トリコモナス症(トリコモナス膣炎)

内科学 第10版 の解説

トリコモナス症(トリコモナス膣炎)(原虫疾患)

定義
 膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)による泌尿生殖系の感染症である.異性間の性行為により感染伝播する性感染症(sexually transmitted diseases)である.
原因・病因
 赤痢アメーバやジアルジアと同様に嫌気的原生生物であり,ATP合成を酸化的リン酸化に依存しない.一方,赤痢アメーバやジアルジアと異なり,囊子のような宿主外の分化型をもたず,栄養型(trophozoite)およびアメーバ様型(ameboid form)のみみられる.栄養型は洋梨状で,体前部にlつの核があり,数本の前鞭毛および1本の後鞭毛をもつ.
疫学
 世界中に分布し,特に発展途上国で感染率が高い.調査対象・地域などにより異なるが,感染率は一般に数%から数十%にも達する.売春婦(commercial sex worker),妊婦での感染率がより高い.また,HIVの感染者で感染率が高い.逆にトリコモナス症に罹患している患者はHIV感染のリスクが高いとされる.またカンジダ症・淋病・梅毒・HIVなどのほかのSTDとの混合感染が多い.
病理・病態
 女性の尿道,膣,膀胱,子宮頸管,Bartholin腺に感染し,粘膜炎症を起こす.感染は粘膜にとどまり組織侵入性はない.男性では尿道,膀胱,前立腺,精路への感染が起こることがある.
臨床症状
 通常女性のみが症状を示す.最も多い感染部位は尿道および膣であり,膣炎・子宮頸管炎・尿道炎といった症状を呈する.悪臭の強い膿性・泡沫状の帯下の増加,外陰部瘙痒感・灼熱感をもたらすことが多いが,症状を示さないことも多い.男性が感染した場合,自覚症状を示さないことが多いが,排尿・射精時に軽いかゆみ・痛みを示すことがある.
診断・鑑別診断
 膣から採取された粘液・分泌液を直接鏡検し,運動する虫体を検出する.男性の場合,尿沈渣や前立腺分泌物を用いる.Giemsa染色などを用いた固定染色も有用である.鑑別診断としては細菌性膣炎,膣カンジダ症,ヘルペス膣炎,非特異性膣炎,老人性膣炎,萎縮性膣炎が重要である.
治療
 治療には通常メトロニダゾール(500 mg/日,分2,10日経口投与)またはチニダゾール(400 mg/日,分2,7日経口投与)を用いる.内服に加えて膣剤を併用する場合もある.セックスパートナーも同時に治療する.
予防
 不特定のパートナーとの性行為を避ける,コンドームを使用する.[野崎智義]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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