チェス(読み)ちぇす(英語表記)chess

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精選版 日本国語大辞典 「チェス」の意味・読み・例文・類語

チェス

〘名〙 (chess) 二人で行なう盤上競技の一種。盤は縦・横とも八列の市松模様で、白・黒各一六個合計三二個の駒を配置する。ルールは将棋とほぼ同じだが、取った駒を再び使うことはできない。西洋将棋
風俗画報‐二三九号(1901)喫煙室「遊戯の種類は、西洋双六(バックガンモン)、西洋将棋(チェース)

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デジタル大辞泉 「チェス」の意味・読み・例文・類語

チェス(chess)

西洋将棋。白・黒16個ずつの駒(キングクイーンビショップナイトルークポーン)を市松模様の盤に並べ、交互に動かして相手のキングを詰めるゲーム

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「チェス」の意味・わかりやすい解説

チェス
ちぇす
chess

2人で行う盤上競技の一種。西洋将棋ともいう。古代インドに発祥したチャチュランガchaturangaがヨーロッパに伝えられ、徐々に変形し、15世紀に現行国際ルールが確立された。チェスの語源はペルシア語シャー(王の意)。ドイツ語でシャッハSchach、フランス語でエシェックéchecs、ロシア語でシャーフマトゥイшахматы/shahmatïという。

 国際チェス連盟(FIDE(フィデ)、本部はスイスローザンヌ)は1924年に創立され、現在日本も含め加盟157か国(1998)。年1回のチャンピオン決定戦(1998年までは2年ごと)と、2年ごとのチェス・オリンピックが行われる。国際通信チェス連盟(ICCF、本部ドイツ)は日本も含め加盟約110か国で、国対抗郵便チェス・オリンピアードなどを主催する。古来、王侯貴族の遊びであったが、現在では数億の競技人口をもつ頭脳スポーツとして普及している。

 また、コンピュータ・チェスが1970年代ごろから発達し、1997年にはIBM社のチェス専用マシン「ディープ・ブルー」が世界チャンピオンの一人であるロシアのガルリ・カスパロフを破って世界中の話題となった。

[東 公平]

世界の概況

チェスの世界チャンピオンは歴代13人中7人が旧ソ連人であり、国対抗のチェス・オリンピックでも旧ソ連圏諸国が圧倒的にリードしていた。東ヨーロッパ諸国がこれに次ぎ、北ヨーロッパ、北アメリカ、南アメリカ、西ヨーロッパにも強豪が点在する。東南アジアアラブなどの古い国には、その地域固有のチェスが残っており、ルールがそれぞれ異なっている。なお中国で流行している象棋(シャンチー)は、チェスとも日本将棋とも違う独特の形態だが、王を詰めるという目的だけは、いずれも共通している。

[東 公平]

日本の概況

チェスの日本への伝来の時期については明確な証拠はないが、江戸時代と推定される。明治に入ると将棋の小野五平名人ら、一部の上流階級の間で行われた記録がある。流行をみせたのは第二次世界大戦後で、そのころは坂口允彦(のぶひこ)将棋九段を中心とした日本チェス連盟があった。1968年(昭和43)には日本チェス協会(JCA)が結成され、国際チェス連盟に加盟、初めて世界選手権大会に代表選手を送るなど本格的発展の緒についた。

[東 公平]

用具と競技方法

盤は正方形で大きさに制限はなく、濃淡(黒白と通称する)の市松(いちまつ)模様で、8×8の64枡(ます)である。右手前に白枡がくるように置く。駒(こま)は木、象牙(ぞうげ)、石などでつくられた立体の人形状で、白黒各16、計32個。図Aのように枡目の中に並べ、白が先手で1手ずつ交互に駒を動かし、先に相手のキングを捕らえた(詰ませた)者の勝ちである。

[東 公平]

駒の動かし方

キングは周囲8か所へ1歩ずつ動ける(図B(1)の右)。クイーンは縦・横・斜めにいくつでも動ける(図B(1)の左)。ルークは縦・横にいくつでも(図B(2)の右)、ビショップは斜めにいくつでも動ける(図B(3)の右)が、クイーン、ルークとともに、ほかの駒を飛び越えてはならない。ナイトは将棋の桂馬(けいま)のように八方に動き(図B(2)の左)、駒を飛び越してもよい。ポーンは原則として1歩前進だけだが、初めに並べられた位置から出るときに限り2歩前進(図B(3)の左)も許される。駒の性能は原則として不変だが、ポーンに限り相手陣の1段目に達すると同時にキング以外の望みの駒に変化する(成る)ことができる。通常、もっとも強力なクイーンに成るが、この際、盤上に本来のクイーンがあってもかまわず、新たなクイーンであることを目印で示せばよい。

[東 公平]

駒の取り方

動かそうとする駒の行き先に相手の駒があれば、その位置まで進めて、相手の駒を盤から取り除く。取り除かれた駒は終わりまで使用できない(ポーンが成った場合の代替駒として再使用するだけ)。ただし、ポーンに限り、動き方と取り方が異なり(図Cの右)、取るときは斜め前に1歩進んで取る。したがって、ポーンの直前の枡に他の駒(敵味方を問わず)があると、そのポーンは、斜め前に相手の駒がこない限り動くことができない。

[東 公平]

チェックとチェックメイト

次に相手のキングが取れる状態(図Cの左2例)をチェックcheckという。チェックをかけられた競技者は、かならず防御を施してキングを取られないようにする。それが不可能であるときはチェックメイトcheckmate(詰み)で、負けである(図Dの上2例)。もし誤ってチェックの解消を怠っても、相手方はキングを「取る」ことはできず、元の局面に戻して、チェックの防御をすることを許す。

[東 公平]

反則とその処置

味方の駒に手を触れた場合、その人の番であればその駒を動かす義務が生じる。また相手の駒に触れた場合も、その駒を取らなくてはならない。ただし、上が不可能であればなんら罰則は適用されない。最初の駒の配置が誤っていたり、途中でルールに反した駒の動きがあり、しかも元の状態に復原できないときは、そのゲームは無効である。

[東 公平]

特殊ルール・その他

〔1〕キャスリングcastling(入城) キングと、いずれか一方のルークとの間に駒がなくなったとき、1手で「キングを2間右(または左)へ動かし、ルークをその内側へ動かす」こと(図Dの下)ができる。ただし、この手は、(1)キングもルークもまだ動いたことがなく、(2)現在チェックをかけられておらず、(3)キングの通路に相手駒のきき道が通っていないときに限り許される。

〔2〕アンパッサンcapturing en passant(通過取り) 一方のポーン(白)が5段目まで前進し、他方のポーン(黒)が2歩前進して横に並んだとき(図Eの上左)、「相手のポーンが1歩前進したときと同じ形で」白ポーンは斜めに前進して、黒ポーンを取ることが許される。これは並んだ直後に取らなければ権利を失うが、取るのは任意である。

〔3〕ドローdraw(引き分け) 次の場合そのゲームはドローになり、0.5勝と計算する。(1)互いにキングだけになったとき、(2)互いにチェックメイトに十分な兵力がなくなったとき、(3)まったく同じ局面が1局に三度現れ、対局者の一方がドローを申し立てたとき(千日手(せんにちて))、(4)双方の見通しが一致して引き分けを認め合ったとき、(5)50手の間、互いに駒が取られず、ポーンも動かなかったとき(50手ルール)。

 なお、チェスでは白・黒各1回の動きを1手という。公式戦ではチェス・クロック(特別な時計)を使用し、一定の手数を一定の時間内に指し終わらなければ時間切れの負けになる。

〔4〕ステールメイトstalemate(手詰まり) 一方が現在チェックをかけられていないにもかかわらず、次に指す手がない、すなわち指せばキングを取られる状態にあるときはステールメイトと称して引き分けになる(図Eの下はその例)。

[東 公平]

チェスの階級

世界チャンピオンに次いでグランドマスター、インターナショナルマスターの称号があり、競技成績を考課して国際チェス連盟が公認する。その次に各国のチェス団体が認可するナショナルマスター、エキスパートなどの階級があるが、国により水準も名称もまちまちである。

[東 公平]

『坂口允彦著『チェス』(1961・誠文堂新光社)』『東公平著『ヒガシコウヘイのチェス入門』(1975・河出書房新社)』『有田謙二著『チェスの定跡と戦い方』(1980・河出書房新社)』『ジャック・ピノー著『ジャック・ピノーのダイナミックチェス入門』(1995・山海堂)』『渡井美代子著『図解チェス―必勝の手筋』(1997・日東書院)』


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改訂新版 世界大百科事典 「チェス」の意味・わかりやすい解説

チェス
chess

2人で行う盤上ゲームの一種。日本の将棋や中国の象棋と源を同じくするといわれ,西洋将棋とも呼ばれる。チェスの起源は,前3世紀ころからインド北西部で行われていたチャトランガという戦争ゲームで,4人で行われたと考えられている。これが6世紀ころペルシアへ,そしてアラビアやビザンティン帝国を経て,9~10世紀ころ西ヨーロッパへ伝わった。チェス(ドイツ語Schach,フランス語échecs)の語源はペルシア語でシャー(王)のこと,チェックメート(王手)もペルシア語に由来する。中世を通じてチェスは愛好され,15世紀末には現在のチェスが確立した。18~19世紀になると,それまでの宮廷・貴族の遊びとしての色彩が薄れ,市民階層の間に広まり,急速な発展をみせ,20世紀に入ると世界的規模で普及した。史上,アメリカのモーフィーPaul Morphy(1837-84),キューバのカパブランカJosé Raúl Capablanca(1888-1947),ロシア出身フランス人のアレキンAlexander Alekhine(1892-1946),アメリカのフィッシャーRobert James(Bobby)Fischer(1943-2008)らの天才が名高い。

 1924年に世界チェス連盟Fédération internationale des échecs(FIDE)が設立され,加盟国は日本を含め119ヵ国に達する(1983)。FIDEが主催する最大の行事として,2年に1度の国別対抗団体戦(チェスオリンピック)と,3年に1度の世界選手権(世界チャンピオン決定戦)がある。団体戦,個人戦とも,第2次大戦後はほとんどソ連(のちロシア)が独占している。FIDEは国際競技会で規定の成績を取得した者に対して,グランドマスター,インターナショナルマスター,FIDEマスターの称号を与えている。これは将棋や碁の段位に近い意味をもつ。郵便によるチェスも盛んで,国際通信チェス連盟International Correspondence Chess Federation(ICCF)が1927年に結成され,日本を含め111ヵ国(1983)が加盟している。

 日本へのチェスの伝来時期は定かではないが,江戸時代末と推定される。1869年(明治2)にすでに入門書が出されている。明治時代に将棋の小野五平名人ら一部上流階級で行われていたという事実や,1933年に当時の世界チャンピオン,アレキンが来日して目隠し同時対局を行ったという記録がある。第2次大戦後いくつかのクラブが結成され,68年日本チェス協会となってFIDEに加盟,69年以後チェスオリンピックに参加している。

盤は正方形で,市松模様の縦8×横8の濃淡(黒,白と通称)64の升目からなる。手前右隅に白升がくるように置く。駒は木,象牙,石などで作られた立体の人形状で濃淡(黒白)各16個ずつ計32個を用いる。競技者は一方が白側を,他方が黒側をもつ。駒は図1のように並べ,白側が先手で,以下交互に駒を動かし,先に相手のキングを捕獲したものが勝ちとなる。駒の呼び名は言語によって異なり,形状との関係は明確ではない。ここでは英語を用いる。

駒は升目から升目に動かす。一つの升目に複数の駒を同時に存在させてはならない。図2のように〈キングking〉は周囲8ヵ所,任意の升目に1歩だけ動く。〈ルークrook〉は縦横に,〈ビショップbishop〉は斜めに,〈クイーンqueen〉は縦横斜めに,それぞれいくつでも動けるが,他の駒をとび越えてはならない。〈ナイトknight〉は将棋の桂馬の性能を8方向に拡大した動き方をし,駒をとび越すことができる。以上の駒は,動かそうとする行先に相手の駒があれば,その位置まで進めて相手の駒を盤から取り除く。チェスでは捕獲されて取り除かれた駒は,将棋とちがい再使用できない。〈ポーンpawn〉は原則として1歩だけ前進するが,初めに並べられた位置から動くときに限り2歩前進してもよい。この場合他の駒をとび越えてはならない。ポーンは他の駒と異なり,相手の駒を取るときは斜め前に1歩進んで取る。したがってポーンの直前の升に他の駒(敵味方を問わず)があると,斜め前に相手駒がこないかぎり動くことができない。

(1)ポーンの昇格 ポーンは相手陣の1段目(最終段)に達すると,クイーン,ルーク,ビショップ,ナイトのどれかの駒に成らなければいけない。通常,最も強力なクイーンに成る。(2)キャッスリングcastling キングといずれか一方のルークとの間に駒がないとき,1手でキングとルークを動かすことができる。すなわち,キングを2升ルーク側へ動かし,ルークをキングの内側に隣接させて置く(図3)。この特殊な動きは,(a)キングもルークも1度も動いてなく,(b)現在チェックがかかってなく,(c)キングの通路2升に相手駒のききがないとき,のみ許される。(3)アンパッサンen passant capture(通過捕獲) ポーンが5段目まで前進しているとき,相手のポーンが一度に2歩前進して並んだ場合に,相手ポーンが1歩だけ前進したとみなし,そのポーンを取ることが許される(図4)。これは並んだ直後に取らなければ権利を失う。

(1)チェックcheck 次に相手のキングが取れる状態をいう。チェックをかけられた側は,必ず次の指し手で防御を施しキングを取られないようにしなければならない。相手キングにチェックをかけ,チェックの解消が不可能ならチェックメートcheckmate(詰み)で勝ちである。相手が投了の意思表示をした場合も勝ちである(図5)。(2)引分けdraw 次のどれかに該当する場合,そのゲームは引分けとなり通常0.5勝と計算する。(a)互いにチェックメートに必要な兵力がなくなったとき,(b)同じ形の局面(手番も同じ)が3度現れ,一方が申し出たとき,(c)双方が合意したとき,(d)原則として連続50手(白黒各1回の動きを合わせて1手という)の間,互いに駒が取られずポーンも動かなかったとき,(e)手番の側がチェックされておらずかつ動かす駒がないときで,ステールメートstalemateという(図6)。

競技者が自分の手番のときに駒に触った場合,最初に触った駒が自分の駒であればその駒を動かさなければならない。またそれが相手の駒であれば取らねばならない。不可能であればこの義務は適用されない。チェックの解消を怠った場合,相手はキングを取ることはできず,元の局面に戻して上記の義務にのっとってチェックを解消することが許される。正式でない着手がなされた場合,その直前の局面に戻してゲームを続行するが,元の状態に復元できないときや最初の駒の配置が誤っていた場合は,初めから新たに指し直す。
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百科事典マイペディア 「チェス」の意味・わかりやすい解説

チェス

日本では西洋将棋とも呼ばれる。2人で行う室内遊戯。白黒各16個の駒を8×8目の白黒市松模様の盤に並べ,相手のキングを先にチェックメート(詰み)にしたほうが勝ち。前3世紀ころのインドが発祥地で,東に渡って将棋に,西に移ってチェスになった。捕獲され取り除かれた駒が再使用できない点で,将棋と異なる。現行ルールは15世紀末に定まり,現在では世界チェス連盟(本部スウェーデン)のもとに約120ヵ国が加入している。
→関連項目チェッカー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チェス」の意味・わかりやすい解説

チェス
Chess

2人で行う盤上ゲームの一種。6世紀にインドのヒンドゥスターン地方に起ったチャトゥランガがその起源とされる。その後ペルシア,アラビアを経て西ヨーロッパに伝わり,現在ではアメリカをはじめアジア各地でも行われている最も愛好者の多いゲームとなった。日本には明治時代以降,主として海外に留学した軍人や医師を通じて紹介され,1968年日本チェス協会結成後大衆化した。ゲームは8×8路の白黒に塗り分けたチェス盤に双方 16個ずつの駒を配置し,交互に1手ずつ動かしながら進められる。一方が相手のキングをチェックメイト (キングがチェックから逃れられない状態) することにより勝負が決するが,双方に勝ちのない場合は和局 (引分け) となる。

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デジタル大辞泉プラス 「チェス」の解説

チェス

1986年初演のミュージカル。原題《Chess》。脚本:リチャード・ネルソン、作詞:ティム・ライス、作曲ベニー・アンダーソン、ビョルン・ウルバース。スウェーデンのポップグループABBAのメンバーが関わったことで知られる。米ソ冷戦下におけるチェスプレーヤーの愛と戦いを描く。日本でも2012年にコンサート形式、2015年にミュージカル形式で初演。「チェス・ザ・ミュージカル」とも。

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