シミュレーション(英語表記)simulation

翻訳|simulation

デジタル大辞泉 「シミュレーション」の意味・読み・例文・類語

シミュレーション(simulation)

[名](スル)
ある現象を模擬的に現出すること。現実に想定される条件を取り入れて、実際に近い状況をつくり出すこと。模擬実験。「市場の開発をシミュレーションする」「マーケティングシミュレーション
コンピューターなどを使用して模擬的に実験を行うこと。実験内容を数式模型によって組み立て、これをコンピューター処理することによって実際の場合と同じ結果を得ようとするもの。
サッカーで、反則の一。相手チームの選手から反則を受けたかのような演技をして、審判を欺くこと。

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精選版 日本国語大辞典 「シミュレーション」の意味・読み・例文・類語

シミュレーション

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] simulation ) オペレーションズ‐リサーチにおいて、種々の場面になぞらえた模型をつくり、コンピュータなどを使って実際状況を実験的につくり出すこと。また、それによって問題の解決を計ろうとする研究方法。模擬実験。

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改訂新版 世界大百科事典 「シミュレーション」の意味・わかりやすい解説

シミュレーション
simulation

英語のsimulateは,〈まねをする〉〈ふりをする〉という意味の動詞であり,simulationはその名詞形である。しかし,ふつうシミュレーションといえば,現実の世界に存在するシステムあるいはこれから作ろうとするシステムのモデルを作り,これを使って実験することをさす。モデルの中には,宇宙飛行士の訓練のためのカプセルの模型のような機械装置もあって,このような装置はシミュレーターと呼ばれている。しかし,現在一般的によく使われているモデル作りおよび実験の方法は,コンピューターを使うもので,コンピューターシミュレーションとも呼ばれている。

 このような意味でのシミュレーションを最初に提案したのはフォン・ノイマンであるといわれている。彼は協力者とともに,第2次大戦中に核分裂の際の中性子の挙動をシミュレーションによって調べた。その後,コンピューターが発展するにつれて,シミュレーションの手法はきわめて多くの分野で使われるようになってきた。次にあげるのはそのうちのごくわずかの例である。(1)粒子の衝突や散乱などの物理的現象の解明と,その応用である原子炉の設計など。(2)工場の生産ラインでの流れ作業がスムーズに行われるようにするための仕事の配置の仕方の決定。(3)化学プラントの効率的な操業条件の決定。(4)超高層ビルの地震に対する振動の様式の分析と耐震設計,およびビルのエレベーターの効率的な運転方法の決定。(5)大型コンピューターの効率的な運転方法に関する分析。(6)コンピューターネットワークの信頼性や効率の解析。(7)LSIの設計が論理的に正しいかどうかの検討。(8)企業レベルあるいは国家レベルでの経済予測。(9)人間の学習,思考,問題解決等の過程の分析。(10)デリバティブ(金融派生商品)の価格の検討。

シミュレーションの進め方の細部は対象とするシステムによって大幅に異なるが,ごくおおまかにいえば,ほぼ次のような手順で行われる。(1)実験の目的を明確にする。(2)モデルを作成する。その場合,現実のシステムを観察し,分析して,当面の目的に重要な関係をもつと思われる構成要素,これらの要素間の関係,システムを支配している諸法則を抽出し,あまり関係のなさそうな要素は捨てる。(3)モデルをプログラム言語を使って記述し,計算機を使って実験する。(4)モデルの妥当性をチェックする。ここでは,実験によって得られた結果を現実のシステムの挙動あるいはこれから作ろうとするシステムに期待される挙動と比較し,食違いがある場合には,モデルを修正してふたたび実験を行う。この過程を繰り返して妥当と思われるモデルを作りあげる。(5)完成したモデルを使って,現実の世界ではまだ経験していない状況あるいは作り出しにくい状況のもとで実験を行う。これによって,現実のシステムがこのような状況のもとに置かれたときの挙動を調べる。

シミュレーションの長所としては次のようなものがあげられる。

 (1)これから作ろうとしているシステムの設計のためのデータの収集,設計の正しさや安全性のチェックに向いている。(2)すでに存在しているシステムを用いて実験すると費用が高くついたり,混乱をもたらしたり(たとえば交通管制システムなど),危険であったり(たとえば化学プラントなど)する場合の代替手段として使える。(3)現実のシステムは複雑なものが多く,簡単な数式では記述できない場合,あるいは記述はできたとしてもそれを解析する方法が不明である場合もある。シミュレーションの手法は,このような場合にも使えるので,適用範囲がきわめて広い。

 一方,以下の短所にも留意しなければならない。(1)実行の手順で述べたとおり,複雑な現実のシステムに関係するすべての要素を取りあげるわけにはいかないので,モデル作成の際には,これらの要素の取捨選択を行わなければならない。また取りあげた要素間の関連性を明確にしなければならない。この作業は,モデル作成者の主観による部分が多いので,他人に対して説得力のあるモデルが作れるとは限らない。また,どのようなモデルを作ったのかを他人が判断するのが容易ではない。(2)確率的な変動を伴う項目を含むシミュレーションはモンテカルロシミュレーションと呼ばれるが,この場合には,結論を引き出すまでに多数回の繰り返し計算を行わなければならないし,また計算結果から妥当な結論を引き出すために,種々の統計的配慮が必要になる。

モデルを作ってコンピューターで実験するためには,モデルをプログラム言語で表現する必要がある。この目的のためには,たとえばフォートラン(FORTRAN),ベーシック(BASIC),シー(C)などのような汎用のプログラム言語が使われることも多いが,シミュレーション専用の言語も数多くあり,広く使われている。これらの言語は,主として対象とするシステムの性質によって2種類に大別される。一つは,主要な状態が時間とともに連続的に変化するシステム(連続系)を対象とするものである。このようなシステムの解析は,以前はアナログコンピューターを使って行われるのがふつうであったが,最近ではほとんどすべてディジタルコンピューターを使って行われている。代表的な言語としてはCSSLやACSLなどがある。また,システムダイナミクスの分野でよく使われる言語にDYNAMOがある。

 もう一つの言語のグループは,状態が離散的な(すなわち,ときどき,とびとびの)変化をするシステム(離散系)を対象とするものである。離散系を対象とするシミュレーション言語は,現象のモデル化の仕方によって,事象中心,プロセス中心,アクティビティ中心の3種類に大別することができる。事象eventというのは,系の状態を変化させる出来事で,所要時間が0と考えられるものである。たとえば,銀行の現金自動預け払い機(ATM)の前の行列の長さの時間変化をシミュレーションしたい場合を考えてみよう。ここに客が1人到着して行列の長さが1増える,あるいは客がATMを使用し終り,行列の長さが1減る,という二つの出来事は,いずれも事象である。これに対して,1人の客がATMを使用し始めてから終わるまでは,一つのアクティビティと考えられる。一方,プロセスというのは,系の中を動きまわる1人の客に対応して起こる一連の事象等を一定のルールで表現するものである。

 シミュレーション言語は1960年代にいくつか発表された。SIMSCRIPTは事象中心,GPSSはプロセス中心の言語の代表的なものである。その後,これらの言語には改良が加えられ,また新しい言語もいくつか作られているが,現在では複数のモデル化機能を備えたものも多くなっている。さらには,連続系と離散系のいずれも記述できる機能を備えたSLAM Ⅱのような言語も開発されている。

シミュレーションの対象とする系を工場の生産現場のレイアウト,通信システム,LANなどに限定すると,それぞれに専用のソフトウェアをあらかじめ作っておくと,パラメーターの値を与えるなどの簡単な準備をするだけで,すぐにシミュレーションをすることができる。このようなソフトウェアのことをシミュレーターと呼ぶ。これらのシミュレーターでは,シミュレーション結果をアニメーションによって表示し,モデルの妥当性の検証等がしやすいように工夫されているものが多い。

 最初に述べた宇宙飛行士の訓練装置のような機械装置もシミュレーターと呼ばれているが,このような物理的なシミュレーターにおいても,現在ではコンピューターが活用されていて,アニメーションを工夫しており,人工現実感(仮想現実virtual reality)を出して,利用できるようにしているものが多い。
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最新 心理学事典 「シミュレーション」の解説

シミュレーション
シミュレーション
simulation

関心対象の現象を観測し,将来を予測する場合や,実物を作り実験する場合に対比して,現実の代替となるコンピュータ・モデルや模型を利用して,将来を説明し予測するプロセスを指す。

 現象に関与する要素のうち,目的に照らして重要な要素間の関係を数理モデル(モデルにランダムな成分を含む場合は統計モデルとなる)や,コンピュータ・プログラムによって表現することが多い。モデルに基づく通常の推論の場合,このモデルから演繹的にあるいは統計的に導かれることを,データによる検証の対象とする。一方,コンピュータ・シミュレーションの特徴は,現実の仮想的観測値として乱数を多数発生させ,現象を再現することである。乱数を用いてシミュレーションを行なう方法を,南仏の都市の名前を取ってモンテカルロ法Monte Carlo methodということがある。モンテカルロ法は,積分の値を解析的に解けないときの数値的近似を得る方法として知られているが,近年ではモンテカルロ法を発展させたマルコフ連鎖モンテカルロ法Markov chain Monte Carlo method(MCMC)が,ベイズ的推論法において盛んに用いられている。ベイズ的推論法では,パラメータや観測値などの未知の量が確率分布として表わされており,その確率分布を表現するにはマルコフ連鎖モンテカルロ法が適している。伝統的な推論と比較して,コンピュータ・シミュレーションが扱うことのできる対象は広くなり,より複雑なモデルを柔軟に利用することができる。

 コンピュータ・シミュレーションは強力な推論方法であるが,場合によっては,実物の一部のみ取り出す,あるいは変形する,サイズを小さくするなどして具体的な実物模型を作ってシミュレーションを行なう場合がある(シミュレーションを行なうコンピュータ・プログラムやこの実物模型をシミュレータsimulatorとよぶ)。シミュレーションは,現象の説明や将来の予測のほかに訓練のためという実際的な目的をもつことがあるが,実物模型はこの訓練のために有効である。 →統計的推論
〔繁桝 算男〕

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百科事典マイペディア 「シミュレーション」の意味・わかりやすい解説

シミュレーション

ある現象または性質を模型によって実験し,その本質をとらえようとすること。工学的な問題では航空機の風洞実験など古くから模型実験が行われ,多くの問題解析の実をあげてきた。近年,高速度大容量のコンピューターの出現により,社会現象や経営の問題に対しても実験的方法を用いるシミュレーションが可能となった。これにはまず問題を数式を使ってモデル化することが必要で,オペレーションズリサーチなどの科学的手法に応用される。→シミュレーター
→関連項目アナログ計算機コンピューターコンピューターグラフィックスシステム工学数値計算法バーチャルリアリティモンテカルロ法

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「シミュレーション」の解説

シミュレーション

ある「仕組み」を、仮想的な方法で模擬動作させること。エミュレーションと同義に使われることもあるが、テストという意味合いが強い。新たなコンピューターシステムを導入する場合、本来より小規模なコンピューター環境でシステムのシミュレーションができることが、仮想化のひとつのメリットでもある。たとえば、相関するA、B、Cのサーバーを導入する場合、実際に3台のコンピューターを導入し、OSやアプリケーションを組み込み、ネットワーク接続するのでは、手間がかかりすぎる。仮想化を利用するれば、1台のマシンを用意するだけで、サーバー間の動作検証が可能となる。

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DBM用語辞典 「シミュレーション」の解説

シミュレーション【simulation】

統計モデルのタイプ。コンピュータを使用し、異なる変数が相互に、どのように影響し合うかを仮定し、ある行動や一連の行動の結果を数学的に予想するもの。ある変数の値は特別な状況を模擬実験するために設定され、その結果、関心下の変数における効力が測定される。例えば、価格変更が、消費者の反応にどのような影響をもたらすかをシミュレーションし、価格変更効果が模擬実験される。

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とっさの日本語便利帳 「シミュレーション」の解説

シミュレーション

わざと転んだり大袈裟に負傷をアピールして主審を欺き、PKやFKを得ようとする行為。相手のユニホームをつかんで動きを制限するホールディングと共に厳しく規制される。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

栄養・生化学辞典 「シミュレーション」の解説

シミュレーション

 複雑な現象の要因を解析して理解するための方法で,モデルを設定し,現実の現象をそのモデルに適合させるという手段で解析する方法.

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世界大百科事典(旧版)内のシミュレーションの言及

【システムダイナミクス】より

…略称SD。変動するシステムのシミュレーションモデル(シミュレーション)によって,そのシステムの,時間経過につれて変わる特性を明らかにしようとする方法をいう。
[SDの歴史と現況]
 1956年アメリカのフォレスターJay W.Forresterにより創案された。…

【水理模型】より

… 気象学の分野では1922年にL.F.リチャードソンらによって天気の数値予報の試みがなされた。その後,とくに第2次世界大戦後から今日に至るまでに大型で高速のコンピューターが発達し,数値シミュレーションは気象学・海洋学を含む自然科学の分野で著しく進展した。時々刻々収集される観測データの処理,小規模な対流・風波から大気・海洋の大循環流のような大規模の運動をも含む諸現象の力学的機構の研究,さらには,天気予報や環境影響事前評価などにおける予測計算の一手段として,活用されている。…

【台風】より

…発生数と同様に年による変動があるが,11個上陸した50年は異常な年(8月に小さな台風が多数発生した年)で,通常は多くて5個,平均3個である。
【台風の数値シミュレーション】
 台風のコンピューターシミュレーションは1960年ころから行われるようになった。大気を格子点でおおい,各格子点での風や気圧,温度などの物理量の値の時間変化を,流体力学や熱力学の方程式とコンピューターを使って求めていく。…

※「シミュレーション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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