ケルト語派(読み)ケルトゴハ

デジタル大辞泉 「ケルト語派」の意味・読み・例文・類語

ケルト‐ごは【ケルト語派】

インド‐ヨーロッパ語族の一語派。アイルランド語ウェールズ語などがこれに属する。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ケルト語派」の意味・読み・例文・類語

ケルト‐ごは【ケルト語派】

〘名〙 インドヨーロッパ語族の一語派。紀元前数世紀の頃にはヨーロッパ中・西部で広く話されていたが、現在は限られた地域にだけ残る。島嶼ケルト語に分類されるゲール諸語アイルランド語、スコットランドゲール語、マン島語)とブリタニック諸語(ウェールズ語、コーンウオール語、ブルトン語)以外に、大陸ケルト語ゴール語ケルトイベリア語北イタリア・ゴール語)がある。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケルト語派」の意味・わかりやすい解説

ケルト語派
けるとごは

インド・ヨーロッパ語族中の一分派。ケルト人は紀元前5世紀~前3世紀にかけて、原住地と目される現在の南ドイツ地方から、ヨーロッパ各地へ広がっていった。ブリテン諸島へ渡来したケルト人もその一部であった。このようにケルト語は広い地域で話されていた。これらの言語をあわせてケルト語派という。地理的観点から大陸ケルト語(ゴール語、ケルト・イベリア語)および島嶼(とうしょ)ケルト語(ブリタニック語、ゲーリック語)の二つに分けることができる。

 大陸ケルト語は5世紀にはラテン語に吸収された。ブリテン島では同じころブリタニック語がアングロ・サクソンの侵攻により語形が崩れ、しだいにウェールズ語、コーンウォール語(18世紀末に廃れた)および対岸のブルターニュ地方のブルトン語などの下位語群に分かれていった。他方アイルランドのゲーリック語からは、6~7世紀にかけて、いわゆる古期アイルランド語が形成された。スコットランド・ゲール語およびマン島語(マンクス語)はその派生である。

 以上のうちケルト・イベリア語を除く大陸ケルト語およびブリタニック諸語では、インド・ヨーロッパ祖語における子音kw(=qu)がpの音で現れている。たとえば、ラテン語quattuor(四つ)に対して、ゴール語petor-、ウェールズ語pedwarのようにである。この事実から、これらのケルト語をまとめてP群p-Celticとよぶことが多い。他方ゲーリック諸語はQ群q-Celticとよばれる。ウェールズ語pedwar(四つ)に対するアイルランド語ceathair[k'ahir]はその一例である。総じてケルト語は、インド・ヨーロッパ祖語における語頭の子音pを落とす傾向にあった。そのほか語頭の緩音化・鼻音化とよばれる変音現象、さらには語彙(ごい)、形態、文構造にもこの語派には著しい特徴がみられる。代名詞と融合して人称と数に応じて変化するいわゆる屈折前置詞の使用、動詞文頭のVSO(動詞―主語―目的語)の語順など。古い豊かな文献を有するアイルランド語やウェールズ語はいまも活力のあるケルト語ではあるが、その実勢力は英語の圧力に押されて漸減する現状にある。

[土居敏雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ケルト語派」の意味・わかりやすい解説

ケルト語派 (ケルトごは)
Celtic

インド・ヨーロッパ語族中の一分派。前数世紀のころには西ヨーロッパからギリシア,バルカンを経て,小アジアの一部に至る広い地域でこの言語が用いられていたが,のちにローマ,ゲルマンという二つの大きな勢力にはさまれ,徐々にこれに屈服し,吸収されていった。現在ではその使用地域,使用人口とも非常に限られている。

 ケルト語はインド・ヨーロッパ共通基語における1個の子音kwをq(=c)で保っているかpに変えているかによってq-群(ゲーリック語)とp-群(ゴール語ブリタニック諸語)に大別される。しかし地理的視点により大陸ケルト語(ゴール語,ケルト・イベリア語)および島嶼ケルト語(ブリタニック諸語,ゲーリック語)の二つに分けるのがより合理的であろう。大陸ケルト語は前6~前5世紀のころから知られているが,5世紀にはラテン語に吸収された。同じころブリタニック諸語はアングロ・サクソンの勢力下で語形がくずれ,やがてウェールズ語その他の方言に分かれてゆく。他方ゲーリック語も6~7世紀にかけて古期アイルランド語Old Irishの姿をとって現れる。ケルト諸語では共通基語における語頭の子音pが落ち(ラテン語pater〈父〉に対して古期アイルランド語athairのごとく),また一般に基語のeがiに変わっている。この語派は音韻のみならず語彙,形態,文構造にも著しい特徴を示す。ケルト語はイタリック語に類似の点が多く,従来よくイタロ・ケルティック語派を措定することが行われたが,これは最近では否定される傾向が強い。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「ケルト語派」の意味・わかりやすい解説

ケルト語派【ケルトごは】

インド・ヨーロッパ語族に属する語派の一つ。現在ではブルターニュ半島やアイルランド,グレート・ブリテン島の局限された地域に残存しているにすぎないが,紀元前にはヨーロッパに広く分布し,特にイタリック語派およびゲルマン語派と密接な関係にあった。ゲーリック語ブリタニック諸語に大別される。他にゴール語がある。→ケルト人
→関連項目アイルランド語インド・ヨーロッパ語族ウェールズ語フランス語

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界の主要言語がわかる事典 「ケルト語派」の解説

ケルトごは【ケルト語派】

インドヨーロッパ語族に属する語派の一つ。地理的に大陸ケルト語と島嶼(とうしょ)ケルト語に大別される。大陸ケルト語(ゴール語とケルトイベリア語)は、前5世紀ごろからヨーロッパ大陸の広い地域で話されていたが、ラテン語に吸収され5世紀までに消滅した。一方、島嶼ケルト語は、ブリタニック語(ウェールズ語・コーンウォール語・ブルトン語)とゲーリック語(アイルランド語・スコットランド語・マンクス語)に分けられる。このうちコーンウォール語とマンクス語はすたれたが、ウェールズ語やアイルランド語は今も活力のある言語としてケルト文化を引き継いでいる。ケルト諸語には、印欧祖語の語頭のpの脱落、語頭の変音現象、動詞が文頭にくる、などの特徴がある。◇英語でCeltic。

出典 講談社世界の主要言語がわかる事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ケルト語派」の意味・わかりやすい解説

ケルト語派
ケルトごは
Celtic languages

インド=ヨーロッパ語族の一つの語派。紀元前後にガリア (現在のフランスを中心とする地方) で行われていたゴール語は死滅し,現在残っているのは島嶼ケルト語 insular Celticと呼ばれるものである。これはさらにゴイデリック諸語とブリソニック諸語とに分れる。前者にはアイルランド語,スコットランド・ゲーリック語,マン島語があり,印欧祖語の *kw 音がqを経てk音に変っているのが特徴である。後者にはウェールズ語,ブルトン語,死滅したコーンウォール語があり,*kw 音がpに変っているのが特徴である。イタリック語派と多少の類似点を有し,イタロ=ケルト語派を想定する学者もいる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android