肉質鞭毛(べんもう)虫門鞭毛虫亜門動物性鞭毛虫綱キネトプラスト目トリパノソーマ亜目の1属Trypanosomaで、単細胞性寄生動物。普通、脊椎(せきつい)動物と無脊椎動物の二つの宿主をもち、前者では血流中にトリポマステゴート型虫体で寄生するが、ある種のものでは、細胞内で球形無鞭毛のアマステゴート型虫体になるものもある。無脊椎動物宿主の大部分がツェツェバエ、サシガメ、アブなどの吸血性昆虫で、吸血によってその体内に入ったトリポマステゴートは、消化系内で変態してエピマステゴート型となり、増殖して個体数を増し、ふたたびトリポマステゴート型となって、次の吸血時にそれらは脊椎動物宿主に送り込まれて伝播(でんぱ)の役を果たす。もっとも目だつトリポマステゴート型虫体は、細長い柳葉状で体長10~70マイクロメートル、体中央部に1個の核と、体後端付近に1個のキネトプラストがあり、後者の近くからは1本の鞭毛が体側に沿って前方へ伸び、本体と鞭毛の間には波動膜が張られている。鞭毛は体前端では遊離して自由鞭毛となっている。縦割り二分裂または多分裂で増殖。脊椎動物に広く寄生し、300種以上が知られているが、アフリカ睡眠病の病原体T. gambienseやT. rhodesiense、シャーガス病の病原体T. cruziなどは医学上、またウシやシカに被害を与えるT. theileriや、ウマの生殖器に炎症をおこすT. equiperdumなどは獣医学上とくに重要である。治療薬には、フラミン、ペンタミジン、ベンツニダゾールや、ニトロフラン剤「ニフルティモックス」などが有効である。
[小山 力]
鞭毛虫類に属する原虫の1属。長さ10~30μmで,細長い両端がとがった形をしていて,体のほぼ中央に核を1個もつ。1本の鞭毛が体に沿って走っていて,鞭毛と体表との間には波動膜と呼ばれる膜が形成される。鞭毛の端は,体表を離れて遊離鞭毛となる。トリパノソーマには多数の種類があるが,ヒトの血液や組織に寄生して病原性をもつものは数種である。トリパノソーマ・ガンビエンセT.gambienseおよびトリパノソーマ・ローデシエンセT.rhodesienseは,アフリカ睡眠病の病原体である。アフリカ睡眠病はツェツェバエによって媒介され,トリパノソーマ感染動物(ライオン,ハイエナ,ウシなど)をツェツェバエが吸血してトリパノソーマを取り込み,次いでヒトを感染させる。トリパノソーマ・クルジT.cruziは,南アメリカ,中央アメリカにみられるアメリカトリパノソーマ症(発見者にちなんでシャガス病Chagas' diseaseとも呼ばれる)の病原体で,媒介動物はサシガメ科の昆虫であり,病原体保有動物はアルマジロ,イヌ,ネコ,コウモリなどである。
執筆者:川口 啓明
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