日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
グラウバー(Johann Rudolph Glauber)
ぐらうばー
Johann Rudolph Glauber
(1604―1670)
ドイツの化学工業家。正規の学校教育を受けなかったが、ドイツ各地を遍歴して化学と薬学を修業した。ギーセンの宮廷薬剤師を務めたのち、アムステルダムに定住して優れた薬品製造所を建てた。彼の功績は、化学炉や蒸留器などの化学装置に改良を加え、さまざまな化学薬品や医薬を大量に製造したことである。濃硫酸、硝酸、塩酸やそれらの塩類の製造はとりわけ重要であるが、そのほか木材や石炭を乾留していろいろな揮発性有機物を得たり、アンチモンやマンガンの化合物をつくった。また、三十年戦争(1618~1648)で疲弊したドイツを救うため、化学工業をおこして国内の資源を活用することを主張した。彼の化学理論はパラケルススの神秘主義的錬金術の影響を強く受け、食塩と硫酸からできる硫酸ナトリウム(グラウバー塩)を奇跡塩と称してその医療効果を誇大に吹聴(ふいちょう)するような面もあったが、塩の成分や複分解についてはかなり明瞭(めいりょう)な概念をもっていた。『新しい哲学の炉』(1646~1649)をはじめ多数の著作を残した。晩年はヒ素や水銀の慢性中毒によって病気がちとなり、1670年に貧しく死んだと伝えられる。
[内田正夫]