配糖体あるいはオリゴ糖(少糖)のグリコシド結合を加水分解する酵素の総称。グリコシドヒドラーゼともいう。多糖のグリコシド結合を加水分解する酵素(アミラーゼ、セルラーゼなど)とは区別されるが、その境界は明確ではない。国際生化学連合(現在は国際生化学・分子生物学連合)の酵素委員会が制定した酵素の分類による「EC3.2.グリコシル化合物に作用する酵素群」に属す。
グリコシド結合とは単糖のアノマー性ヒドロキシ基(単糖が環状構造を形成するときにできたヒドロキシ基のこと)の水素が他の化合物と置換してできる結合のことである。配糖体とは非糖物質に糖がグリコシド結合したものである。オリゴ糖とは単糖が2~10個グリコシド結合したものである。
グリコシダーゼにはα(アルファ)-グリコシダーゼとβ(ベータ)-グリコシダーゼがある。糖のアノマー性ヒドロキシ基は他のヒドロキシ基との位置関係からαとβの2種類に区別される。単糖が6員環(炭素5個と酸素1個からなる環。ブドウ糖のようなアルデヒド基をもつ六炭糖が環状構造を形成するときに形成される。6員環状の糖をピラノースと総称する)を形成した場合、6位(糖の炭素にアルデヒド基の方から順に番号をつけて6番目の炭素のこと)のCH2OHと、環面に対してトランス(反対側の意味)配位のアノマー性ヒドロキシ基をα-アノマー、シス(同じ側の意味)配位のものをβ-アノマーとして区別する。α-およびβ-アノマー性ヒドロキシ基が関与した結合を、それぞれα-グリコシド結合およびβ-グリコシド結合とよぶ。グリコシダーゼはこの立体配位を厳密に区別する。酵素名には分解できるグリコシド結合のアノマー配位を併記する。また、オリゴ糖を加水分解するグリコシダーゼは内部のグリコシド結合を分解するエンド型と、糖鎖の非還元末端のみに作用するエキソ型に大別される。
グリコシダーゼは自然界に広く存在し、基質名にちなんだ名が別名として広く用いられている。たとえば、スクラーゼ(スクロースすなわちショ糖を加水分解する。系統名はSucroseα-D-glucohydrolase。EC3.2.1.48)、マルターゼ(マルトースすなわち麦芽糖を分解する。系統名はα-D-Glucoside glucohydrolase。EC3.2.1.20)、ラクターゼ(ラクトースすなわち乳糖を分解する。系統名はβ-D-Galactoside glucohydrolase。EC3.2.1.23)など。グリコ-、glyco-は糖一般を、グルコ-、gluco-はグルコースすなわちブドウ糖を意味する。グリコシダーゼの研究には江上不二夫(えがみふじお)らのグループの寄与が大きい。
[徳久幸子]
グリコシドを糖とアグリコンとに加水分解する反応を触媒する酵素の総称.基質となるグリコシドの糖の種類により,グルコシダーゼ,ガラクトシダーゼなどとよばれる.また,ヌクレオシドのN-グリコシル結合を加水分解するヌクレオシダーゼ,β-D-グルコピラノース型,またはβ-ガラクトピラノース型のチオグリコシドを加水分解するチオグルコシダーゼもこれに包含される.[CAS 9032-92-2]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 炭水化物中の糖と糖の間の結合の分解および生成はいずれも特異的な酵素によってつかさどられている。分解酵素はほとんどの場合加水分解酵素であり,これらはグリコシダーゼglycosidaseと総称されている。合成酵素は糖転移酵素(グリコシルトランスフェラーゼglycosyltransferase)と総称され,糖の活性化型である糖ヌクレオチドから単糖単位を移して糖鎖をのばす働きをする。…
…すなわち,一度完成した高マンノース型糖鎖のマンノース鎖が切り縮められて短くなったものを出発材料として,ここにN‐アセチルグルコサミン,ガラクトース,シアル酸,フコースが転移して,複合型糖鎖ができあがるのである。
[糖タンパク質の異化]
糖タンパク質の糖鎖の複雑な構造に対応して,その酵素(グリコシダーゼglycosidase)的加水分解による異化の機構も複雑なものとなる。糖鎖の末端から,1個ずつ単糖が特異的な糖加水分解酵素によって切断されていくのが酵素的加水分解の基本である。…
※「グリコシダーゼ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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