普通は,CrⅥのH2CrO4(118.01)と,その塩MⅠ2CrO4をさすが,二クロム酸H2CrⅥ2O7の塩,二クロム酸塩MⅠ2Cr2O7も含める.ほかに,三量体と四量体の塩も知られている([別用語参照]ポリクロム酸塩).
酸:H2CrO4(metachromic acid)は,酸化クロム(Ⅵ)(三酸化クロム)に水を加えると生成するが,単離はできない.この水溶液の溶存種は,pH > 6ではCrO42-,pH = 2~6では,
2HCrO4- Cr2O72- + H2O
の平衡,pH < 1ではH2CrO4が主である.ただし,塩水溶液に酸を加える場合,HNO3,HClO4では,このようになるが,HCl,H2SO4では,[CrO3Cl]-,[CrO3(SO4)]2- などを生じる.塩基で中和するとクロム酸塩を生じる.クロム酸ナトリウムNa2CrO4は,工業的にはクロム鉄鉱Cr2FeO4のアルカリ融解と空気酸化で得られる.ほかの金属の塩も酸化クロム(Ⅵ)の中和,またはほかの金属塩との複分解などで得られる.
塩:塩は普通,濃い黄色(電荷移動スペクトルによる)で,四面体型の [CrO4]2- を含むイオン結晶である.Cr-O約1.65 Å.水溶液も黄色であるが,酸性にするとCr2O72-を生じて橙色となる.水溶液は酸化性がある.とくに酸性では酸化力が強い.
Cr2O72- + 14H+ + 6e- → 2Cr3+ + 7H2O
アルカリ性では,酸化力はやや弱い.
CrO42- + 4H2O + 3e- → Cr(OH)3 + 5OH-
[CAS 12134-11-1]
二クロム酸H2Cr2O7(dichromic acid)は単離できないが,塩は安定に固体で存在しうる.クロム酸塩の水溶液に酸を加えると得られる.アルカリ金属塩はイオン結晶をつくり,そのなかで,[Cr2O7]2- は2個の四面体型のCrO4が1個のOを共有して結合した形である.Cr-O(四面体部分)約1.62 Å,Cr-O(橋かけ部分)約1.77 Å.∠Cr-O-Cr約123°である.[CAS 13530-68-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
クロム(Ⅵ)のオキソ酸H2CrO4であるが、この酸自体は単離されていない。酸化クロム(Ⅵ)CrO3の水溶液がクロム酸溶液であるため、酸化クロム(Ⅵ)がクロム酸といわれたこともあった。
CrO3+H2O→H2CrO4
低濃度のクロム酸溶液は黄赤色であるが、濃度が高くなるにしたがって赤色ないし濃赤色を呈し、黒ずんだ色となる。溶液中にはCrO42-、HCrO4-、Cr2O72-などのイオンが存在し、高濃度になるとポリ酸イオンCr3O102-、Cr4O132-を生ずる。クロム酸イオンは塩基性では安定であるが、酸性になると可逆的に二クロム酸イオンCr2O72-に変化する。
2CrO42-+2H+Cr2O72-+H2O
[岩本振武]
クロム酸塩MI2CrO4を生成する酸H2CrO4の名称。遊離状態ではとり出されていないが,酸化クロム(Ⅵ)CrO3の水溶液をこのように呼ぶことが多い。転じてCrO3そのものをクロム酸ということもあるが,誤称である。酸化クロム(Ⅵ)水溶液がきわめて濃度の低いときは,クロム酸塩水溶液に似た黄赤色で,
CrO3+H2O⇄2H⁺+CrO42⁻
に近い状態であると考えられるが,濃度が高くなるにつれて赤色となり,HCrO4⁻,二クロム酸イオンCr2O72⁻などが含まれてくるようになり,さらに高濃度になって赤黒色となると,三クロム酸イオン[Cr3O10]2⁻,四クロム酸イオン[Cr4O13]2⁻などのポリクロム酸イオンが含まれてくる。
執筆者:中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…
[酸化クロム(III)]
化学式Cr2O3。二クロム酸アンモニウム(NH4)2Cr2O7を熱分解させるか,二クロム酸塩を硫黄などと熱して還元してつくられる。 (NH4)2Cr2O7―→Cr2O3+N2+4H2Oまた水酸化クロム(III)を熱しても得られる。…
…化学式H2Cr2O7。重クロム酸bichromic acidともいうが,これは誤称である。遊離の状態では得られず,酸化クロム(VI) CrO3の水溶液中でクロム酸H2CrO4と平衡を保っていることが知られている。…
※「クロム酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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