日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ゲルバー(Jack Gelber)
げるばー
Jack Gelber
(1932―2003)
アメリカの劇作家、演出家。シカゴに生まれ大学卒業後ニューヨークに出る。1959年のデビュー作『コネクション』は、アメリカ演劇を担う重要な一翼として力を発揮しつつあったオフ・ブロードウェーにおける代表的劇団リビング・シアターの手で上演され、従来にないジャズや麻薬といった素材が大胆に導入された新しい劇作品として注目される。とくにミュージシャンたちに舞台の登場人物としての役を与え、ジャズのリズム感に加えて麻薬売人を待つ彼らの心の機微や緊張でサスペンスをいっそう盛り上げるなど、素材を劇構造そのものに組み込ませて近代劇的リアリズムの枠を取り払うという革新的な手法が、観客に強い印象を与えた。舞台の評判は演出などリビング・シアターの力に負う面も大きいが、作品自体も転換期の文化的動向の先端をいき、それがアピールした。オービー賞ほかの賞を受け、オフ・ブロードウェー黄金期の代表作の一つとなる。その後『アップル』(1961)、『眠り』(1972)ほか数作を発表しているが、どれも第一作のもつ衝撃力はない。1960年代なかば以後はむしろ演出家として活躍し、R・クーバーRobert Coover(1932― )作の『ザ・キッド』(1972。演出でオービー賞)、S・シェパード作『誘惑されて』(1979)など劇団アメリカン・プレイス・シアターを中心にオフ・ブロードウェーで多くの仕事をした。
[楠原偕子]