野菜などをハウスを用いて栽培すること。ハウスとは,木・竹・鉄材などで骨組みを作り,これに塩化ビニルやポリエチレンなどのフィルムをかぶせた作物栽培用の建物をいい,ガラス張りのものは温室という。機能的にはハウスと温室の間に大差はないが,温室は建設費が高く,周年的に利用して高収益をあげないと採算がとれないのに対して,ハウスは建設費が安く,1作だけの利用も可能であるという違いがある。日本では,夏は温度が高過ぎてハウスや温室の利用が難しいため,周年利用しなくても採算のとれるハウスを利用することが多い。昭和の初めころから高知県や宮崎県などでは温室の代りに油紙障子を組み立てたハウスを作ってキュウリやトマトの促成栽培を行っていたが,これが日本でハウスを利用して作物を栽培した初めである。その後,1953年に塩化ビニルフィルムが被覆資材として利用されるようになると,ハウス栽培は各地に急速に普及した。
ハウス内の温度は,晴天の日の日中には外気よりも著しく高くなる。また,昼に地中に蓄えられる熱量が露地に比べて多いので,夜温もいくらか高くなる。したがって,夜間に加温すれば,厳寒期でも生育適温の高い作物を栽培することができるし,夜温がそれほど低下しない春や秋には,加温しなくても栽培が可能になる。このため,生育適温の高い野菜や花の促成栽培にハウスが広く利用されている。また,レタスやセロリのように生育適温は低いが,冬の露地栽培では品質のよいものを収穫するのが困難な種類も,近年はハウス下で栽培されている。一方,トマトやホウレンソウなどは梅雨期には病害の発生が多く栽培が難しいので,近年ではハウスによる雨よけ栽培を行い,生産の安定を図っている。このように,ハウスは保温や雨よけの施設として多用されている。ハウス栽培される作物は,露地栽培では周年生産・出荷が難しいが,需要は一年中あり,出荷量の少ない時期には価格が高騰する野菜,花,果樹(ブドウ,かんきつ類)に限られる。
ハウスでは同一の作物を繰り返し作付けすることが多いので,土壌は短期間のうちに土壌伝染性の病原菌で汚染される。このため,一作が終わったら,クロルピクリンや臭化メチルのような薬剤か蒸気で土壌を消毒することが必要である。また,耐病性をもつ近縁植物がある場合には,これを台木として接木を行うことも多い(キュウリ,メロンはカボチャに,スイカはユウガオ,カボチャに,ナスはヒラナスに接木する)。
加温を行う場合には,温風暖房機を用いることが多いが,近年では石油価格が高騰したため,地中熱を有効に利用したり,夜間の熱損失を少なくしたりして,石油の消費量を減らすことも試みられている。春になると密閉したハウス内の温度は著しく高まるので,窓をあけて換気しなければならない。しかし,初夏にとりこわしてしまう小型のハウスには窓の無いものが多く,こうしたハウスではフィルムの重ねた部分をずらして換気する。近年の大型ハウスでは換気扇を設置することが多い。
冬にハウスで加温して作ったトマトやキュウリなどは露地栽培のものに比べて味が劣るとされ,近年では,貴重な石油を使ってこのようなまずくて高い野菜を作る必要があるのかという批判も起こっている。しかし,極端な早出しや遅出し栽培に若干の問題があるとしても,野菜が不足する冬季や栽培が難しい多雨季などに比較的品質のよい野菜を供給し,価格を安定させるなど,野菜の周年供給にハウス栽培が果たしている役割を見逃すことはできない。
→施設園芸
執筆者:杉山 信男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ビニルあるいはポリエチレンなどプラスチックフィルムを用いた、いわゆるビニルハウス内で作物を栽培すること。キュウリ、トマトほか多くの野菜や花などを促成あるいは抑制栽培するため用いられる。
[星川清親]
「ビニルハウス栽培」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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