シスチン尿症

内科学 第10版 「シスチン尿症」の解説

シスチン尿症(近位尿細管疾患)

(2)シスチン尿症(cystinuria)
概念
 中性・二塩基アミノ酸シスチンオルニチンアルギニンリジン)の腎尿細管および腸管上皮における輸送異常による常染色体劣性遺伝性疾患である.
病態生理
 本症はⅠ~Ⅲ型に分類される.Ⅰ型では,2番染色体の短腕(2p21)のSLC3A1(NBAT)遺伝子変異が認められる.NBATは,2塩基アミノ酸と中性アミノ酸の交換輸送体である.Ⅱ型とⅢ型では,19番染色体の長腕(19q13.1)のSLC7A9(BAT1)遺伝子変異が報告されている.これらの変異によってアミノ酸の再吸収が障害され尿中へ多量に排泄される.このうちシスチンは溶解度が低く,尿路結石となり症状を示す.罹患率は世界的には約7000人に1人であり,人種差がある.
臨床症状
 尿中でシスチンは難溶性であるが,それ以外のアミノ酸は可溶性であるので,本症ではシスチン結石が繰り返しできる.小児期より尿路結石を繰り返す場合には,シスチン尿症を疑う必要がある.尿沈渣では小さな六角形(ベンゼン核様)のシスチン結晶がみられる.通常のX線写真で結石として写る.消化管におけるアミノ酸輸送異常は臨床的には無症状である.
診断
 30歳以前に尿路結石症がみられた場合には,尿中シスチン排泄の異常がないか調べる必要がある.尿沈渣でシスチン結晶がみられる.尿中アミノ酸分析を行い,二塩基アミノ酸(シスチン,オルニチン,アルギニン,リジン)の排泄が亢進していれば診断は確定する.
治療
 尿中シスチン濃度が300 mg/Lをこえると結晶化するので,1日3~5 Lの飲水は,尿中シスチン濃度を低下させるので結石生成防止に有効である.シスチンの溶解性を高めるために尿pHを7.5以上に保つことも効果があり,クエン酸カリウム炭酸水素ナトリウムが投与される.また,d-ペニシラミン投与で溶解性の高いシスチン-ペニシラミンの形にして排泄させる治療も行われる.食事療法として動物性蛋白摂取量の抑制(メチオニン制限食)が推奨されている.[寺田典生]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

栄養・生化学辞典 「シスチン尿症」の解説

シスチン尿症

 尿へシスチンが通常より多く排泄される症状で,シスチンの溶解度が低いため結石の原因になることがある.リシン,アルギニン,オルニチンの排泄をともなうことが多く,腎臓におけるこれらのアミノ酸の再吸収の不良すなわちアミノ酸輸送担体の遺伝的欠陥が原因とされる.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シスチン尿症」の意味・わかりやすい解説

シスチン尿症
シスチンにょうしょう
cystinuria

シスチン (含硫アミノ酸の一種) がそのまま尿中に排泄される遺伝病一つ。尿路結石の一因となり,また尿路結石が唯一の症状でもある。

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世界大百科事典(旧版)内のシスチン尿症の言及

【先天性代謝異常】より


[先天性代謝異常の歴史]
 先天性代謝異常の概念は1908年イギリスの内科医ギャロッドA.Garrodによって提唱された。彼は,尿中に異常物質の排出が増加するシスチン尿症,アルカプトン尿症,五炭糖尿症と白皮症の4疾患をあげ,家族内発生が多いこと,尿中異常物質増加が終生変化しないことから特定の代謝過程の先天性(遺伝的)欠陥であろうと考えたのである。有名なメンデルの遺伝法則の再発見がなされたのが1900年であるのは興味深い。…

※「シスチン尿症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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