ダイズ(読み)だいず(英語表記)soybean

翻訳|soybean

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ダイズ」の意味・わかりやすい解説

ダイズ
だいず / 大豆
soybean
[学] Glycine max (L.) Merr.

マメ科(APG分類:マメ科)の一年草。古名をオオマメ、ミソマメなどという。種子(豆)を食用や加工原料、油やタンパク質原料、飼料などにするため、また茎葉全体を飼料とするために、温帯を中心とした地域で栽培される。

[星川清親]

形態

茎は直立して0.6~1メートルになり、つる性の品種では2メートルに達するつるが他物に巻き付いて伸びる。種子は発芽すると、まず対生する2枚の子葉が開き、次に1対の初生葉が出る。初生葉は卵形の単葉で葉柄が短い。それから上の節には本葉が互生する。本葉は3枚の小葉からなる複葉で、まれに小葉が5枚の品種がある。小葉は先のとがった卵形で、長さ4~20センチメートル、幅3~10センチメートル。葉柄は長く、基部は膨らんで葉枕(ようちん)となり、付け根には1対の小さな托葉(たくよう)がある。根は発芽時に伸び出たものが主根となる。主根は地下約1メートルにも達し、多くの分枝根を出す。根には発芽後3週間ほどたつと球形や腎臓(じんぞう)形などの根粒が多く形成される。これは土中の根粒菌が寄生することによってできるものである。根粒菌は根粒内において空気中の窒素を固定するが、ダイズはこの窒素を成長の栄養源とし、また根粒菌はダイズが葉で光合成した炭水化物を供給されて、互いに共生関係をもって生活する。

 夏から秋に葉腋(ようえき)から短い花枝を出し、多数の花をつける。花は5弁の蝶形(ちょうけい)で、白、紫、淡紅色などである。各花枝に1ないし数個の花が実って莢(さや)となる。莢は長さ2~7センチメートルで、莢の中に1~5個、普通は2~3個の種子が入る。種子は球形あるいはやや楕円(だえん)形が一般的であるが、品種によっては扁平(へんぺい)のものもある。大きさは径5~10ミリメートル、重さは100個で10~45グラムである。種子の色は黄、茶、黄緑、淡緑、黒色など変化がある。種子が莢と連絡していた部分を臍(へそ)といい、臍の色も白、黄、茶、暗褐色など品種によって異なる。

[星川清親]

分類

それぞれの用途別に多数の品種が育成されているが、草型や栽培型など、いくつかの特性に基づいて分類される。

 草型による分類は、分枝の性状、草丈などにより五つの基本型に分けられている。最近ではさらに分枝の数や分枝の広がり程度、長さ、出方、草丈などを組み合わせて8型に分けられている。また、主茎のつる性と分枝の伸長性から、真正蔓化(まんか)型、可変蔓化型、特殊蔓化型、正常型の4型に分類される。

 茎の生育習性による分類は、茎の成長と花芽のつき方の関係から、無限伸長型と有限伸長型とに分けられる。無限伸長型は、茎頂で節を増やして伸長しつつ、下位節から先に向かって順次花をつけるが、やがて茎先の生育が衰え、先端ほど莢の数が少なく、種子も未発達のまま終わる。この型は原生種に近いものと考えられ、中国東北部に多く分布する。また、現在アメリカで栽培されている品種の多くもこの型である。有限伸長型は、下位節で花芽が分化すると、茎頂での節の増加が止まり、茎先にも花芽が分化する。この花は下位節同様に結莢(けっきょう)し、種子は完熟する。日本で栽培されている品種のほとんどがこの型である。なお、両型の中間的な品種を半無限伸長型とよぶ。

 種子を播(ま)く時期と、開花、結実の時期とによっての分類もある。播種(はしゅ)期が早く、夏に結実する夏ダイズ型、遅く播き、秋に結実する秋ダイズ型、それらの中間型に分類する。また、開花までの日数と結実日数とによって9型に分類される。

 このほかアメリカやカナダでは、生育日数の長短により、00、0、Ⅰ、Ⅱ、……Ⅷの10群に分類している。最初の3群の品種では、生育日数は130日より短く、北部で栽培され、Ⅱ群より順に生育日数が長くなる。

[星川清親]

日本の主要品種

ダイズは気候や土壌など環境によって生育が左右されるため、地方別に栽培品種が異なっている。

 北海道での代表的な品種はキタムスメ、キタコマチ、中生光黒(ちゅうせいひかりぐろ)、トヨスズなどである。トヨスズはダイズシストセンチュウへの抵抗性が強いので、1966年(昭和41)に育成されて以来急速に普及し、1973~1977年には作付面積第1位の品種となった。しかし気候などの影響で品質が悪くなることがあり、また、出芽時の障害も比較的多いので、近年は作付けが減少している。東北地方の代表的な品種はシロセンナリ、ミヤギシロメ、オクシロメ、ライデン、ナンブシロメなどで、シロセンナリの栽培がとくに多い。関東から中部地方でよく栽培される品種はエンレイ、納豆小粒(なっとうしょうりゅう)、タチスズナリ、玉光(たまひかり)などである。また近畿から九州地方で栽培される代表品種はタマホマレ、フクユタカ、アキヨシなどである。

[星川清親]

栽培

夏ダイズは地温15℃以上となる5月中・下旬に種子を播くが、西南日本の暖地では4月上~中旬でも可能である。秋ダイズはそれよりも遅く6月中旬~7月中旬に播く。条間は50~60センチメートル、株間は15~25センチメートルが普通であるが、早生(わせ)や短茎の品種はさらに株間を詰めて密植する。また遅播きや少肥栽培とする場合、寒冷地ややせ地での栽培なども密植にする。播種量は10アール当り5~10キログラムである。アメリカなどでは条間70~90センチメートルで、株間7~10センチメートルのドリル播きとして高収量を得ている。播種後から生育初期にかけて鳥害を受けやすく、日本では昔から移植栽培も行われてきた。また東北や中部、北陸、山陰地方などの畑の少ない地域では、田の畦(あぜ)を利用した畦畔(けいはん)栽培が行われ、アゼマメともよばれる。

 生育に必要な窒素は根粒菌によりまかなわれるが、生育初期には窒素肥料を与えたほうがよい。また、とくに高収量を得るためには、根粒菌による窒素供給量では足りないので、生育の中期以降に窒素肥料を施すことが必要である。ダイズは他の豆類よりも酸性の土に耐えられるが、ダイズと根粒菌の成長にもっとも適した土壌水素イオン指数(pH)は6~7である。

 収穫は、葉が黄変して落ち始め、莢が熟したころに行う。一般に夏ダイズでは7月下旬~8月上旬、秋ダイズでは11月ころである。抜き取るか、地際から刈り取り、稲架(はさ)などにかけて干し、乾燥後脱粒する。大規模な経営ではコンバインを使って収穫する。乾燥は豆の水分が12%になるまで行う。水分が13%以上だと、貯蔵中に変質や虫害を受けやすい。

 おもな病気はモザイク病や萎縮(いしゅく)病、紫斑(しはん)病などで、害虫はヒメコガネマメコガネ、マメシンクイガ、カメムシ類などである。ダイズシストセンチュウなど線虫類の害も大きい。

 ダイズは連作すると3~4年目から減収する。それはダイズセンチュウネコブセンチュウの発生が増え、また病気や害虫が増えることによる。この連作害を防ぐため、イネ科作物を組み込んだ輪作体系がとられている。ダイズの線虫類はイネ科作物には寄生できないので、数年で駆除することができる。また、他の作物と混作することによっても病虫害を防ぐことができ、トウモロコシサツマイモ、アワ、ジャガイモなどと混作する方法もとられている。ダイズは根粒菌の寄生により空気中の窒素を固定するので、混作しても窒素肥料の競合が少なく、他作物による日陰にも比較的耐えるので、有効である。

[星川清親]

生産

2016年の世界の作付面積は1億2153万2432ヘクタール、収穫量は3億3489万トンである。そのうちアメリカは作付面積は3348万ヘクタール、収穫量は1億1721万トンで、作付面積、収穫量はそれぞれ世界の32%と28%を占め、世界第1位である。その栽培の中心となっているのは中央平原に位置する諸州である。第2位はブラジルで9630万トン、第3位はアルゼンチンで5880万トンである。この3国で世界の81%以上を生産している。

 日本では、明治、大正時代は、作付面積は40万~50万ヘクタールで推移したが、昭和になると満州(中国東北部)からの輸入により国内栽培は半分近くにまで減少した。第二次世界大戦後一時増加したが、その後アメリカからの輸入に依存するようになってふたたび減少が続き、昭和50年代には8万ヘクタールにまで落ちた。1978年から水田の転作にダイズ栽培が奨励されて12万7000ヘクタールとなり、その後しばらくは14万ヘクタール台で推移し、1993年(平成5)には8万7400ヘクタールまで減少、収穫量は10万0600トンとなった。しかし、その後は漸増に転じ、2017年現在の作付面積は15万0200ヘクタール、収穫量は25万3000トンである。10アール当りの収量は、明治後期に100キログラムを超えたが、その後あまり増えず、現在では120~190キログラムである。

 国内の収穫量が20万トン前後であるのに対し、輸入量は313万1000トン(2016)で、消費の大部分を輸入に頼っている。消費の内訳は、食用が約96万トンで、加工用が約244万トンである。加工用はほとんどが製油用である。ほかに飼料用の脱脂大豆(大豆油かす)が輸入されている。

[星川清親]

起源と伝播

ダイズの祖先種は東アジア(中国大陸北部、すなわちロシアとの国境に接する地帯、朝鮮半島南部、日本および台湾)に広く自生するツルマメG. max subsp. soja (Sieb. et Zucc.) H.Ohashi(G. ussuriensis Regel et Maack)である。ツルマメは古代から食糧とされていた。このツルマメから今日の栽培ダイズが起源したが、その起源地は中国東北部、シベリア、アムール川流域と推定されている。この栽培型が紀元前3世紀から紀元後7世紀にかけて中国南部、朝鮮半島南部、日本および東南アジアの諸地域に伝播(でんぱ)した。また栽培ダイズはツルマメと中国南部に自生するトメントウザマメG. tomentella Hayata(G. tomentosa Benth.)との雑種起源であるという説もある。この栽培ダイズとは別に中国東北部には半野生型のマンシュウダイズG. max (L.) Merr.(G. gracilis Skvortzor)が分布するが、これはツルマメと栽培ダイズの雑種起源である。

 中国での栽培は古く、最古の記録として『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』で神農の五穀播種の儀(前2700ころ)の作物の一つとしている。日本の古代では各地で自生しているツルマメを食糧として利用した証拠があるが、栽培ダイズは中国から縄文あるいは弥生(やよい)初期に渡来した。『古事記』(712)、『日本書紀』(720)の記述はその栽培の事実を明らかにしている。

 欧米に知られたのは意外に遅く、ヨーロッパへは、日本に1691年(元禄4)から2年間滞在したオランダの博物学者ケンペルによって1712年に紹介された。種子の導入は1740年で、中国からパリ植物園に入り、1786年にドイツで、1790年にイギリスのキュー植物園で試作された。しかし栽培化はされず、1908年にアメリカから初めてダイズ豆が輸入されるまで、ヨーロッパでは興味がもたれなかった。アメリカへはヨーロッパより遅く、1854年ペリーが日本から持ち帰ったのが最初であるが、農商務省で最初に試作されたのは1896年になってからである。しかし20世紀に入ってその栽培は急激に増加し、現在、アメリカは世界第一のダイズ産出国となった。ブラジルには1882年にヨーロッパから入り、その後急速に栽培が普及した。熱帯の多くの国々には20世紀に入ってから導入されたが、アフリカ、インドおよび西インド諸島では作物として成功しなかった。

[田中正武]

食品と利用

ダイズの種子(豆)にはタンパク質と脂肪が豊富に含まれ、タンパク質を構成するアミノ酸は、米と組み合わせることによって必須(ひっす)アミノ酸のすべてを満たしている。このため、昔から、肉類の摂取量の少ない日本人にとって、大豆は重要な副食物として親しまれてきた。

 成分は品種や産地、栽培法などによって若干異なるが、標準的な乾燥状態の大豆100グラム中には、水分が12.5グラム、タンパク質35.3グラム、脂質19.0グラム、炭水化物では糖質が23.7グラムと繊維は4.5グラムで、デンプンはほとんど含まれない。また、灰分は5.0グラムが含まれている。

 完熟した大豆を粒のまま食べるのでは、煮たり焼いたりしても消化が悪いので、消化しやすい形に加工された食品が多く開発された。加工食品でもっとも多く利用されているものは豆腐で、1年間に約30万トンの大豆が豆腐に加工されている。そのほか油揚げやがんもどき、凍り豆腐、湯葉(ゆば)などに加工される。油揚げは固めの豆腐を薄く切って、水分を搾ってから揚げたもので、年間約15万トンの大豆がこれに使用されている。豆腐をつくるときにできる豆乳も滋養飲料とされ、搾りかすのおからも食用や飼料にされる。

 微生物を利用して大豆を加工する食品に納豆やみそ、しょうゆなどがあり、これらは古くから副食物として親しまれてきた。しょうゆは大豆油を搾ったあとの脱脂大豆を原料としたものが多い。大豆から搾った脂肪にはリノール酸リノレン酸などが含まれ、良質の植物性食用油である。この食用油はマーガリンマヨネーズなどの原料とされる。

 大豆のタンパク質を取り出して、種々の食品への加工や添加などに利用する技術が近年急速に発達した。この大豆タンパクはおもに脱脂大豆から生産され、製造工程によって脱脂大豆粉、濃縮タンパク、分離タンパク、組織状タンパク、繊維状タンパクなどの製品となる。このうち、現在もっとも広く使用されているのは組織状タンパクで、ひき肉と混ぜてハンバーグやシューマイギョウザミートボールコロッケなどの加工食品に利用されている。また、繊維状タンパクからは上質の人工肉がつくられる。脱脂大豆は飼料としての利用も多く、とくに配合飼料には欠かせないものである。

 未熟な種子を利用するのが枝豆で、莢(さや)ごと塩ゆでして、総菜やおつまみとする。日本では枝豆としての需要がとくに多く、国内で作付けされるダイズの2割近くが枝豆用である。枝豆は冷凍食品として年間を通じて利用されている。

 ダイズの茎葉は、イネ科作物の約2倍の窒素、3.5倍の石灰を含むなど飼料としての価値が高く、生草のまま使う青刈り飼料、乾草、サイレージなどとして利用される。とくに青刈り用は2~3か月で収穫適期となり、牧草の生産量の低い夏場に良質の茎葉が得られる利点がある。栄養的には、イネ科飼料作物と組み合わせて利用するのがよい。

 根粒菌により、空気中の窒素を固定するので、緑肥として栽培されることもある。耕地に鋤(す)き込まれたあとの分解も容易で、地力の維持や増進に有益である。

 このほか、大豆は化学工業の原料としての需要も多く、特殊タンパクのカゼインや油からとったグリセリンが、接着剤、プラスチック、ペイント、せっけん、医薬品など多くの製品に利用されている。

[星川清親]

料理

煮豆は大豆を用いたもっとも一般的な料理である。大豆を柔らかく煮るためには、煮る前に水に浸し十分吸水させる必要がある。大豆は組織が堅いので、浸水時間は少なくとも5~6時間必要とする。煮豆は、調理中どこで調味料を加えるかで豆の柔らかさや味の含み加減が違ってくる。煮始めから調味料を加えると豆が堅く締まり、皮にしわがよる。柔らかくゆでてから調味料を入れ、さらに煮ると、豆は柔らかくなるが味がしみ込みにくい。大豆を水で薄めた調味料に一晩浸して吸水させて煮たものでは、豆が柔らかく、味も中までよくしみ込む。希望の仕上がり状態によって煮方を選ぶとよい。五目豆は、ゴボウ、ニンジン、こんにゃく、蓮根(れんこん)などを大豆くらいの大きさに切って煮たものをいう。鉄火豆(てっかまめ)は、大豆を煎(い)り、油で炒(いた)めて調味したみそで和(あ)えたものである。新潟には大豆を利用した打豆(うちまめ)がある。大豆を1日水につけ、柔らかくなったところで木槌(きづち)で打って大豆を平たくする。これを煮物などに用いる。乾燥保存もでき、水でもどして使う。そのほか、水もどしした大豆をすりつぶしてみそ汁仕立てにした呉汁(ごじる)、高知県の煎り大豆をしょうゆに浸したしょうゆ豆などがある。

[河野友美・山口米子]

民俗

日本人の食生活に深くかかわってきた大豆であるから、豆といえば大豆をさすほどに古くから栽培され、焼畑、常畑のほか、耕地の畦(あぜ)にもつくられた。かつては大豆になんらかの呪力(じゅりょく)を感じ取ったものらしく、たとえば節分に煎った大豆をまくことは、現在に至るまで行われている。これが災厄を払う意味であったことは、漁師が魔を払うために大豆を携えて船に乗り込んだり、厄年(やくどし)の人が厄逃れに大豆を辻(つじ)に持って行って捨てるなどの事例からもうかがえる。節分の豆をいろりに12粒または13粒、月の数だけ(旧暦による)並べて1年の天候を占うことや、この豆を保存して雷鳴の日に食べることなども長い間行われてきた。そのほかに、福島県や山形県では「ネムリナガシ」(眠り流し)といって、夏の眠気を覚ますのに、大豆の葉で目をこすってこれを川に流す。また旧暦9月の十三夜を豆名月ともいい、大豆を供える所が多いが、大豆の収穫儀礼の名残(なごり)をとどめるものとも考えられる。

[湯川洋司]

『菊池一徳著『大豆産業の歩み――その輝ける軌跡』(1994・光琳)』『郭文韜著、渡部武訳『中国大豆栽培史』(1998・農山漁村文化協会)』『日本栄養・食糧学会監修、菅野道広・尚弘子責任編集『大豆タンパク質の加工特性と生理機能』(1999・建帛社)』『森田雄平著『大豆蛋白質』(2000・光琳)』『農林水産省農林水産技術会議事務局編『農林水産研究文献解題27 大豆――自給率向上に向けた技術開発』(2002・農林統計協会)』『日本土壌肥料学会編『ダイズの生産・品質向上と栄養生理』(2005・博友社)』


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改訂新版 世界大百科事典 「ダイズ」の意味・わかりやすい解説

ダイズ (大豆)
soybean
Glycine max (L.) Merr.

種子を食用や工業原料とするために栽培されるマメ科の一年草。ダイズの原型はノマメG.ussuriensis Regel et Maackとされ,東アジアに広く自生している。ノマメとダイズの雑種と考えられる中間型G.gracilis Skovort.が,中国東北部などに半栽培や雑草の状態で見いだされることなどから,ダイズ栽培の起源地は中国東北部からシベリアのアムール川流域とされる。また華北や華中とする説もある。中国では約5000年前から栽培されていたといわれ,日本では縄文時代の遺跡からダイズの炭化物などが出土している。ヨーロッパには18世紀になってから,またアメリカに19世紀に伝わり,20世紀に入って爆発的に広まった。

 茎は直立し,高さ30~90cm,よく枝分れする。つる性の品種は茎の長さが2mに達する。対生する子葉,初生葉に続いて,3枚の小葉からなる複葉が互生する。小葉は卵形で先がとがり,長さ4~20cm,幅3~10cmで,細長いものから円に近いものまである。根にはたくさんの根粒をつけ,そこに共生する根粒菌によって空気中の窒素を固定する。夏から秋に,葉の付け根から短い花枝が伸び,2~35個の小花がつく。蝶形花で長さ約5mm,白・紫・淡紅色などを呈する。開花後,約5cmに伸びた莢(さや)の中に2~4個の種子(豆)がはいる。種子は,球~楕円球だが,扁平のものもあり,直径5~10mm,1000粒の重さは100~450g。種皮の色は黄,緑,茶,黒などがあり,種子と莢と連絡していた部分(臍(へそ))の色も白・黄・褐色などと品種によって異なる。表面が黒色のものは俗にクロマメ,緑色のものはアオハタマメと呼ばれる。

 ダイズは茎の生育習性によって,無限伸長型と有限伸長型とに分けられる。無限伸長型は下位から順に花を咲かせながら茎が伸び,やがて先端が衰えて止まる。原生種の性質に近く,この型の品種は中国東北部やアメリカ北部で栽培されている。有限伸長型は下位に花が咲くとやがて茎の先端にも花がついて茎の伸長が止まる。日本の品種のほとんどがこの型。

 播種(はしゆ)期は品種によって異なるが,一般には5月後半である。条間50~60cm,株間15~25cmとする。モザイク病や紫斑病によって品質が劣化し,萎縮病や黒点病によって収量が減る。また,マメコガネやマメシンクイガなど,多くの昆虫やセンチュウの被害を受ける。

 国産ダイズの豆(種子)100g中のエネルギーは417kcalで,水分は12.5%,タンパク質35.3%,脂質19.0%,炭水化物28.2%で,タンパク質含量が高い。この成分も品種により異なり,タンパク質含有量の多いものや脂質含有量の多いものが選択されている。煮たり焼いたりして食べるが,消化が悪いので,豆腐,納豆,湯葉,豆乳,きな粉,みそ,しょうゆなどに加工する。また油をとり,食用や工業原料とし,タンパク質をとり出し,繊維化して人造肉を作る。日本では未熟な豆(枝豆)をゆでて食用とし,この需要が高い。茎葉は飼料として利用。
執筆者:

大豆の世界総生産高は8000万t前後であるが,その6割前後をアメリカが占め,ほかにブラジル,中国が主要な生産国である。アルゼンチンがこの3国に続く。貿易面をみると,輸出では約8割がアメリカで,残りの大半はアルゼンチンとブラジルである。一方,輸入では日本が最大の輸入国で,西ドイツ,オランダと続く。

 日本では消費量に対し生産量が不足し,主として第2次大戦前は中国,戦後はアメリカからの輸入で補ってきた。国産大豆は,輸入大豆との競争下におかれ,その生産性の低さからつねに圧迫されてきた。大豆には,未成熟で収穫するいわゆる枝豆と子実で収穫する乾燥大豆がある。大豆と呼ぶ場合後者を指すが,近年,野菜としての枝豆の需要が増加し,その作付面積は年々伸びている。しかしまだ全体に占める割合は10%に満たない。大豆生産の中心は子実用であるが,外国産の圧迫によって作付面積を減少させ,1977年産には戦後最低の7万3000haとなった。しかし78年産以降,農水省の水田利用再編対策(米過剰解消のための他作物への転作を中心とする生産調整)の特定作物として生産の振興が図られたことなどにより,田作り大豆を中心に作付けが急増している。生産量も65年以来の20万t台に回復し,大豆作振興の成果が現れてきている。だが全消費量に占める国内産の割合は依然として小さく,4%前後を低迷している。〈大豆なたね交付金暫定措置法〉(1961公布)に基づき,生産者価格は一定の上積み(交付金)がされているが,それでも(1)収益性が他の作物に比べ低いこと,(2)作付規模が零細で機械化が遅れていること,(3)単収が低く,また年による変動も大きいことなどが,面積拡大を阻む原因となっている。おもな生産地は,北海道を筆頭に秋田県を除く東北5県,長野,熊本の各県で,全作付面積の50%前後を占める。販売方法はこれらの主産地を中心に系統農協共販の率が高くなっている。従来は,〈あぜ豆〉(田のあぜを利用して栽培する大豆)に代表されるように農家の自給用として栽培され,残りが産地業者を通して販売されることが多かった。現在でも産地業者の割合は高い。また一部には,業者との契約栽培(正月用黒豆,納豆用大豆など)もみられる(〈契約農業〉の項目を参照)。

 日本の大豆の輸入額は農産物中,綿花,小麦とともにトウモロコシに次ぐ多さである。また,いまや世界一の輸入国であり,その90%以上をアメリカから輸入している。最大の生産・輸出国アメリカの生産動向は,国際需給に大きな影響を与える。日本としては,海外からの供給変動に備え,輸入先の分散化などその安定化に努めるとともに,国内の生産性の向上,面積,収量の拡大,備蓄対策などにとりくむことが当面の大きな課題になっている。
執筆者:

大豆は,米とともに日本人の食生活を支えてきた二本柱というべき食品である。〈畑の肉〉といわれるほど栄養価が高く,タンパク質,脂肪を多量に含むだけでなく,無機質やビタミン類にも富んでいる。発酵加工によって,みそ,しょうゆ,納豆がつくられ,豆乳加工によって豆腐湯葉,さらに油揚げ,凍豆腐その他の二次加工品がつくられる。煮豆では,甘く煮たブドウ豆,ニンジン,ゴボウ,こんにゃくなどと甘辛く煮た五目豆,正月の祝膳に欠かせぬ黒豆などのほか,東京では味をつけずに柔らかく煮上げただけのものを〈みそ豆〉と呼び,カラシじょうゆをからめて朝食の菜にすることが多かった。いって粉にしたきな粉は菓子の材料として多用される。未成熟の大豆を枝ごと収穫したのが枝豆で,塩ゆでにして酒のつまみにしたり,擦りつぶしてあえ物に用いる。
執筆者:

大豆は記紀の穀物起源神話にも登場し,古代から基本的な畑作物として重視され,古く〈マメ〉といえば大豆をさした。豆はマメ(健康)に通じるため,正月には歯固めに豆を食べたり,茎や葉をたいて雑煮や湯をわかし,1年の無病息災を祈った。小正月には家の周囲に豆殻やそば殻をまいて魔よけとする地方もある。新潟県南魚沼地方では,小正月に繭玉を飾ることを豆まきといい,それを片づけるのを豆おろしといった。豆の呪力(じゆりよく)で邪気を払ったり,疫病,風邪,疱瘡(ほうそう),歯痛,ものもらい,いぼなどの病気を豆に托して,つじに捨てたり井戸に投げ入れる風習も広い。大晦日や節分にいり豆をまいて鬼やらいをする風も,もとは豆に穢(けがれ)を托して厄災を払う行事だとされている。節分の豆を年の数だけ食べると運がよいといい,12個の豆を焼いて1年の天気占いをすることもある。また節分の豆をとっておいて,旅や危険な所に行くときや初雷の鳴るときに食べると魔よけになり雷が落ちないという。鳥取付近の農村では,5月1日を豆いり朔日(ついたち)といい,神にいり豆を供えた。また七夕に〈ネム流し〉といって合歓木(ねむのき)と大豆の葉を流れに流して邪気や眠けを払う行事もある。九月十三夜を〈豆名月〉といい,枝豆を供え,この日は他人の畑の豆をとってもよいなどといった。12月9日は〈大黒様の年取り〉で,東北地方ではこの日に7品とか48品の豆料理を供えると福や家宝が授かるといい,また〈大黒様大黒様,耳開けて豆つませ〉と大声でいって豆を供える風がある。このほか,豆の皮をむいて食べるなとか,豆を火にくべるなという所も多い。
執筆者:

大豆は古代から貴重な栄養源で,10世紀の《医心方》食養篇では五穀中,首位の〈胡麻(ごま)〉の次に挙げている。煮汁を服用すれば鬼を殺し,いっさいの毒を去るといい,食中毒,薬害,産後の病気やむくみを除き,胃腸を整え瘀血(おけつ)を散らし,ガスを下げるとされ,高い所から落ちてけがをしたときや喉痺(こうひ)の治療に服用し,やけどやはれものには塗った。風痺にはいって焦がし,煙が消えたら酒に入れて飲む。いり大豆の粉末は,顔色をよくし気力をつける食品として愛用され,不老長寿の錠剤にも使われている。また,生のまま擦りつぶしたり,かんだりして傷口やはれものに塗った。薬用にする場合には黒大豆が珍重された。このほか北周の僧垣が著した《集験方》にはいぼの治療法として,7月7日に大豆1合でいぼの上を3回以上こすって土に埋め,葉が4枚出たらそれを南向きの家屋の東端から三つ目の流れの中に浸したあとで,熱湯をかけると消えるという呪術がある。そのほかにも,1粒の大豆の皮を除き,核の双方に文字を書いて飲む方法もある。大豆黄巻(だいずおうかん)は大豆のもやしを日にさらして乾燥したもので,原料は黒大豆に限られた。古代には丹砂や水銀,鉛やさまざまな玉石が薬用にされたので100種類以上の薬害があり,死ぬ者も多かった。大豆黄巻はその解毒に特効があるとされていたが,他の薬毒を消す場合にも用いられた。大豆豉(だいずし)はまた豉(くき)ともいい,鹹豉(かんし)と淡豉があった。《和名抄》では調味料として〈塩梅類〉に載せている。鹹豉は塩5升を加えて作る納豆に近いもので,女房言葉で〈くもじ〉とい,しょうゆやみそができる前は豉や豉汁が調味料として重要な役割を果たした。薬用には塩を入れない淡豉が,頭痛,悪寒発熱,虚労,呼吸があえぐ者,両脚の冷痛,口舌瘡,下痢などの治療や解毒に用いられた。
執筆者:


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食の医学館 「ダイズ」の解説

ダイズ

《栄養と働き》


 昔からダイズは、米、麦、アワ、キビとともに五穀(ごこく)の1つにあげられるほど日本人にとって大事な食糧源とされてきました。味噌、しょうゆ、とうふ、納豆、豆乳(とうにゅう)、湯葉(ゆば)など身近な加工食品としても知られています。
○栄養成分としての働き
 ダイズはたんぱく質、ビタミンB群が多く、「畑の肉」と呼ばれるにふさわしく栄養価の高い食品です。良質の不飽和脂肪酸を含み、動脈硬化予防や肥満をコントロールする食品でもあります。
 ダイズの脂質はその多くがリノール酸です。リノール酸は酸化されやすい脂質ですが、抗酸化作用の高いビタミンEもダイズには豊富なので安心して食べられます。また、リノール酸はコレステロールを低下させる作用があるので、脂質異常症予防にも効果が期待できます。
〈必須アミノ酸をバランスよく含有〉
 ダイズは体内で合成することのできない必須(ひっす)アミノ酸をバランスよく含んでおり、アミノ酸スコアは100と高い数値を示しています。体内利用率の高さは動物性たんぱく質と同等です。たんぱく質は筋肉や細胞の素となる栄養素ですから、健康を保つために欠かせないものですが、その摂取を肉類にばかりたよっていては脂肪のとりすぎになりかねません。ダイズはそうした心配もなく、良質なたんぱく質をとることができるため、最近では肉食中心の米国でも栄養価が注目されています。
 精白米に不足しているリジンというアミノ酸が補えるので、ご飯に味噌汁、といった伝統的な朝ご飯は、理にかなった組み合わせといえるのです。
 良質なたんぱく質とともに、ダイズの成分で重要な働きをするのがサポニンです。新鮮なダイズにはにがみや渋みがありますが、これはサポニンという物質のためです。
 サポニンのサポとは「泡のたつもの」を意味していて、水を加えて振ると泡立つ性質をもっています。ダイズを煮たときにでる泡に含まれているのがサポニンなのです。
 サポニンは体内で脂質の酸化を抑制し、過酸化脂質を低下させるので、血栓(けっせん)や動脈硬化の予防に効果があります。
 動脈硬化を予防する働きとしては、ほかに植物ステロールと呼ばれる物質も含まれています。これは小腸からコレステロールよりも先に吸収されて、その吸収を妨害することから、動脈硬化を防ぐのに役立つといわれているのです。
 また、腸から吸収されたブドウ糖が脂肪に変化するのを抑制する働きもあるので、常食すると肥満防止にも効果的だといわれています。
 カルシウムも豊富に含んでいるので骨を強化し、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)予防にも有効です。
〈女性ホルモンに似た働きをするイソフラボンが更年期障害を緩和〉
 ダイズにはがんの抑制効果が高いといわれるイソフラボンも含まれています。イソフラボンは体内で女性ホルモンに似た働きをするため、乳腺や卵巣(らんそう)、前立腺(ぜんりつせん)といった器官に働きかけます。
 ダイズの摂取量の少ない欧米人は前立腺がんにかかりやすく、ほかの臓器に転移して死に至るケースが多いのですが、日本人男性の場合、そうしたケースが少ないのは、このイソフラボンが作用しているといわれています。
 女性にとっては、閉経後の高血圧や脂質異常症、骨粗鬆症、顔のほてりなど更年期障害を緩和してくれる成分でもあります。
 また、米国の健康医療機関が1998年に行った研究では、ダイズのイソフラボンを定期的にとると、コレステロール値が10%低下するという結果を得ているといいます。
 ほかに、リン脂質の一種であるレシチンも含んでいます。レシチンは脳内の情報伝達物質を活性化するので、ぼけ防止や記憶力・集中力の強化にも役立ちます。
 そして、最近ではオリゴ糖の存在も注目されています。オリゴ糖は消化されずに大腸に達してビフィズス菌を増殖させるので、腸内環境を正常にして便秘(べんぴ)を改善します。

《調理のポイント》


 生のダイズには、消化酵素を阻害する働きをもつ物質が含まれているため、消化されにくいのが難点。ダイズを調理するときは、ひと晩、水につけて十分に吸水させ、しっかり加熱することが大事です。
 その際は、豆の量の3倍の水に対して1%の塩水に豆をつけ、吸水させます。つけ汁には栄養分が流出しているので、捨てずに煮汁に加えるといいでしょう。
 ダイズを煮るときは、煮上がったときのかたさや形にバラつきがないよう、火を均一に回すようにするのがポイントです。火を均一に回すには、鍋の底にタケノコの皮やササの葉を敷くとよいといわれています。コンブや野菜といっしょに煮ても同様の効果があります。栄養面のバランスを考えると、コンブといっしょに煮るのがおすすめです。
 胃腸が弱い人や高齢者には、すりつぶして調理するといいでしょう。とうふ、厚揚げ、凍りどうふなどの加工品を利用するのもおすすめです。
 調理の際には、ダイズに不足しているカロテン、ビタミンCが補えるよう、緑黄色野菜、柑橘類(かんきつるい)などと組み合わせて摂取するとバランスがとれます。
 乾物のダイズを選ぶときは、色が冴えていて、皮に張りがあり、粒の揃(そろ)ったものが良品です。ダイズは湿気をきらい、虫がつきやすいので、密閉容器に入れて冷暗所で保存しましょう。
 栄養価の高いダイズですが、アレルゲン物質を含むので、アトピー性皮膚炎やぜんそくの人は摂取の際に注意が必要です。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「ダイズ」の解説

ダイズ

 [Glycine max].マメ目マメ科ダイズ属の一年生植物の種子.タンパク質を主たる貯蔵物質とするマメで,タンパク質の栄養価もよい.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のダイズの言及

【豆】より

…種子はまた,胚乳が退化し,かわりに発達した子葉に養分を貯蔵する。豆のこの養分は,人間が多く食用とするデンプンだけでなく,ダイズやラッカセイのように油脂やタンパク質を多く含有している場合がある(表)。 マメ科植物の種子には,しばしば硬い種皮があるか,養分を貯蔵している子葉が硬質だったりし,また貯蔵物質の特性とも相まって,人間が,そのまま食べるには消化吸収のしにくいものになっている。…

【油料作物】より

…ナタネ,ゴマ,トウゴマ,エゴマ,ラッカセイ,オリーブ,ダイズなど,油の採取を目的として栽培される作物。作物分類では工芸作物に含まれる。…

※「ダイズ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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