日本大百科全書(ニッポニカ) 「ゲル(天幕住居)」の意味・わかりやすい解説
ゲル(天幕住居)
げる
gher モンゴル語
モンゴルの天幕住居。パオ(包)はその中国名である。形は一般に椀(わん)を伏せた形で、壁が円筒形で屋根は円錐(えんすい)形である。骨組は木製(泥柳か松)で、壁には細材を矢来(やらい)組みにしたものを4枚または8枚使用し、屋根には直径約80センチメートルの円形の天井枠に細材を傘状に取り付けたものを壁の上に固定する。骨組の上にはフェルトの覆いがかけられ(夏は1枚、冬には2~3枚重ねる)、獣毛の綱を巻く。ゲルは軽量で持ち運びが容易であるが、とくに矢来組みにされた壁の骨組は伸縮自在で、移動のときには小さく畳めるようにくふうされている。ゲルの内部では、天井枠の真下に五徳またはストーブを置き、家の中心とする。出入口は南南東の向きにつくられ、奥に向かって正面が主人または上位の客の席、左側が客席、右側が家族の席となる。かつては正面やや左に仏壇が置かれ、その左側に長持、乳桶(おけ)など、右側に食糧箱、水桶、その他の家事用品、そして出入口付近に燃料箱が置かれた。しかし、今日では仏壇はなくなり、鉄枠の簡単ベッドや短波ラジオが必需品となっている。
[佐々木史郎]