ドイツの修道者,宗教思想家。ライン川下流地方ケンペンに生まれ,デーフェンターの共同生活兄弟会の学校で学び,1399年,15歳年長の兄ヨハネスが院長であったアウグスティヌス参事会の修道院に入る。1413年司祭となり,その長い生涯を同修道院のなかで送った。今日なお論争の最終的結着はついていないが,彼が《イミタティオ・クリスティ》の著者であることはほぼ確実視されている。すなわち,彼が書きのこした多くの信心生活に関する論考のうち,四つが一つにまとめられ,この表題の下に後世に伝えられたと推定される。これら信心的著作のほか,〈新しい信心Devotio moderna〉の創始者G.フローテ,その後継者であり,彼自身教えを受けたラーデウェインスFlorentius Radewijnsの伝記,所属した修道院の歴史なども書いており,〈新しい信心〉のもっとも完全で,卓越した代表者とみなされている。
執筆者:稲垣 良典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…聖書に次いで愛読されてきたといわれる,キリスト教的信心の名著。著者についてはかつて盛んな論争があったが,トマス・ア・ケンピス(1380ころ‐1471)の作とされる。彼はデュッセルドルフ近くのケンペン生れ,12歳でG.フローテが初代キリスト信者の生き方にならって創立した〈共同生活兄弟会〉に入る。…
…ペトラルカもその賛歌のほか,《世界の侮蔑について》その他の教論をもっている。しかし宗教的という点でさらに注目すべく,現代まで深い影響を与えているのは,ライン地方ケンペン出身の一修道士トマス・ア・ケンピスの信仰表白とされる《イミタティオ・クリスティ》で,世の煩いを避けキリストに安心を求めるその堅信と謙虚とは,多くの愛読者をもっている。なお,世俗化が進むとはいえ,近世以降のキリスト教文化圏における文学的営為をも,広く〈キリスト教文学〉と考えることができよう。…
…これは〈新しき信心Devotio moderna〉と呼ばれる彼の求道心にのっとり,聖書に従って敬虔な共同生活を営む平信徒の教団で,書籍の筆写や教育活動によってその生活を支えた。この宗教運動はネーデルラント一円とドイツに広まり,やがてトマス・ア・ケンピスら著名な神秘思想家,人文主義者を輩出するウィンデスヘイム修道会(ラーデウェインスらが1387年,ズウォレ南郊に設立)は,いわばその一大結晶であった。【川口 博】。…
※「トマスアケンピス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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