日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドロステ・ヒュルスホフ」の意味・わかりやすい解説
ドロステ・ヒュルスホフ
どろすてひゅるすほふ
Annette von Droste-Hülshoff
(1797―1848)
ドイツの女流詩人。ウェストファーレンの古い貴族の家に生まれ、読書や知識人との交友で教養を積み、文筆活動に入る。病苦と周囲の無理解に耐え、時流を超える独自の詩作を続け、ボーデン湖畔のメールスブルクで孤独な生涯を閉じた。懐疑と不安に襲われながら、信仰の苦悩を披瀝(ひれき)する死後刊行の宗教詩『宗教の一年』(1851)が代表作。現象の奥に神秘的な力の支配を予感させる自然詩やバラードは、きわめて高い芸術的完成度を示している。故郷の犯罪事件に取材した短編小説『ユダヤ人の橅(ぶな)』(1842)は、犯罪の心理的、社会的要因を克明につく反面、人知を超える魔的な力や神の摂理が暗示され、キリスト教的寛容を訴える作者の敬虔(けいけん)な意図がうかがわれる。
[杉本正哉]
『番匠谷英一訳『ユダヤ人の橅の木』(岩波文庫)』