改訂新版 世界大百科事典 「ジアステレオ異性」の意味・わかりやすい解説
ジアステレオ異性 (ジアステレオいせい)
diastereo(iso)merism
立体異性体のうち,互いに鏡像関係にあるものをエナンチオ異性体といい,これ以外のものは互いにジアステレオ関係にあるといい,ジアステレオ異性体と呼ぶ。一つの分子はただ一つのエナンチオ異性体をもつことができるだけだが,複数のジアステレオ異性体をもつことはできる。たとえばD-グルコースのエナンチオ異性体はL-グルコースだけであるが,残りの14種のアルドヘキソースはすべてそのジアステレオ異性体である(図1参照)。幾何異性は立体異性の一種であるがエナンチオ異性ではなくジアステレオ異性である。二つの立体異性体が同時にエナンチオ関係とジアステレオ関係にあることはない。
ジアステレオ異性は一つの分子だけではなく,光学異性のイオンを含む塩や多核錯体にもみられる。たとえばA.ウェルナーが1911年,光学分割剤を用いてジアステレオ異性塩の溶解度差によって光学分割にはじめて成功したときの錯塩d-[CoCl(NH3)(en)2](d-C10H14OBr(SO3))2とl-[CoCl(NH3)(en)2](d-C10H14OBr(SO3))2(ここでenはエチレンジアミンH2NCH2CH2NH2を,d-C10H14OBr(SO3)は3-ブロモ-d-ショウノウ-9-スルホン酸イオンをさす)がそうであり,それ以後,光学分割法としてこのようなジアステレオ異性塩の分別沈殿が用いられている。また,たとえばクロム(Ⅲ)の複核錯体,[(en)2CrⅢ(OH)2CrⅢ(ox)2](ここでoxはシュウ酸基C2O4をさす)では図2にみられるような4種の異性体が存在する。このうちΔ-ΔとΛ-Λ,Δ-ΛとΛ-Δは互いに鏡像の関係にあり,エナンチオ異性であるが,Δ-ΔとΔ-ΛあるいはΛ-Δ,またΛ-ΛとΔ-ΛあるいはΛ-Δはジアステレオ異性の関係にある。
執筆者:竹内 敬人+中原 勝儼
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報