知恵蔵 「ニホンウナギ」の解説
ニホンウナギ
ウナギ目の仲間は、アナゴ類、ウツボ類などほとんどの種が海洋性で、ウナギ類も成魚は淡水域や汽水域に生息するが、産卵時には海に回遊する。孵化(ふか)後は、ウナギ目に特徴的なレプトケファルス(葉形幼生)と呼ばれる幼生になる。
レプトケファルスは、柳の葉のような体型で、海流にのって長距離を運ばれるのに適している。生後3~4カ月たつと透明なウナギの稚魚、いわゆるシラスウナギに変態する。この時、体長は数ミリメートル縮んで、成魚に似た細長い体型となり、胸びれやウロコ、採食に適した口などが発達する。シラスウナギは河川や湖に遡上(そじょう)し、5~10年を淡水域で過ごすうちに成魚となり、産卵のために海に降りる。なお、ニホンウナギの養殖には、回遊中のシラスウナギを捕獲して用いている。
これまで、ウナギ類の産卵場所、産卵時期は正確に特定されておらず、古代ギリシャのアリストテレスが著書「動物誌」の中で「ウナギは泥の中から自然発生する」と書いて以来、2000年にわたる謎とされてきた。ニホンウナギの生態は、1973年に東京大学海洋研究所(現・東京大学大気海洋研究所)の研究船「白鳳(はくほう)丸」によって、本格的なウナギ産卵場調査が行われたのを始まりに研究が続けられ、91年には、マリアナ諸島西方海域で体長約10 ミリメートルのレプトケファルス約1000尾が採集されたことにより、産卵場はほぼ特定されていた。また耳石を使って日齢を解析した結果から、産卵は各月の新月に一斉に起こるとの新月仮説が唱えられた。
2009年、新月の2日前である5月22日に、東京大学海洋研究所と水産総合研究センターの調査船団は、西マリアナ海嶺(かいれい)南端部の海山域で、直径平均1.6ミリメートルのウナギ卵 31粒を採集。遺伝子解析によりニホンウナギと確認され、産卵は新月3日前の夜間に水深約200メートル前後で行われたと推定された。天然ウナギの卵が採取されたのは世界初。09年6月には、卵が採取された海域において、精巣が発達した雄ウナギと産卵可能な卵巣を持つ雌ウナギも採取された。
この発見は、近年激減しているウナギ資源の保全管理や、養殖用稚魚の大量生産技術の開発につながると期待されている。
(葛西奈津子 フリーランスライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報