に近似しての測定や電気的積分器(インテグレーター)によって求められる。
(1)ガスクロマトグラフィーgas chromatography(GCと略記)図2に装置(ガスクロマトグラフ)の概要を示す。GCでは常温で気体の成分はもちろん,400℃程度に加熱したとき気化する成分ならば対象となる。移動相である気体はキャリアガスと呼ばれ,ヘリウム,窒素,水素などが多用される。これら気体は通常ボンベから減圧弁を通して供給され,試料の導入はシリンジその他によって行われる。
気-固クロマトグラフィーにおいて用いられる吸着剤には活性炭,活性アルミナ,シリカゲル,モレキュラーシーブ(合成ゼオライト)などがある。内径3mmのカラムの場合,吸着剤の粒度は80メッシュ前後のものがよく使われる。これら吸着剤によって酸素,窒素,一酸化炭素,二酸化炭素などの無機ガスやメタン,エタンなどの低級炭化水素の分離が行われる。
気-液クロマトグラフィーでは,ケイ藻土や耐火煉瓦粉などの多孔質粉体(40~120メッシュの間で粒度をそろえたもの)に不揮発性液体(パラフィン油,シリコーン油,シリコーングリース,ポリエチレングリコールなど)を均一に塗布したものが用いられる。近年,ガラスあるいはシリカ毛管(内径0.2~0.4mm,長さ数十m)の内面にこれら不揮発性液体を塗布あるいは架橋により高分子化して固定したカラム(キャピラリーカラム)が高分離効率,化学的安定性をもつため生化学試料のような複雑な組成をもった試料の分析に多用されている。表2にはおもなGC用検出器の特性を示す。
またGCと質量分析器mass spectrometer(MSと略記)とを直結した装置(GC-MS)が市販されている。GCによる分離成分についてMSで質量スペクトルを得ることにより,それが何であるかを信頼性高く決定できる。最近ではコンピューター(COM)ともつなぎ,GC-MS-COMとした装置が利用できる。同様の装置としてGC-IR(赤外線吸収分析計)がある。
なお,カラム温度を徐々に上昇させる昇温法を用いると,幅の広いピークとして遅れて出てくる成分を,幅の狭いピークとして早く溶出させることができ,分析を効率よく行える。図3にC3およびC4炭化水素のクロマトグラム例を示す。
(2)高速液体クロマトグラフィー 適当な溶媒に溶解する試料はすべてHPLCの対象となる。HPLCの特徴は移動相液体と固定相の組合せが多種多様であり,試料に応じて選択できることである。図4に装置の概要を示す。HPLCにおける移動相は移動相貯槽から高圧液体ポンプを通して供給される。試料導入は通常,特殊な試料導入バルブを用いて行う。固定相に液体を使うことはあまりない。シリカゲルやシリカゲルにオクタデシルシランやオクチルシランを化学結合した粒径数μm~10μmの範囲の粒度のそろったものが吸着クロマトグラフィー用固定相として使われることが多い。図5にオクタデシルシラン結合シリカ固定相を使ったアデニン核酸類の分離例を示す。
陰イオン交換体あるいは陽イオン交換体を固定相とするイオン交換クロマトグラフィーion-exchange chromatographyは金属イオン,有機物イオンなど,水中にイオンとして存在する成分の分離,定量に用いられる。この手法を用いたアミノ酸分析計の歴史は長く,自動分析装置が市販されている。また,同じ原理を応用したイオンクロマトグラフィーはとくに陰イオンの高感度分析法として環境分析などで活用されている。
デキストラン,スチレン-ジビニルベンゼン共重合体を代表とする固定相は適当な溶媒中でゲルとなり,分子ふるい効果を示す。これらを充てんしたカラムで試料を分離すると分子量の大きなものから順次溶出する。これを立体排除クロマトグラフィーといい,ポリマーの分子量分布の測定や生体試料の分析などに利用されている。図6にポリスチレン(平均分子量600)の分離例を示す。
HPLCで用いるカラムはGCで用いるものに比較して長さが短く,通常数cm~数十cmのステンレス鋼管に充てん物(固定相)をつめたものが使用される。表3にHPLCで用いられるおもな検出器の特性を示す。
HPLCにもGC同様,質量分析計と直結した装置が市販されている。移動相の組成が分離対象に応じて変わることもあり,GC-MSほどの威力を発揮するには至っていない。なお,GCにおける昇温法に相当する手法として,移動相組成をしだいに変化させる方法が利用される。
(3)薄層クロマトグラフィーおよびペーパークロマトグラフィー この場合の移動相液体は毛細管現象を利用し,上昇させる(展開と呼ぶ)ことが多い。TLCではHPLCで使われる固定相-移動相の組合せがどれも利用できる。また,二次元展開法(正方形の薄層板の一隅に試料を添加し,x方向とy方向に順次異なる組成の移動相で展開する方法)によれば生化学的試料などかなり複雑な組成の試料も分析可能である。TLCはHPLCやGCに比較し多少信頼性は劣るが,簡便な方法として広く利用されている。
クロマトグラフィーでは試料成分を互いに分離できるため,カラムや薄層を大型あるいは厚くし,純物質を得るために使うことができる。この目的のための分取用装置も市販されている。また,試料分子と固定相物質との相互作用を利用しているため,溶解熱,吸着熱,活量係数の測定など,物理化学的研究にも利用できる。
執筆者:保母 敏行
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
各種の固体または液体を固定相(stationary phase)とし,気体または液体を展開剤(移動相,moving phase)として,混合試料を移動させて各成分の吸着性または分配係数の差を利用して分離する方法.移動相が気体の場合をガスクロマトグラフィー,液体の場合を液体クロマトグラフィーという.1906年,ロシアの植物学者M.S. Twettが,炭酸カルシウムの分離管に植物の石油エーテル抽出液を通して,クロロフィルなどの植物色素を帯状に分離することを発見して,これをクロマトグラフィー(色を描く)と名づけた.その方法は,その後ほとんど注目されなかったが,約30年後,R.J. Kuhn(クーン)らがカロテンの分離に用いて成功して以来,多くの天然物の分離精製に用いられるようになった.1941年,A.J.P. Martin(マーチン)とL.M. Synge(シング)は,2液相の分配係数の差を利用する分配クロマトグラフィーを考案し,さらに沪紙を用いる簡単な分離法,沪紙クロマトグラフィー([別用語参照]ペーパークロマトグラフィー)に発展させた.また,1952年,Martinと共同研究者らは,移動相に気体を用いる分配ガスクロマトグラフィーを発見し,今日ではこの方法は気体,液体ばかりでなく,固体の分析にも用いられ,非常に多くの分野で重要な分析法となっている.最近では,ガラス板上にシリカゲルなどをつけた薄層クロマトグラフィーや,イオン交換樹脂を用いるイオン交換クロマトグラフィーなど,クロマトグラフィーに包含される種々の分離方法が有機化学,生化学,医学などの分野で必須の手段となっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)
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