日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
テクノロジー・アセスメント
てくのろじーあせすめんと
technology assessment
急速に進歩・発展する技術が周りの自然環境・人類社会にどのような影響を与えるかを事前に検討評価し、とくにマイナス要因については事前の予測に基づき、まえもって対処する考え方、技術をいう。
テクノロジー・アセスメントは、1967年にアメリカ議会下院にこのことばを冠した法案が提出されてから注目されるようになった。日本でテクノロジー・アセスメントがしきりといわれるようになるのは1970年代に入ってからであるが、これは公害の問題と非常に深く関連している。1960年代からの高度経済成長政策の下であらゆる産業分野は技術革新を推進し、生産性向上を追求したが、その激しい矛盾の一つとして公害という事態が生じた。水俣(みなまた)病、イタイイタイ病、大気汚染による喘息(ぜんそく)などの被害が大都市・工業都市などを中心に広がり、全国的な規模で公害反対の運動が強まった。こうした状況のなかで行政の責任も追及されるようになり、政府・企業の対応として科学技術庁(現、文部科学省)・通商産業省(現、経済産業省)が中心になって「テクノロジー・アセスメント」を提案するようになった。1969年(昭和44)に日本からアメリカに派遣された環境問題についての調査団がテクノロジー・アセスメントの考え方を仕入れてきたのである。そして1970年に科学技術会議(現、総合科学技術会議)が「1970年代における科学技術政策」を提案、このなかにテクノロジー・アセスメントということばと考え方が取り入れられた。
本来、テクノロジー・アセスメントというのは、いかなる社会であろうとも人類全体が健全な生活を送り社会的にも発展していく、という点が評価の中心でなければならず、企業や一部の人にとってのものであってはならない。その場限りのものでなく、長期的な展望を含めて、真に科学的な根拠に裏づけられたものでなければならず、具体的な事例研究も進められている。また住みやすい環境の維持・発展のためには、いかに政策が出されようとも、国民全体の生活・環境に対する絶えざる関心が重要であり、公害に対する厳しい監視の目ももち続けなければならない。たとえば、自動車の排気ガス規制は一定の規制がされたもののその後は進展せず、運動が弱まると自動車にとどまらず、公害全体に関する研究体制までも弱体化するという現実は、そのことを物語っている。
[雀部 晶]