トルエン中毒

内科学 第10版 「トルエン中毒」の解説

トルエン中毒(有機物質中毒)

(2)トルエン中毒(toluene poisoning)
定義・概念
 トルエンシンナーや塗料などの主成分で,接着剤マニキュア,染み抜きなどにも広く使用されている.高濃度の蒸気を吸入すると麻酔作用,幻覚が現れるためシンナー遊びに好んで用いられる.
病理
 大脳小脳脳幹部の白質,視神経が主として障害され,神経線維の脱髄を生じる.神経細胞の脱落もみられる.
病態生理
 吸入後,脂肪に富む中枢神経骨髄副腎などに高濃度に集積する.体内で代謝されて馬尿酸クレゾールに変わり,大半は尿中から排泄される.
臨床症状
1)精神神経症状:
頭痛めまい感,不眠,認知・記憶障害,興奮,幻覚,嗜眠傾向,痙攣,昏睡,構音障害,小脳失調,眼振,視力障害,筋力低下,四肢麻痺,四肢末梢の異常感覚(ポリニューロパチー).
2)消化器症状:
悪心・嘔吐,腹痛,経口摂取の場合は下痢,血便.
3)循環器症状:
血圧上昇,または低下,不整脈.
検査成績
①進行例では頭部CT,MRIにて大脳・小脳・脳幹のびまん性萎縮,脳室拡大,脳室周辺部白質や内包(後脚)の信号密度の増強をみる.②脳波の徐波化,視覚誘発電位VEP)・聴性脳幹反応(ABR)において潜時延長がしばしばみられる.③トルエンの代謝産物の馬尿酸が尿中で増加する(正常50 ppm以下).
治療・経過・予後
 トルエンへの暴露を回避することにより徐々に回復するが,重症例では後遺症を残す.対症療法が主体になる.あわせてリハビリテーションを行う.[内野 誠]

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トルエン中毒」の意味・わかりやすい解説

トルエン中毒
とるえんちゅうどく

トルエンによる中毒。トルエンは代表的な有機溶剤の一つで、ラッカー、シンナー、接着剤の主成分として広く用いられている。高濃度のトルエン蒸気を吸入すると、中枢神経の抑制による麻酔作用が現れる。繰り返して暴露すると、疲労感、頭痛、めまい、不眠、精神不安定、食欲不振、吐き気などの症状がみられる。また、シンナー遊びのような薬物依存性が生じる。労働衛生上の許容濃度は100ppmである。

[重田定義]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トルエン中毒」の意味・わかりやすい解説

トルエン中毒
トルエンちゅうどく
toluene poisoning

トルエンはシンナーの主成分で,有機溶剤その他に用いられている。芳香をもつ無色,可燃性の液体で,気道や皮膚を経て体内に吸収される。中枢神経抑制作用があるので,酩酊感や幻覚などが現れる。高濃度の中毒では,麻酔作用,粘膜刺激作用がみられる。慢性中毒では,疲労感,めまい,頭痛,不眠,食欲不振,吐き気,精神不安定などが出現する。

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