翻訳|softball
ベースボール型ゲームの一種。
アメリカでは、19世紀から20世紀にかけて、現在の野球やソフトボールに類似した多くの球技が存在した。それらは、フォー・コーナーズfour corners、タウン・ボールtown ball、ベースボールbaseball、プレイグラウンド・ボールplayground ball、インドア・ベースボールindoor baseball、トワイライト・ソフトボールtwilight softball、キッツン・ボールkitten ball、ネービー・ボールnavy ball、レディ・ボールlady ball、レクリエーション・ボールrecreation ballなどである。そして、そのなかでベースボールは、現在のようにボールを小さく固くして、競技性の高い球技へと進化した。
一方、いつでも、どこでも、だれでも大勢の人たちが楽しめる、上記の多くのベースボール型ゲームは、さまざまな場所で、職場で、学校でプレーされるようになったが、1933年、シカゴのフィッシャーLeo H. Fischer(1897―1970)とポウレイMichael J. Pauleyの提案で、ベースボール以外の多くのベースボール型ゲームを「ソフトボールsoftball」という名称で統一しようとする努力が払われた。そして同年第1回全米ソフトボール選手権大会が開催され、全米アマチュア・ソフトボール協会も同時に発足したのであった。
今日でも、アメリカでは、ひと口にソフトボールといっても、ボールの周囲が11インチ(27.94センチメートル)、12インチ(30.48センチメートル)、14インチ(35.56センチメートル)、16インチ(40.64センチメートル)といった4種類のボールがあり、競技ルールもファストピッチfast pitch、スローピッチslow pitch、マウンテンボールmountain ballなどの種類がある。
世界選手権大会やオリンピックでは、12インチのソフトボールを使用して、ファストピッチのルールにのっとって試合は行われる。地域や職場でのソフトボールでは、11インチか12インチのボールを使用し、スローピッチのルールを採用している。
日本では、1921年(大正10)、シカゴ大学で体育学を学んでいた大谷武一(おおたにぶいち)(1887―1966)が、上記のボールゲームを、プレイグラウンド・ボール、インドア・ベースボールとして紹介した。第二次世界大戦後、男子の間では日本で発明・発展した軟式野球が盛んであったので、このソフトボールは、女性向きの競技として再スタートした。しかし現在では、小学校、中学校、高等学校、大学、クラブ、実業団、教員の種別による全国大会、日本リーグ、日本選手権などにおいて、男女を問わず広く行われている。なお、1949年(昭和24)には日本ソフトボール協会(2012年〈平成24〉公益財団法人に認定)が設立された。
世界では、1951年設立の国際ソフトボール連盟(ISF:International Softball Federation)が中心となっており、2020年3月時点で117の国と地域が加盟している。
2013年、国際野球連盟(IBAF:International Baseball Federation)とISFを統合する世界野球ソフトボール連盟(WBSC:World Baseball Softball Confederation)が、オリンピック競技復帰を目ざし設立された。ISFはWBSCの「ソフトボール・ディビジョン(部門)」として位置づけられている。
[吉村 正 2020年7月21日]
二つのチームが攻撃と守備を交互に繰り返し得点を競う。攻撃側の打者(バッター)は、守備側の投手(ピッチャー)が投げたボールをバットで打ち、ヒットやホームランなどによって四つのベース(一塁、二塁、三塁、本塁)を規定通りに回れば1得点となる。(1)ストライク(空振り、ストライクゾーンを通過したボールの見逃しなど)をツーストライク後に宣告された場合(三振)、(2)打者走者がフライを打ち、打球が地面に触れる前に守備者(野手)に捕球されたとき、(3)フェアボール(ゴロ)を打ったのち、打者走者が一塁に触れる前にボールが身体または一塁にタッチ(送球)されたとき、などはアウトとなる。3人の打者がアウトになると攻守交替となる。守備者には、投手のほかに、捕手(キャッチャー)、一塁手(ファースト・ベースマン)、二塁手(セカンド・ベースマン)、三塁手(サード・ベースマン)、遊撃手(ショート・ストップ)、左翼手(レフト・フィールダー)、中堅手(センター・フィールダー)、右翼手(ライト・フィールダー)がおり(後述のスローピッチの場合は、第二中堅手(ショート・フィルダー)があと一人加わる)、フェア地域の所定の位置で守備を行う。
試合は7回(イニング)制であり、スターティング・プレーヤーはいったん交代しても、一度だけ再出場(リエントリー)できる。試合の7回終了時に同点の場合、タイブレーカー(無死、走者を2塁において攻守再開)により、延長戦が行われる。
12インチのソフトボール(日本では3号球。以下ソフトボールと呼称)を使用する場合、ファストピッチとスローピッチのルールでプレーすることができる。
ファストピッチのルールを採用すると、投手は速いボールを投げるため、捕手はボディプロテクター、レガース(脛(すね)当て)、ヘルメットなど防具の使用が義務づけられる。野球に類似した楽しみ方ができ、危険度は高いが競技性に富んだ球技としてプレーすることができる。
一方、スローピッチのルールを採用すると、投手は後述するように遅いボール、緩いボールしか投げられないので、捕手は原則として上記のような防具は着用する必要がない。打者は投手が打ちやすいボールを投げてくるので、打撃戦を楽しむことができる。
[吉村 正 2020年7月21日]
(1)投手の投球距離は男子14.02メートル、女子13.11メートルである。
(2)正しい投球は、打者に対して下手投げで、手と手首が体側線を通過しながらボールを離さなければならない。また、打者に対して自由足(軸足ではないほうの足。右投手は左足、左投手は右足)を一歩前方に踏み出すと同時に投球しなければならない。自由足を踏み出す範囲は、投手板の両端の前方延長線内でなければならない。違反すれば不正投球となり、打者にワンボール、各走者にワンベースが与えられる。
(3)チームは9人、指名選手(DP)を採用した場合は10人である。
(4)打者は、片足でも完全に打者席の外に踏み出したり、本塁に触れたりして打ったときアウトになる。
(5)投球が投手の手から離れる前に走者が塁から離れたとき、ボールデッド(試合停止)となり、走者はアウトになる。
[吉村 正 2020年7月21日]
(1)投手の投球距離は男女とも14.02メートル。ピッチャーサークルは不要である。
(2)正しい投球は、一連の動作であって、途中で停止したり、逆モーションをしてはならない。また、軸足はボールが手を離れるまで投手板に触れていなければならない。自由足は踏み出さなくてもよいが、ステップするときは1歩に限られる。
(3)チームは10人、またはエキストラヒッター(EH)を採用したときは11人で編成する。EHは打撃専門の選手である。
(4)打者はバントしたり、チョップヒット(打球を地面にたたきつけてバウンドさせる打法)すると即アウトとなる。
(5)正しい投球が本塁に達する前に、走者が塁から離れたときはアウトとなる。
[吉村 正 2020年7月21日]
公式な試合は、国際ソフトボール連盟(ISF)のルールでは、本塁から外野フェンスまでの距離が、男子76.20メートル(国内ルールは68.58メートル)以上、女子67.06メートル(同60.96メートル)以上、塁間距離18.29メートルと、野球と比べるとコンパクトな競技場で行われる。また、投球のためのマウンドは設けられないが、投手板が置かれ、ファストピッチの場合には投手板を中心として半径2.44メートルのピッチャーズ・サークルが描かれる。野球と異なる点としては、ダブルベースの設置があげられる。一塁のフェア地域に白色ベース、ファウル地域にオレンジ色のベースが置かれ、守備側は白色、打者走者はオレンジ色のベースを用いる。これは一塁ベース上での交錯プレーを防ぐためである。
[吉村 正 2020年7月21日]
ソフトボールを今後世界に広く普及させるためには、世界野球ソフトボール連盟(WBSC)を充実・発展させ、国際ソフトボール連盟(ISF)に加盟している国と地域を200か所以上に増やすことが望まれる。
1988年、国際ソフトボール連盟と国際野球連盟(IBAF)が協力して、野球とソフトボールの入門期の子供たちのために「ティーボールteeball」を創作した。日本では1981年(昭和56)に発足した「大学スローピッチソフトボール研究会」が、1993年(平成5)に「日本式ティーボール」を創作した。ティーボールは、本塁プレートの後方に置かれたバッティングティーにボールを載せ、打者は静止したボールを打つというゲームである。各チームとも投手がおらず、内野手6名、外野手4名で守備にあたる。現在、ティーボールは、文部科学省の「学習指導要領」において、小学校3~6年生の体育の授業の必修課目として位置づけられており、野球やソフトボールの入門スポーツとなっている。
ソフトボールは、オリンピックでは1996年のアトランタ大会から女子のみ正式種目となった。日本は2000年のシドニー大会で銀メダル、2004年のアテネ大会で銅メダル、2008年の北京(ペキン)大会では金メダルを獲得した。2012年のロンドン大会、2016年のリオ・デ・ジャネイロ大会では正式種目から外されたが、2016年8月、2020年開催予定であった東京大会における追加種目に決定した。競技スポーツとしてソフトボールをオリンピックに定着させるために、さまざまな提案が出されており、さらなる普及が期待されている。
[吉村 正 2020年7月21日]
『吉村正著『ソフトボール教室』(1980・大修館書店)』▽『吉村正著『うまくなるソフトボール 攻撃編』『同 バッテリー編』『同 守備編』(2002~2003・ベースボール・マガジン社)』▽『吉村正著『ソフトボール 変化球バイブル』(2004・ベースボール・マガジン社)』▽『吉村正著『ティーボールのすべて――野球・ソフトボールを初心者でも楽しめるようにしたゲーム』(2016・ベースボール・マガジン社)』▽『日本ソフトボール協会編・刊『オフィシャルソフトボールルール』『ソフトボール競技者必携』各年版』
野球によく似た球技の一つ。大きくて遠くへ飛ばないボールを使用し,広い場所を必要とせず,運動量も少ない,などの特徴から女子,子どもにもたやすくできるスポーツ。南北アメリカ,フィリピン,ニュージーランド,オーストラリア,日本などで盛んに行われている。
起源についてはいくつかの説がある。いずれもアメリカの話で,1887年,シカゴのハンコックという人物が発案,あるいは20世紀初め,ミネアポリスのロバーという人物が同市の消防夫のスポーツとして考案,あるいは1900年ころ,野球選手が冬季にトレーニングを行うために室内野球として考え出した,などである。初めは室内で行われ,インドア・ベースボールindoor baseballと称したが,1920年になって屋外でもやるようになり,プレーグラウンド・ボールなどの名で呼ばれて普及,アメリカ,カナダ各地でそれぞれ独自のルールで楽しまれた。30年にシカゴのH.フィッシャーとJ.ポーレーが屋外競技として編成し,専用グラウンドもできた。33年には全米選手権が計画され,男女別で20チームが参加,このときから名称が〈ソフトボール〉と統一された。翌34年には,アメリカ・ソフトボール協会が創設され,ルール委員会もでき,スポーツとして整備されていく。49年に国際ソフトボール連盟International Softball Federation(ISF)が創設され,国際スポーツとしての第一歩を踏み出した。女子の競技人口が著しく増え,62年には第1回世界女子選手権がアメリカで開かれた。66年に第1回世界男子選手権がメキシコで開催された。オリンピックでは,96年のアトランタ大会から女子の正式競技となり,2008年の北京大会では日本が金メダルを獲得した。
1921年シカゴ大学に留学した東京高等師範学校教授大谷武一が帰国した際に初めて紹介した。26年には文部省が小・中学校の教授要目に採用し,遊戯として行われた。第2次大戦後,在日アメリカ軍を通じて本格的に広まった。46年には全日本軟式野球連盟がソフトボールを部会としてとり入れて講習会を開催,同年10月,日本で最初の大会が大阪で女子12チームによって開かれた。49年には〈日本ソフトボール協会〉が設立された。第5回国民体育大会から正式種目になった。51年にISFに加盟し,62年の第1回女子選手権以来,世界選手権にも参加している。全日本の競技会は男女とも日本リーグのほか一般,実業団,大学,高校の部門があり,毎年行われている。
公認球は革またはゴム製で周囲12インチ(30.48cm),重さ7オンス(198.45g)。バットは木か竹材で長さ34インチ(86.36cm)以下,太さ21/4インチ(5.72cm)以下。人数と守備位置については,野球とほぼ同じルールに従うが,試合は7回終了後は延長戦となり,タイブレーカーといって,無死2塁の状況を設定して攻撃を継続する。投手の投球はすべて下手投げ,走者は球が投手の手を離れるまで離塁できない,などの点が違う。野球用のスパイクを使用してもいいが,はだしは禁止。また女子の捕手はプロテクターの着用を義務づけられている。なお,速球の投球を禁じて打ちやすく得点しやすくした〈スロー・ピッチ・ソフトボールslow-pitch softball〉というルールもあり,一,二塁間に内野手を追加した10人制で行う。
執筆者:菅谷 斉
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