翻訳|system
〈系〉〈体系〉と訳すこともある。システムの語はギリシア語syn(共に)とhistēmi(置く)の合成語systēmaに由来する。対象を部分が結合して構成される全体として認識するとき,それをシステムという。部分を要素といい,要素の結合の仕方をシステムの構造という。要素をまたシステムとして認識すれば,対象を階層構造をもつシステムとして認識することとなる。システムの概念は,〈全体は部分より成る。全体は部分に依存して,部分は全体を前提として存在する〉という,古代ギリシアにおける認識にさかのぼる。アリストテレスは,〈全体は部分の寄せ集め以上の存在である〉と述べている。しかしながら,この認識は,全体を部分に分解することによってより統一した理解が得られる,という還元主義のもとであげた近代科学の大きな成果にかくれて,20世紀に至るまで科学的方法論の一つとして確立されることはなかった(なお,哲学概念としてのシステムについては〈体系〉の項目を見られたい)。
科学的方法論としてシステムの概念を復権させたのはL.vonベルタランフィである。生物学者である彼は,単一の部分または過程を調べる生物学におけるそれまでの方法では生命現象についての完全な理解には到達できないとして,1920年代に〈組織体についてのシステム理論〉を掲げ,一般システム理論general systems theoryを提唱した。この理論はその後多くの研究者によって体系化が進められてきた。一般システム理論は個々のシステムがもつ個別性を捨象し,システムが一般的にもつ属性を抽出し,それを体系化しようとするものである。属性を認識する観点の相違により,幾つかの流れが存在する。第1はサブシステムの入力と出力との関係をとり上げ,その結合としてシステムを認識しようとするメサロビチM.D.Mesarovic,高原康彦らの流れである。第2はシステムにおける状態の推移に着目し,状態機械としてシステムを特徴づけるワイモアA.W.Wymoreらの流れである。第3はシステムの型,特徴に基づいてシステムを分類するクリアG.J.Klirらの流れである。一般システム理論はシステムを計画,設計,運用するための具体的技術を生みだすというよりも,システムについての統一した見通しのよい理解を与えようとするという意味で,システムについての科学という側面を担うものである。
第2次大戦後の科学技術の爆発,とくに原子力,国防,宇宙開発など大型プロジェクトの展開,コンピューターによる情報の蓄積,検索,処理,伝送の能力の飛躍的拡大によって,システム概念はシステム技術の姿をとって,その現実的効用を生みださせるに至った。今日,システム概念に基づく科学技術の体系は図1の階層で示すことができる。システム概念に基づく科学技術の方法論が成立する基盤はシステムがもつ同形性にある。すなわち,あるクラスに属する対象はすべて共通する性質をもつこと,換言すれば,共通する性質をもつ対象のクラス(同形なクラス)を規定できることにある。ある対象について成立する法則,モデル,方法は,同形なクラスについて成立する。同形なクラスが大きいほど普遍的な法則,モデル,方法であるといえる。システムにおける同形性は,要素の特性を支配する法則,システムの構造,および要素の特性がシステムの構造を通してシステムの特性として発現する過程,に関して存在する。一方,あるシステムにはそれを他から区別する個別性が必ず存在する。この個別性を多くのシステムについて集積するとき,そこに新たな同形性が見いだされ,したがって新たな法則,モデル,方法が展開される。同形性と個別性の螺旋によって発展するシステム方法論の成長を図2に示す。
執筆者:市川 惇信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
各構成要素が相互にある種の関係をもちながら形成する一つの「全体」をさす。ギリシア語systēmaに由来する。古来、人間の客体認知カテゴリーの一つに、複数の要素からなる「ある全体」を指示する概念があったと思われるが、それらは個々の対象の性質に応じて、群、集合、全体、グループ、系などとよばれてきた。システムという概念は、こうしたさまざまな類似概念の間にある共通の構造(アイソモルフィズム)に注目して、近年、意図的にその理論的洗練が推し進められたものであり、ベルタランフィなどによって、GST(General Systems Theory=一般システム理論)として体系化されるようになった。その意味で、システム概念はきわめて抽象的なレベルに位置し、システムが、これを構成する個々の要素には還元不可能なある種の「創発的特性」emergent propertyをもつという主張を基礎にしている。
その抽象性のゆえに、システムそのものは個々の具体的領域に応じて、(1)その単位(要素)の決定において、(2)それらが形成する関係の種類の確定において、多様なバリエーションを示す。たとえば、力学的客体の相互引力関係としての太陽系から、個々の役割の機能的相互補完関係によって成立している社会集団に至るまでその適用範囲は広い。こうした考え方(概念化)を踏まえつつ、種々の領域でのシステム分析、システム工学が可能となったのである。
[中野秀一郎]
『W・バックレイ著、新睦人・中野秀一郎訳『一般社会システム論』(1980・誠信書房)』▽『新睦人・中野秀一郎著『社会システムの考え方』(1981・有斐閣)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
…対象をシステムとして,すなわち部分が結合して構成される全体として認識したとする。部分をまたシステムとして認識することを繰り返せば,システム/部分の関係が下方に積み重ねられる。…
…それは大きな知的反響をよびおこし,《エスプリ》誌の〈野生の思考と構造主義〉の特集(1963)をはじめ,多くの雑誌がレビ・ストロースと構造主義を論じて,〈構造主義〉の時代の幕明けとなった。このような論議の高まるなかで,フーコーが《言葉と物》(1966)を,アルチュセールが《資本論を読む》《甦るマルクス》(ともに1965)を,ラカンが《エクリ》(1966)を,R.バルトが《モードの体系》(1967)を世に問い,その他文学批評の分野でも構造分析が行われ,いずれも何らかの形で〈構造〉ないし〈システム〉を鍵概念として近代西欧の観念体系を批判吟味する新しい構造論的探求を展開した。そして〈構造主義〉は,それまでの20世紀思想の主潮流であった〈実存主義〉や〈マルクス主義〉をのりこえようとする多様な試みの共通の符牒となった。…
…1951年刊行。〈システム〉の概念を人間行為にかかわる諸現象の分析に適用して〈社会体系〉という概念を確立し,この概念を方法論的に支えるものとしての〈構造‐機能分析〉理論を社会学に定着させた重要な著作である。〈システム〉の概念を社会現象に適用することは19世紀以来の社会有機体論および社会機械論によって行われてきたが,それらは多くの場合理論的抽象化が不十分で直接的アナロジーにとどまり,そのため社会学理論としての評価を受けるまでに至らなかった。…
…ギリシア語のシュステマsystēmaに由来する英語システムsystemなどの訳語。システムはほかに〈組織〉〈系〉などとも訳されるが,特に〈体系〉と訳される場合には,〈理論体系〉〈体系的思想〉などの用法から知られるように,通常は〈知識の組織〉を意味する。…
※「システム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
働き手が自分の働きたい時間に合わせて短時間・単発の仕事に就くこと。「スポットワーク」とも呼ばれる。単発の仕事を請け負う働き方「ギグワーク」のうち、雇用契約を結んで働く形態を指す場合が多い。働き手と企...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新